有機基準の本家からダメだしされた重イオンビーム育種品種の有機農産物扱い

 日本の有機基準が農水省の恣意的な運用で曲げられようとしている。そのことに有機基準創始者団体から「待った」の声がかかった。なによりの朗報。
 それはIFOAM(国際有機農業運動連盟)からの公開書簡¹。IFOAMはそもそもこの世界各国の有機基準を作ることを提案し、各国の基準を作るもととなった有機基準の創始者団体。本部はドイツ。ドイツの国際理事会だけでなく、IFOAMアジアなど世界のIFOAM14団体が加わっているから、農水省の考えは世界から強烈なノーを突き付けられたことになる。
 
 問題となっているのは重イオンビームによって遺伝子を破壊した品種を有機農産物として認めるという農水省の方針。遺伝子を破壊する「ゲノム編集」を使えば、これは有機農産物としては認められない、というのは世界で確立しつつある(農水省も国会答弁でその方針であることを明らかにしている)。でも、重イオンビームの場合は問題ない、というのが農水省の見解なのだ。
 これはおかしい、ということで農水省に質問をした。その農水省の答えは「コーデックスのルールでは禁止されていないと承知をしている。だから有機農産物として認めて問題ない」。
 耳を疑った。コーデックス文書とは各国の基準をすり合わせるための国際的な合意文書だが、そもそも重イオンビームを使った農産物を作っているのは現在、日本くらい。これでよしとするなら、文書に書いてないことは何でもOKということになってしまう。
 
 米国の全米有機基準委員会(NOSB)では11月の定例委員会会合で、放射線などの突然変異育種について、こんな議論になっている。「植物材料を有毒化学物質や放射線に曝露することは有機農業の原則に反することに同意」した²。もっとも米国では一律禁止というところまでには至っていないが、「長期的には、有機栽培種子の使用が増えれば、突然変異由来の品種は有機栽培生産から段階的に廃止される」。つまり代替手段がないものを一律禁止してしまうと農家が大変になってしまうので、それはしないが、長期的にはそれはなくなるもの、と認識されていることになる。基準ができる前にすでにあった突然変異育種品種をどうするか、という議論であって、新たな突然変異育種を認めようという動きではまったくない。
 
 NOSBはこうも言っている。「除外される方法の定義は『自然条件下では不可能な結果ではなく、自然条件下では不可能な手段を指す』と強調」した、と。つまり用いる方法は何でもよくて、結果が自然条件下でもできうるものであれば認めていい、というのではなくて、そもそも自然条件下では不可能な手段は使ってはいけない、と言っているのだ。
 だから加速器を使って重イオンビームを生成して、粒子を種子に当てる、という方法は米国でも排除される方法だ。
 
 ヨーロッパでは種子も有機でなければ有機農産物とはならないが、米国では有機の種子でなくても有機と認めているのだが、その基準の緩い米国ですらNGを出しているものを、農水省はドヤ顔で、「ルールにないので問題ありません」と断言して憚らないのだ。その際の思考回路の中に有機農業の原則がカケラもないのに驚く。脱法ドラッグとどこが違うのか。こうした脱法行為がまかり通れば、そのルールが崩壊してしまう。
 
 国際的な有機農産物の取り引きでは「有機同等性」という取り決めがある。有機として認証される手続きは国内ですら大変なので、それを国際的にやろうとなるととてつもなく大変になってしまうので、お互いの有機基準を認め合う国同士の間は、ある国が有機農産物と認証したものは、輸出先の国が認証しなくてもその国に有機農産物として輸出ができる、という国際的な取り決めだ。
 でも、日本だけ、こんな脱法行為をしたらどうなるだろう。日本はこのルールから除外しなければならないということになってしまう。つまり、日本から有機農産物として輸出ができなくなり、日本は世界から孤立する。
 
 農水省は秋田県の有機農家の団体や有機認証団体15団体等からも、この見解の取り下げを求められても、固辞し続けている³。いったい有機基準は誰のためのものなのか。有機基準はそもそもIFOAMが生産者と消費者のために世界に作ることをよびかけたもの。それを日本では政府が勝手に決めて、押しつける。生産者が反対し、消費者が反対し、有機認証を業務として行う団体も反対しているのに、国は変えようとしない。現在の日本はなんという国なのだろう。学校給食をせっかく有機にしても、重イオンビームや中性子線という核の技術で遺伝子が改変されたものが出てしまいかねないのだ。
 
 だからOKシードプロジェクトでは「有機基準は誰のもの」というオンライン署名を始めた。そして、有機基準の創始者団体がわたしたちの考えを支持する公開書簡を農水省に送ったのだ。これが決定的な出来事でなくてなんだろう?
 
 農水省は即刻、この方針を撤回すべきだ。ということでぜひ、みなさんもみなさんの声を農水省に伝えてください。
 
オンライン署名:有機基準は誰のもの?
https://act.okseed.jp/organicstandard

参考資料
(1) OKシードプロジェクト・プレスリリース:国際有機農業運動連盟が農林水産大臣宛に公開書簡で勧告
https://v3.okseed.jp/news/7344

(2) National Organic Standards Board, Materials Subcommittee Discussion Document Induced Mutagenesis, Fall 2025
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/MS%20Induced%20Mutagenesis%20Disc%20Doc.pdf

(3) 秋田コメ新品種全面切り替え 県有機農業推進協が県の方針に反対表明
https://kahoku.news/articles/20240109khn000047.html

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