日本政府は種子法廃止に加えて、種苗法改正をしようとしています。2020年の通常国会に提出されましたが、それには多くの批判も出て、審議に入ることなく通常国会は会期を終えました。しかし、政府・農水省は改正が必要であるとして、国会閉会後にも説明資料を作って、改正の必要性を訴えています。残念なことに、今回の種苗法改正について、その目的は何か、その必要性は何か、という肝心なことに対する政府の説明に大きな疑問があります。
とくに、多くの農家の方たちは、タネ採りはしておらず、買っているから種苗法改定は関係がないと安心させようとしていますが、今回の種苗法改正は日本での種苗のあり方を大きく変える可能性があり、種苗のあり方が変われば、すべての農家に影響が起こりえますし、農業だけでなく、社会全体にも与える影響も大きく、本当にどんな問題があるのか、しっかりと事実に基づき、議論する必要があると思います。
まず何より最初に確認すべきことは種苗は1日にしてならず、ということです。人類史の長きに渡り、農家が育種をしてきたことで現在の種苗があります。ですから農家は新品種を育成した育成者と共に種苗の権利を持つことが国際条約にもうたわれており、国連小農および農村で働く人の権利宣言(第19条)でも明記されています。農家の種子への権利と新品種を育成した育成者の権利はバランスさせなければならない、と言われるその前提が今、日本で崩されてしまおうとしています。
そこで、農水省が今年7月に作成したQ&Aに基づき、その農水省の対応に対して、疑問点をまとめてみました。
以下の文章は自由にお使いいただくことができます。自由に使って、この問題を広く伝えるためにお使いいただければ幸いです。
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Q1 なぜ種苗法を改正するのですか?
【農水省の説明】
農業者のみなさまに、優良な品種を持続的に利用してもらうためです。
日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外流出し、第三国に輸出・産地化される事例があります。また農業者が増殖したサクランボ品種が無断でオーストラリアの農業者に譲渡され、産地化された事例もあります。
このようなことにより、国内で品種開発が滞ることも懸念されるので、より実効的に新品種を保護する法改正が必要と考えています。
【わたしたちの考え】
なぜ今、種苗法改正が必要か疑問です。日本の種苗が不正に海外に流れることを防止することは必要ですが、そのために必要な措置は外国での品種登録であり、種苗法改正では対応できません。また、サクランボのケース(日本に遊びに来たオーストラリアの農家に登録品種のサクランボをおみやげとしてあげてしまったという例外的なケース)も現行法の下で和解できたものですので、その一例を使って、改正が必要とする理由にするのも無理があります。
日本ではこれまで多数の品種開発が順調に進んできましたが、近年それが停滞しています。それは種苗を買う農家の数が減ったり、貿易自由化で外国の安い農産物に国内市場も奪われたりしていることの方にむしろ大きな原因があるのではないでしょうか? 外国産農産物との価格競争にさらされる農家の負担をさらに増やすことで、種苗を買える農家を減らしてしまえば、新品種を増やすどころか、さらなる日本の農業の衰えにつながりかねません。
種苗を使う農家も種苗を作る育種家も安心して農業に打ち込むことができるためには、種苗法改定よりも日本の地域の農業全体を底上げして支える政策こそが求められています。
Q2 種苗法の改正は種苗会社のために行うのですか?
【農水省の説明】
我が国の新品種は、種苗会社のみならず都道府県の公設試験場、農研機構、また個人の品種開発者等によって開発されています。
種苗法の改正によって優良な新品種の流出を抑止することは、産地作りを進める都道府県や、高付加価値の農作物を出荷する産地の農業者に大きなメリットとなります。
また、品種の保護が強化されることで品種開発が進むので、従来から利用してきた一般品種に加え、登録品種が選択肢として加わることとなりますので、農業者の品種の選択の幅が広がります。
【わたしたちの考え】
これまで都道府県や国の種苗育成は税金を下に安定して取り組まれてきました。それは日本の地域の農業を支える重要な公共投資です。それをこれまで以上に継続させることがとても重要です。すでに現行種苗法で、地域ブランド化されることに成功した例もいくつもありますし、そのために種苗法改正は必要ありません。
育成者が安心して新品種開発するためには長期的に安定した育成予算の確保と確実な買い手である農家の確保が不可欠です。
また、農家の自家増殖は農業の基本技術であり、それを規制して、狭めることは農業の基本技術の喪失につながり、長期的な農業の発展の阻害となります。
Q3 自家増殖は一律禁止になりますか?
