兵庫県佐用町でユーカリ植林? 杜撰な計画は見直しを!

ユーカリの大規模植林は世界各地で環境や社会に甚大な影響を与え、大問題になっている。その植林はこれまで熱帯地域が中心で、日本でユーカリ大規模植林をするという話は聞いたことがなかったのだけど、日本の兵庫県佐用町で最大東京ドーム3個分に相当する15haのユーカリ植林をするという計画が進んでいるという。
 
 ユーカリ植林になぜ世界で反対が強いかというと、ユーカリはオーストラリアの乾燥した地域で自生している分は問題ないのだが、水を吸い上げる力が極めて強い。乾燥地域ならユーカリくらいしか生きられないから問題はないのだが、そうでない地域でユーカリを大量に植えれば、水がユーカリに奪われてしまう。川の水量が激減し、湖の水が干からびたケースもある。農業は水が減るので大打撃を受ける。 “兵庫県佐用町でユーカリ植林? 杜撰な計画は見直しを!” の続きを読む

「あきたこまちR」は暑さで20〜30%減収になる?

 分子生物学者河田昌東さんが3月29日東京集会にて、OsNramp5遺伝子を破壊された稲は暑さに弱く、2割から3割の減収になったという中国の研究を3月29日東京集会で紹介されたが、この件はとても重大なものだ¹。というのも「あきたこまちR」も「コシヒカリ環1号」も重イオンビーム放射でこのOsNramp5の1塩基を破壊しているからだ。 “「あきたこまちR」は暑さで20〜30%減収になる?” の続きを読む

半世紀前のカドミウム対策のアップデートを

 反公害運動は1970年の公害国会で多大な犠牲の上に世界に先駆けて汚染企業の責任原則を法制化するという金字塔を打ち立てた。しかし、その後の政治はそれを形骸化させた。新たな汚染が進もうとする今、この意義を再確認する必要がある。
 
 イタイイタイ病患者の闘いによって、1970年、国会では「農用地の土壌汚染の防止等に関する法律」と「公害防止事業費事業者負担法」が成立し、汚染者負担原則(Polluter Pays Principle、PPP)が法制化された。汚染企業が汚染の被害からの回復の責任を取らなければならないことになった。
 しかし、政府は責任企業擁護に終始し¹、汚染の隠蔽にやっきとなる。当時食糧庁は汚染米流通に関して「流通先はすでに特定できないし、調査は消費者の不安感をあおる」としてその公表を拒んだ²。
 政府は一貫してカドミウム汚染を隠蔽して、企業責任を軽減させ、根本的汚染対策を怠ってきたと言わざるを得ない。
 畑明朗氏は以下のように断言する。
「1970年代に明らかになった金属鉱山・製錬所などによる全国の土壌汚染農地のうちで、土壌復元対策が実施されたのは、当時産米1ppm以上の指定地域のみであった。1ppm未満だが、0.4ppm以上の準汚染農地は、石灰や珪酸カルシウムなどのカドミウム吸収抑制剤や水管理により産米のカドミウム濃度を下げるという対症療法しか取られず、土壌復元などの抜本的対策をしないまま準汚染米を作り続けてきたのである。」³
 その後、1.0ppmの基準は0.4ppmに変わるが、基本姿勢は変わらなかった。政府はイタイイタイ病患者たちの闘いが繰り広げられた富山県神通川流域以外では補償もせず、お金をできるだけかけずに、そのまま汚染米の生産を続けさせた。カドミウム汚染地は全国各地に存在していたものの、鉱山や精錬所周辺に限られているのだから、その限られた地域での対策をしっかりしていれば、問題は長引くことはなかったのに。
 
 日本の農地汚染対策は1970年に基本構造が作られたまま、半世紀以上にわたってアップデートされていない。その欠陥とは何か。

  1. カドミウム、ヒ素、銅の3つの重金属だけを対象としている(他にも有害な重金属や化学物質は存在するが、それはスルー)
  2. お米だけが対象。他の作物はどうでもいい。
  3. 縦割り行政で総合的な対策ができない。農地汚染は環境省、農水省は実質、お米だけ。汚染による健康被害は厚労省。

