イオンビーム放射線育種正当化のおかしな論理

 農水省や「あきたこまちR」などの「コシヒカリ環1号」系品種を擁護する人たちがいつも繰り返すのは「放射線育種は長い歴史があり、その品種も日本や世界で広く普及している」ということだ。
 
 しかし、これはとんでもない飛躍がある言い分だ。というのも長い歴史がある放射線育種はガンマ線照射であって、この技術はもうすでに終わった技術なのだ。米国は基本的に軍事研究のみで実質的に終わりにして撤退してしまったし、効率が悪く、その施設は世界でもほぼ閉鎖されている。日本はそれでも続けてきたが、昨年閉鎖になった。
 
 これに対して、「コシヒカリ環1号」系品種はイオンビーム育種であり、この技術を使っているのは日本の他にどこにあるのか、と農水省に聞くと、答えが返ってこない。世界が捨ててしまった放射線育種にこだわっている国は日本くらいしかないのだろう。イオンビームを育種(品種改良)に使っているケースはほとんど聞いたことがない。
 
 しかも、その日本でもどれだけ使われているのかと聞くと、ハウス食品の涙の出ないタマネギとか、小さな会社のレタス、トマトの3品種くらいしか出てこない。それもどれだけ生産されているか疑問だ。昨年、酒米ができたようだが、これも超マイナーな存在で、歴史も浅く、実績も広がっていない。ガンマ線照射が昔から「原子力平和利用」として使われてきたことをもって、この実績のない技術の実績にしてしまうというのはとんだ詐欺としかいいようがない。
 
 問題なのはここからだ。農水省はこの「コシヒカリ環1号」系品種はまったく問題なく、有機認証できるとしている。というのも国際的な標準を決めるコーデックス委員会のガイドラインで禁止されていないからだというのだ。でも、これもまったくおかしい屁理屈だ。
 
 そもそもイオンビーム放射線育種なんて世界でやっているところが日本くらい。EUは有機では放射線育種を禁止しているし、米国も早くから放射線育種から撤退してしまっている。だから話題にもならずに国際基準に入っていないというだけであって、それを逆手に取って、だからやっても構わない、という行為は果たして世界に受け入れられるだろうか? 国際的な不信を生み出さないと言えるだろうか?
 
 世界でなぜ、有機認証が作られてきたか、原点に立ち返るべきだろう。なぜ世界の人びとは有機食品を買いたいと思うのか、それは危険を避けて、安全な食品を買いたいと思うからだろう。もし、日本がそのガイドラインの抜け穴を使って、イオンビーム育種で有機認証してしまえば、日本の有機認証の信頼が国際的にがた落ちになるだけの話だ。有機農業と原子力技術とは共存しえないことを再確認すべきだろう。有機認証関係の方たちには、こんなものが有機認証されたら、日本の有機認証が無意味になるということで、断固奮起していただきたい。
 
 当然、この問題は有機学校給食をめざして動いている人たちには特に避けられない問題となる。
 
 イオンビーム育種のタネも食品も表示がされない。このままでは農家も消費者も選ぶ権利が奪われた状態にされてしまう。もっとも、「あきたこまちRでない」「放射線育種でない」という表示は可能である。
 
 秋田県知事は6000件近く送られたパブリックコメントを受けて、2025年に「あきたこまち」をイオンビーム(放射線)育種「あきたこまちR」に全量転換する計画を再考すると言っている。しかし、全量転換のスケジュールを少し延ばすくらいで全量転換をあきらめたわけではないだろう。
 
 全量転換されてしまえば、農家にとっても、消費者にとっても選択は不可能になってしまう。宮城県や兵庫県でも検討されており、その他の都道府県でも転換してしまう可能性がある。それが成功すれば、その次は「ゲノム編集」品種への転換が来るだろう。そうなってしまう前に、議論が必要だ。
 
 秋田県では9月議会が始まっている。その審議にも注目したい。

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