【農水省の説明】
自家増殖が一律禁止とはなりません。
現在利用されているほとんどの品種は一般品種であり、今後も自由に自家増殖ができます。
法改正案で、自家増殖に許諾が必要となるのは、国や県の試験場などが年月や費用をかけて開発し、登録された登録品種のみです。そのような登録品種でも許諾を受ければ自家増殖ができます。
(一般品種とは、在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種です)
【わたしたちの考え】
今回の種苗法改正は自家増殖を一律許諾制にしますが、このように自家増殖を一律規制する国は現在、世界にも他にありません。EUも主食の穀類やイモ類は例外としていますし、米国でも特許が取られていない作物には自家増殖の制限がありません。一方、今回の種苗法改正では例外を設けず、すべての登録品種の自家増殖を許諾制に変えようとしています。
現在利用されている品種がほとんど一般品種であるという農水省の説明は現状と異なります。たとえば都道府県毎に設定されている品種検査量や稲の産地品種銘柄でみますと、選ばれている品種では登録品種の方が品種数の上では一般品種よりも多く(*1)、稲以外の農産物でもその地方で力を入れているものは概して登録品種の割合が高くなる傾向があり、法改正の対象となる品種数は5294にのぼります(*2)。ほとんどが一般品種であり、改正の対象の一部となる登録品種はわずかだというのは地域の現状とはかけ離れた虚偽説明と言わざるを得ません。
(*1)2018年に品種検査されたすべての品種、また道府県で指定されたすべての産地品種銘柄の品種を農水省の品種登録データベースで登録有効期限を調べることで算出。データ出典は末尾参照のこと。
(*2)農水省が発表した「各都道府県において主に栽培されている品種」(末尾参照)を元に算出したもの。法改正の対象となる品種数は農水省回答
また法改正で許諾を必要とされるものには民間企業による品種も含まれ、自家増殖の許諾を与えるかどうかは一切、育成権を持つもの次第であり、許諾が与えられる保証はありませんし、その許諾料に制限を設ける規定も種苗法改正案の中には存在していません。
Q4 なぜ登録品種の自家増殖を許諾制にするのですか?
【農水省の説明】
過去に、自家増殖を行っている農業者から登録品種が海外に流出した事例が発生しています。
これを防ぐには、育成者権者が登録品種の増殖実態を把握し、種苗の適切な流通管理をできるようにする必要があります。
このため、登録品種の海外持出を制限する規定を設ける改正とあわせて、登録品種の自家増殖について育成者権者の許諾に基づいて行うこととしています。
【わたしたちの考え】
過去に自家増殖を行っている農業者から登録品種が海外に流出した事例は例外的なケースです。それを持って、農家の自家増殖を許諾制にするというのは合理性がありません。また、許諾制にすることで、海外への流出を止められるというのも合理的根拠がありません。
本来は直接関係のない新品種の海外流出を無理矢理、農家の自家増殖禁止につなげようとしていますが、農家のせいで海外流出したという具体例は、例外的なサクランボのケースを除き、示されていません。海外流出したのはすべて農家のせいだ、と言っているようなもので、責任を不当に押しつけられた農家は怒らざるをえません。
Q5 農業者が今まで使っていた品種が品種登録され、許諾料を払うことになりませんか?
【農水省の説明】
在来種(地域の伝統品種)を含め、農業者が今まで利用していた一般品種は今後とも許諾も許諾料も必要ありません。
一般品種を新たに登録することはできません。仮に一般品種と知りながら、品種登録した場合には、種苗法第68条(詐欺の行為の罪)により罰せられる可能性があります。
【わたしたちの考え】
種苗法の対象は既存の種苗とは異なる新品種で、それ以外の品種は対象にならないというのが建前になっていますが、農水省が「仮に一般品種と知りながら品種登録した場合」と仮定して罰則が規定されていることからもわかるように、在来品種であっても登録される可能性があることは農水省も否定できません。
登録品種を守る法律はあっても、伝統的在来種を含む一般品種を守る法律はありません。後者を使う人の権利を守る法制度になっておらず、新品種の育成者権だけが強化されるということで、種苗をめぐるアンバランスが拡大することが懸念されます。
Q6 自家増殖に許諾が必要となると、農業者の生産コストや事務負担が増えて営農に支障が出ませんか?