 
 環境省の農地汚染対策事業は汚染米が出たところが対象となる。もし、汚染米がでなければその農地がカドミウムで汚染されていても、環境省は動かず、汚染米が出ないようにする努力はすべて農家の負担にされたまま放置されるだろう。もっとも、環境省が動いたとしても、やることは客土(汚染されていない土を盛る)だけ。農地の質が下がるだけで、カドミウム汚染低減にもならない。実際、農水省下の農研機構はファイトレメディエーション(植物による汚染除去)の研究にも取り組んできたが、それは汚染対策の中に位置づけられていない。縦割り行政の弊害ゆえだろう。そして、厚労省はカドミウム汚染による健康被害について十分把握すらしていない。
 現在の法律とその施行令を前提とするならば、重イオンビーム放射線育種米の導入によりいわゆる汚染米は出なくなる⁴から、環境省や農水省の仕事はなくなる。厚労省はほとんど仕事をしていないから、これで政府の関与はなくなるだろう。しかし、肝心のカドミウム汚染はちっとも減っていないのだ。そればかりか下水汚泥肥料などの活用によって、あるいは自然災害や老朽化によってカドミウムを今も蓄えている鉱滓ダムからカドミウムが漏洩することなどによってむしろカドミウム汚染が高まる可能性さえある。
 
 もっとも、行政は法律に基づくわけで、省庁はそれに粛々とやっているだけとも言える。要は、政治の停滞がこのような汚染政策の空洞化をもたらしてしまったと言わざるを得ないのだ。
 
 放射性物質やPFASなどさらに懸念すべき汚染物質は増えており、今の汚染政策を放置していれば、汚染列島化する危惧が高まる。
 
 半世紀以上にわたってアップデートされない政策を半世紀前よりも劣化した政治が作り出した誤った「解決策」こそ「コシヒカリ環1号」であり、「あきたこまちR」であるといわざるをえない。むしろ、それはカドミウム汚染を放置し、隠蔽することにつながるであろう。
 
 昨年、『神通川流域民衆史−いのち戻らず大地に爪痕深く』(能登印刷出版部)が出版されたが、そこにはイタイイタイ病患者やその家族が被った苦しみが生々しく描かれている。その痛みを抱えながらの闘いが公害国会での金字塔につながったと言えるだろう。その苦しみを形骸化させることなく、そこから学び、汚染のない(より少ない)日本にしていくための政治を作り出す必要があるのではないだろうか?
 
(1) 最大75%の費用を負担すべきとされた三井金属鉱業の負担は半減された。

(2) しかし、当時の秋田県はその国の姿勢を批判して、独自に調査して発表していた。現在の秋田県の姿勢はきわめて残念なものだが、以前の秋田県には国に対して、しっかりとものを言う人がいたことは特記しておきたい。畑明朗氏『土壌・地下水汚染−広がる重金属汚染』有斐閣選書154〜161ページ

(3) 同上の畑氏の著書参照

(4)「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」のカドミウム低吸収性をもたらす破壊された遺伝子OsNramp5-2は潜性(劣性)であり、交雑によって、その性質が容易に失われることが危惧される。実際に、山口県での「コシヒカリ環1号」は栽培を続ける中で突然、その性質が失われた。またこの破壊された遺伝子によってマンガンの吸収力が3分の1未満となり、病気になりやすく、収量も下がるという問題などさまざまな問題がある。
 結果的に一つの問題を解決するとして、新たな問題を作り出してしまう可能性がある。小手先の解決策は真の解決策にはならず、むしろ問題を複雑化させるだけである。

PFAS汚染された農地をどうする?

 誰もが生きるなら汚染のない世界で生きたい。でも、今の世界は汚染が進み、人のいない極地地域でも汚染は発見される。この汚染された世界でどう生きたらいいのか。世界の命をこの汚染からどう守ればいいのか、汚染を減らすにはどうすればいいのか?
 
 言うまでもなく、まず汚染の進行を止めること。汚染物質を禁止し、汚染させた企業、軍などの組織に責任を取らせること。
 でも汚染されてしまった農地はどうするのか。放射性物質、カドミウムやヒ素などの重金属、ラウンドアップ(グリホサート)などの農薬、さらにはPFASなどによって汚染されている農地がある。まったく汚染されていない農地はないだろう。大なり小なり、この汚染された農地からどう安全な食を確保するのか、考えなければならない時代に入っている。 “PFAS汚染された農地をどうする?” の続きを読む

合成乳製品が続々と:本当の食を守れるか、今は分岐点

 本当の食を守れるか、それとも遺伝子操作された合成食が本当の食を駆逐してしまうのか、今はその分岐点。合成生物学や細胞培養によって作られた合成ミルクが急速に製品化されつつある。でも、その安全性は極めて疑問。合成ミルクから自然界に存在しない物質が検出されている。このままいけば、企業に独占される食によって、私たちは奴隷化されてしまうかもしれない。
 フードテックと言われる技術のうち、細胞培養肉はコストや市場の拒否感もあって、スタートアップ企業が相次いで破産状態だが、一方で乳製品の代替の分野では大手が製品化を続けており、合成生物学とともに、今後、生産を急激に拡大する可能性があり、このままでは本当の乳製品を作る畜産業がさらなる打撃を受けてしまう可能性がある。 “合成乳製品が続々と:本当の食を守れるか、今は分岐点” の続きを読む

