インドネシアでのタネをめぐる攻防の背後にいるのは?

 タネの権利がいかに危うくされているかはインドネシアを見るとその本質がわかりやすくなる。インドネシアでも農民のタネを奪って種子企業のタネを買わない限り、農業ができなくする圧力が続いている。
 北アチェの村長であり農民でもあるムニルワン(Tengku Munirwan)氏は非常に収穫量の多いイネの品種(IF8)を自ら育成して、農民の間に普及させ、地元の農民から熱狂的に支持されていた。
 ところが彼は2019年に「認証されていない種子を商業的に流通させた」として、種子栽培システム法違反の容疑で警察に拘束された。農民・市民からの抗議によって釈放されたものの、IF8の流通は禁止され、村の種苗事業は停止に追い込まれてしまった。この他にも自家採種していたトウモロコシ農家10数名が裁判で有罪にされ、その後、長い期間トウモロコシの栽培を禁止された。これはインドネシアの農家への見せしめとして行われた可能性がある。
 さらに多国籍の種子メジャーが作った彼らの知的財産権を守るための条約UPOV1991への加盟とさらなる種苗法改正の圧力が高まり、市民団体は国連に訴え、国連人権特別報告者マイケル・ファクリ氏はインドネシア政府に2023年12月に農民の権利に関する懸念について書簡を送った。そのインドネシア政府からの回答は2024年2月に出され、その時点ではインドネシア政府は「小規模農家および遺伝資源を保護するための政策的な余地を確保するため、現時点ではUPOV1991に加盟する立場は取っていない」としていたのだ。
 
 ところが、この事態を変えたのがインドネシアのTPP(環太平洋パートナーシップ協定、環太平洋経済連携協定)への参加申請だった。2024年9月、インドネシア政府はTPPへの加盟申請を行った。TPPはUPOV1991への参加を義務付けている。その結果、インドネシアはUPOV1991への加盟とそれに伴う種苗法改正が義務付けられる結果となった。国連への報告を自ら裏切らざるをえない状況にインドネシア政府は追い込まれた。
 
 このTPPで参加国にUPOV1991への参加を義務付けることを強行に主張したのは日本政府だった。また日本政府は東アジア品種保護フォーラムを2007年に作り、アジア諸国にUPOV1991への加盟に向けて地ならしをしていた。
 
 インドネシアでは地元の優良な育種農家が逮捕・訴追される事例は続き、それに加えて、UPOV1991へ参加し、種苗法が改正されれば、もはや農民による種子は断たれてしまうことだろう。
 
 企業の、企業による、企業のための食のシステムに強引に持ち込まれようとしている。これに対してインドネシア最大の農民組合、SPIはこの政府の姿勢は国連の「小農および地方で働く人びとの権利宣言」に違反しているとして強く批判している。
 
 日本では、在来種を種採りして、それを配ったり、売ったりすることは合法である。種苗法違反で逮捕されているのはあからさまな違法行為がほとんどだ。だから、インドネシアで起きていることはピンとこないかもしれない。でも、この事態は先進国(北の力を持つ国)が南の国に強いていることであり、日本の現状の鏡像と言えるだろう。実際にこの動きを作ってきたのはインドネシアではなくて、日本などの北の政府(そしてその背後にいる大企業)だった。
 この動きをマスコミは伝えず、日本人も無関心、だから政府は横暴なこともし続けることができてきたということだ。そしてインドネシアの農民が権利を失い、種苗企業の力がさらに大きくなれば、世界の食のシステムはより企業のものとなり、私たちの食料主権も結果として失われてしまう。この悪循環を止めるためにまずは南の国々で起きていることを知ることが何より必要だ。

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