【農水省の説明】
現在利用されている多くの品種は一般品種であり、現在も、また法改正が行われたとしても許諾手続きも許諾料も必要ありません。
自家増殖に許諾が必要となるのは、国や県の試験場などが年月と費用をかけて開発し登録された登録品種のみです。新品種は、農業者に栽培してもらわなければ意味がないので、農業者の利用が進まない許諾料となることは考えられません。なお、登録品種の自家増殖の許諾手続きは、農業者の事務負担が増えないように、団体がまとめて行うこともできます。
【わたしたちの考え】
ここでも一般品種が大勢を占めているとの表現が使われていますが、地域で力を入れている作物では登録品種の割合が多く、地域の主要産品では許諾が必要となるケースが多くなると予想されます。
農水省はここで許諾が必要とされるのが国や地方自治体の品種に限ると説明していますが、実際には公的機関であろうと民間企業であろうと等しく規制の対象となります。
種子法も民間企業の参入を進めるために廃止され、ほぼ同時に、民間企業への種苗事業の移行を促す農業競争力強化支援法が作られ、都道府県は民間企業の参入が進むまで種苗事業を続け、民間企業に種苗事業のノウハウを渡すことを求める通知を農水省事務次官が出しています。
種苗事業が民間企業に移行していけば、許諾料が安いままである保障はなく、許諾を与えないケースも増えると予想されます。許諾を義務化する規定も、許諾料に関する規定も種苗法改正法案には存在しません。
また団体でまとめて行うとしても、今、そのような手間を担える余裕ある農業団体は日本にはほとんど存在していません。
Q7 利用できる品種が限定されてしまうのではないですか?
【農水省の説明】
種苗法及び種苗法改正法案は、新しい品種を開発し農林水産省に登録した新品種を知的財産として保護する法律であり、農業者に特定の品種の利用を強いたり、品種の選択を制限するようなことはありません。
【わたしたちの考え】
もし、今後、種苗法改正で育成者権を強化して、これまで税金を元に安くて優良な種苗が自由に使える状況から、農家が買って支える種苗事業に移行していけば、地域を支えていたけれども市場規模が小さくて種苗事業としては儲からない種苗は消えていく可能性が高いと考えられます。その結果、利用できる品種は減っていくでしょう。種苗の多様性を確保していくことと、種苗事業の採算を上げることとは一致しません。
また、今回の改定が外国企業のさらなる参入を招き、種苗事業体の独占化がさらに進むことが危惧されます(すでに2017年新品種登録の36%が外国法人によるもの)。独占が進めば、選択の範囲はさらに狭くなってきます。
Q8 家庭菜園(販売、譲渡を行わない場合)での登録品種の利用に影響がでるのではないですか?
【農水省の説明】
今回の法改正では、登録品種であっても、収穫物の譲渡や販売を行わない自家消費目的の家庭菜園や趣味としての利用に影響はありません。
【わたしたちの考え】
家庭菜園、学校の菜園などでの栽培は種苗法の対象外であり、また新品種の育成含めた研究目的の自家増殖も規制の対象になりません。
Q9 優良品種の海外流出を防止するためには、海外で品種登録するしか方法がないのではないですか?
【農水省の説明】
農林水産省では、品種流出のリスクが高い国における品種登録を支援し、海外での無断栽培の防止等を図ってきました。
一方で、現在の種苗法では、登録品種であっても、正規に購入した種苗であれば、購入者が海外に持ち出すことは合法で、止めることができません。
このため、海外への流出を防ぐためのできるだけの措置をとるため、海外での品種登録に加えて、国内法でも登録品種の海外への持ち出しについてきちんと対応できるようにする必要があります。
(参考1)海外への品種登録出願や育成者権侵害対策の支援
【わたしたちの考え】
国内法である種苗法は海外での不正行為を裁く権限を持ち得ず、海外での品種登録が唯一の法的手段であることは農水省も明言しているところです。そのために種苗法改正をする必要はありません。
特に海外に不正に持ち出すことを防ぐことと、自家増殖を許諾制にすることにすることには直接のつながりがありません。海外に持ち出すことを止めるための方法は別にあるにも関わらず、直接関係のない自家増殖禁止とリンクさせる説明をこれまで農水省は行ってきましたが、原因と結果をねじまげた説明となっており、今後はこうした説明はやめるべきです。
Q10 海外の多国籍企業による種子の支配が進むのではないですか?