厚労省が培養肉製造ガイドライン策定へ。フードテックの幻想

 2月8日、厚労省はいわゆる培養肉製造に関するガイドラインを作ることを決めたとのこと。すでにシンガポールや米国政府はゴーサインを出しているが、それに日本も追従する姿勢を明確にしたようだ⁽¹⁾。
 でも実際にこの培養肉の問題をじっくり調べると果たして本当にそれが望ましい方向とは到底思えなくなってくる。実際にイタリアのように培養肉を禁止する国も出てきているし、米国のフロリダ州やアリゾナ州では培養肉の販売を禁止する法案が出ており、他の州にも広がっていこうとしている。
 
 この培養肉、あるいは肉以外も含む細胞性食品を作るフードテック企業は世界中の投資家から注目され、莫大な投資が一時集まった。投資家だけでなく、既存の食肉メジャー企業も投資し、レオナルド・ディカプリオやビル・ゲイツの投資にも注目された。肉だけでなく、水産物やコーヒーやカカオなどの絶滅も危惧される細胞培養も注目を浴びてきた。しかし、今やそのブームも過ぎ去り、現在は投資も引き上げられ、厳しい状況となっている。その状況をニューヨークタイムズがゲスト投稿として紹介している⁽²⁾。 “厚労省が培養肉製造ガイドライン策定へ。フードテックの幻想” の続きを読む

ラウンドアップの延命策、ジカンバの認可が取り消しに

 モンサント(現バイエル)にとっては底なし沼に。かつての稼ぎ頭のラウンドアップは今は世界各地で訴訟の山、たとえ訴訟を乗り切ってもラウンドアップは効力を失いつつあり、それを補うために引っ張り出した古い農薬ジカンバも認可が取り消される事態に。泣きっ面に蜂とはこのことだろう。
 ラウンドアップは1970年代から売られ始めたモンサントの農薬の主力商品。世界でもっとも売られた農薬と言われる。モンサントは2000年の特許切れの後でも独占販売が続けられるように遺伝子組み換え作物を作り出したとも言われる。
 でもラウンドアップの集中的な利用によって、耐性雑草が増え、もはやラウンドアップだけでは除草効果が薄れてきた。そこでモンサントが引っ張り出したのはラウンドアップよりも古い1960年代に出たジカンバという農薬。もっともこの農薬は揮発しやすく、周辺の農地や生態系にも影響を与える危惧があった。モンサントはその欠点を改良したとするジカンバをラウンドアップに混合させた農薬に耐える遺伝子組み換え大豆やコットンを作り、すでに数百万エーカーで使われているが、その「改良」ジカンバも揮発し続け、周辺のジカンバ耐性でない作物に被害を与え、農家間の紛争(殺人事件も発生)や訴訟という事態になっている。その結果、1500万エーカーの農地に影響を与えて、北米を象徴する蝶、オオカバマダラやマルハナバチという花粉媒介者の絶滅危機も作り出してしまっていると指摘されている。
 
 今回の判決で、その使用を米国の裁判所は禁止を命じ、この農薬の流通を許可した環境保護庁(EPA)は法律違反を犯したと認定した。バイエルだけでなく、BASFやシンジェンタが作るジカンバもその対象となる⁽¹⁾。この判決は一度トランプ前政権が覆したが、再度の判決は以前よりも重いものとなるだろう。 “ラウンドアップの延命策、ジカンバの認可が取り消しに” の続きを読む

EUでの「ゲノム編集」規制は日本にとって何を意味するか?

 2月7日の欧州議会の議決、「ゲノム編集食品が緩和された」と報道されていくかもしれない。安全審査なく、自然界への「ゲノム編集」生物の放出を認めてしまうという決定的に問題な決定をしてしまったのだが、欧州議会の議決がEUの政策になるためにはまだ紆余曲折があり、6月までにそれが進むとは考えられない。
 そして、同時に欧州議会ではそのトレーサビリティを確保することなども同時に議決している。これは日本にとっても大きなことになりそうだ。 “EUでの「ゲノム編集」規制は日本にとって何を意味するか?” の続きを読む