【農水省の説明】
我が国では公的機関や国内の種苗会社が、海外の多国籍企業が開発できない日本の風土に適合した優良な品種を開発していて、競争力が圧倒的に高いため、種苗法が改正されたとしても海外企業による種子支配を心配する状況にはありません。
むしろ今後も国内での品種開発がしっかり進められるように、新品種の権利を守る制度の整備が必要です。
【わたしたちの考え】
小さいながら多様な気候を持つ日本では小さな市場に多様な種苗が必要であり、それを支えるのは国や都道府県の公的種苗事業と農家による多様な品種開発と言えるでしょう。しかし、今、その基盤となっていた種子法が廃止され、農業競争力強化支援法で民間企業への移行が打ち出されており、民間企業による独占の可能性はかつてないほど高まっています。外国法人による日本での品種登録は年々増加しており、2017年には日本で登録される品種の36%が外国法人によるものです。現在は花が多いものの、種苗法が改正されれば、他の分野でも参入が進むことでしょう。
こうした動きに流されないための防波堤となるのは多様な種苗を必要とする日本の地域の農家が農業を続けられるようにすることでしょう。多様な種苗を買う農家が多くいてこそ、地域の種苗会社も地方自治体も新しい品種を育成する動機も確保されます。農家の存続を可能にするバランスのある農業政策が求められています。農家の負担を増やし、育成者権の強化だけに特化した種苗法改正ではそれを実現することはできません。
Q11 遺伝子組み換え作物の栽培が拡大したり、安全性に問題ある農業の利用が広がるのではありませんか?
【農水省の説明】
種苗法及び種苗法改正法案は、新しい品種を開発し農林水産省に登録した新品種を知的財産として保護する法律であり、遺伝子組換え作物の品種の利用を促進することはありません。
遺伝子組換えについては、「カルタヘナ法」、「食品安全表示法」及び「食品衛生法」に基づいて、農業については「農薬取締法」に基づいて、適切な規制が別途行われており、種苗法の改正とは関係ありません。
【わたしたちの考え】
遺伝子組み換え作物では特許法が多くの国で適用されます。今回の種苗法改正は直接、遺伝子組み換え作物の栽培に関係あるものではありませんが、種苗法改正されれば、今後、種苗の独占が進み、世界の種子市場の7割を独占する遺伝子組み換え企業のシェアが拡大する可能性は否定できません。
日本における遺伝子組み換え作物の審査はきわめて甘く、遺伝子組み換え推進団体であるISAAAのデータベースで比較しても他国と比べて段違いに日本での遺伝子組み換え作物承認数は多く、到底、適切な規制が行われているとは言えません。
また、農水省は「ゲノム編集」を2019年10月、相談・届け出のみで実質野放しにする方針を打ち出しました。今回、登録品種であるか否か、使用目的の限定などが種苗に明示されるよう変更が加えられようとしていますが、その中に「ゲノム編集」を含む遺伝子操作の有無は表示義務に入れられていません。
つまり、普通の大豆だと思って大豆のタネを買ったつもりが、それは実は「ゲノム編集」されていたということが起こりえます。その結果、農家も知らないうちに遺伝子操作された作物を育てていたということが起こりえます。指定種苗制度の中に遺伝子操作の有無の義務化が不可欠です。「ゲノム編集」については世界からも問題が指摘されており、EUやニュージーランドは遺伝子組み換え作物と同様に規制する方針ですが、それのない日本ではこのままでは安全性に世界が懸念を持つ作物の利用が広がってしまう懸念が高まります。
Q12 在来種を自家増殖している農業者が近隣の登録品種の花粉が交雑した種を採った場合でも、登録品種の権利者から訴えられるようになるのですか?
【農水省の説明】
種苗法及び種苗法改正法案で登録品種の権利が及ぶのは、登録品種とすべて特性が同じ場合です。農業者が栽培している在来種に登録品種の花粉が交雑して採れる種は、一般に登録品種と全ての特性が同じにはならないため、登録品種の権利は及びません。
【わたしたちの考え】
これまで種苗法違反を立証するためには登録品種の種苗と農家が使っている種苗を実際に同一条件で育てて、実物で比較する必要がありました。しかし、今回の種苗法改正では特性表(その植物の特徴を記した表)の比較で、農水大臣が登録品種と「明確に区別されない品種」と判定できることになります。その結果、特性表で一致する品種は種苗法違反で訴えられる可能性が高まります。
日本には登録品種を守る種苗法はあっても、在来種などを守る法律は何もありません。このような状態で、農家のタネを守ることはとても困難です。農家の種子の権利は今や、国連「小農および農村で働く人びとの権利宣言」でも明記され、日本も批准している食料・農業植物遺伝資源条約でも明記されており、日本政府はその権利を守る法律の整備を急ぐべきです。在来種の絶滅が懸念される今、優先順位の高いのはそうした施策・法整備であり、育成者権だけ強化する種苗法改正ではありません。
Q13 いちごの苗を自らで増殖することができなくなるのですか?
【農水省の説明】
いちごは、農業者が増殖用の親株を購入し、それをさらに増殖(自家増殖ではない)した上で栽培される場合があります。登録品種であれば、このような増殖は現在も許諾を受けて行われており※、現行法でも種苗法の改正法案でも考え方は変わりません。
※ 通常、登録品種の増殖用の親株は、農業者が自分で栽培するための増殖が許諾された種苗として販売されています。
(参考2)いちごの増殖と自家増殖の考え方
【わたしたちの考え】
農水省の「いちごの増殖と自家増殖の考え方」で示される説明では、何をもって「自家増殖」と「増殖」の区別する根拠になるのかが不明です。イチゴやイモ、サトウキビなどでは親苗から増やすことは不可欠な作業となっています。そして、その苗からさらに増殖させることで、その土にあった、その農家の味が作られていくとも言われます。農業の生産をより安価に競争力を強めるということが近年の農水省の基本方針となってきましたが、ここでは明らかにそれに逆行する方策が出されています。
気候変動が激化する中で、地域の土や気候を覚えた種苗の割合を増やすことが今後の異常気象などから農業被害を減らす上で重要になっていく中、自家増殖に制約を強化することは農業経営にもマイナスの影響を与えることになりかねません。
これまで歴史的に農家の権利として認められていた自家増殖が何を根拠に許諾なしに認めないように変更されるのか、十分な根拠は今回の種苗法改正で示されていません。
個別に作物によって種苗事業が維持困難な状況にある場合、現行法の下でも契約により自家増殖を制限することは可能になっており、変更の必要はありません。一律、許諾制にするのではなく、その地域にとって、重要な作物は許諾制を適用しないなどの措置が不可欠です。その視点を欠いた種苗法改正には反対せざるをえません。
Q14 知り合いの農業者が増殖したさつまいもの苗を譲ってもらうことができなくなるのですか?
【農水省の説明】
さつまいもは、農業者が増殖用の種いもを購入し、種いもから「つる苗」を採って、増殖(自家増殖ではない)した上で栽培される場合があります。登録品種であれば、このような増殖は現在も許諾を受けて行われています※。また、農業者が自分で増殖した登録品種のつる苗を譲渡することは、現行法でも許諾が必要な行為ですので、ご注意ください。このことは、現行法でも種苗法の改正法案でも考え方は変わりません。
※ 通常、登録品種の増殖用の種いもは、農業者が自分で栽培するための増殖が許諾された種苗として販売されています。
(参考3)さつまいもの増殖と自家増殖の考え方
【わたしたちの考え】
これまで多くの地域でイモ類は自家増殖も頻繁にされてきたと考えられます。このような慣例は決して無視できるものではありません。
特に地域によって特定の作物において自家増殖を継続する必要性が高い作物はそれぞれあります。そうしたものの自家増殖は地域ごとに認める必要などがあるでしょう。その点でも一律、許諾制にするのではなく、少なくとも地域ごとに例外が定められるようにするなどする必要があるでしょう。
特に育成の困難で育種事業の存続が困難なケースなどは、種苗を購入する農家と契約を結ぶことで、自家増殖を制限して育種事業を支えることが現在の種苗法でも可能です。現在提案されている種苗法改正は必要ありません。
気候変動が激しくなり、海外からの農産物輸入にも不安が高まる現在、日本の食料自給率を上げ、日本の食料保障を確実なものとしていくためにも、地域の農家も地域の育種家もともに底上げする農業政策こそが今、求められています。
Wordファイルでダウンロード
PDFファイル(図表入り)でダウンロード
参考