今後の国会で種苗法再改正が予定されています。
前の投稿でも書きましたが、今回は別の角度から問題を指摘します。今回の大きな改正では、種苗法がもはや「種苗」に関する法律に留まらなくなり、生産ー流通までを含んだ「ビジネスモデル」を知的財産として守る法律に変わろうとしています。
この法改正によって何が変えられようとしているのか、その特徴をまとめてみました。
1. 戦略的海外ライセンスの導入 (日本国内の生産と競合させないために、市場出荷期間制限や地域制限など多岐にわたる契約を可能にし、それを監視・管理する育成者管理機関等の体制を設立する)
2. 海外での「クラブ制」展開(商標との連動) (海外にブランドを管理する管理団体「マスターライセンシー」を現地の企業等と連携して設立。育成者権だけでなく「商標権」をセットで設定して流通を支配し、基準外品の排除とロイヤリティ徴収を行う)
3. 権利効力の「加工品」への拡張と期間延長 (独占的に販売できる育成者権の有効期限を現行よりさらに10年延長し、最大35年・40年に。さらに、従来の種苗法では捕捉が難しかった「加工品(ジュース、ペースト等)」の段階まで権利の効力を拡張し、違法栽培品が姿を変えて流通・逆輸入されるのをブロックする)
4. 国際登録の円滑化 (UPOV等の枠組みを活用し、海外諸国での品種登録手続きやコストの負担を軽減する)
5. スマート農業(データ)とのパッケージ保護 (種苗そのものだけでなく、スマート農業機器を通じた「栽培データ・ノウハウ」をセットでライセンス契約の対象とし、資産化・ブラックボックス化する)
6. ゲノム編集品種等の保護と立証手段の確立 (従属品種としての権利保護に加え、「DNA品種識別技術」を用いて、外見や成分では判別困難な加工品段階での侵害立証を可能にする)
種苗法といえば、当然、種苗に関する法律であり、新品種を開発した人の知的財産権である育成者権が柱となった法律でした。しかし、今回の改正では、もはや種苗に留まらない、種苗ー生産ー流通までのビジネスモデルまでをも含みこんだものになるでしょう。そこで持ち出されるのが商標権です。タネだけでなく、その成果物も含まれることになります。
さらに種苗の栽培方法自体も、スマート農業技術の応用で、知的財産にされます。生産者はその栽培ノウハウを知ることができず、現地生産者はマニュアル通りに苗を植えるだけ、あとはクラウドを通じて、種苗企業からデータが海外の生産現場のスマート農業機器に送信され、その機器が生産を制御します。もし、生産者が契約に違反すれば、そのデータ送信が遮断され、生産できなくなってしまう。
そんなのSFじゃないか、と思えるかもしれませんが、実際に植物工場ではもはや現実のものとなっており、種苗を握る日本企業がAIやクラウドを使って海外の植物工場での液肥、光、温度、湿度を遠隔制御する仕組みがすでに動いています。植物工場だけでなく、田畑でも最近では人工衛星システムを通じたスマート農業技術による制御と監視が可能になっています。タネのみではなく、栽培までがブラックボックスにされ、企業が直接統制するものになっていこうとしています。
こうした世界の食の生産で主体として存在するのはクラウド領主のみであり、あとはそのクラウド領主の指示に従って、作業する人たち。それはもはや農民というよりも農奴と言った方がいいかもしれないものへと変わっていきます。もはや、この世界は農民がタネを播き、自然と対話しながら作物を育てる、というものではなくなってしまいます。
そんな改正なのであれば、もはや「種苗法」という法律の名前も変えるべきでしょう。
この法改正によって、潤うのはスマート農業技術も手に入れたごく一部の種苗企業だけになるでしょう。その企業は同時に人工衛星システムからAI技術まですべて手にできる巨大企業です。実際にモンサントは人工衛星を使った農業監視システムを構築したClimate Corporationを2013年に買収して、現在はそのシステムはバイエルの傘下にあります。ドイツの遺伝子組み換え企業BASFが運営するXarvio(ザルビオ)という衛星管理システムはすでに日本の水田の2割で使われているといいます。
生産者はグローバルな競争に曝され、疲弊して、去るものが絶えないので、生産は巨大化していくでしょう。減った労働力は農業ロボットが埋めていくことでしょう。こうした農場にかつての農家の輝きは見出せません。
ごく少数のグローバル品種がより世界中で栽培される、どこに行っても食べるものは同じで、モノカルチャー化する一方、地方の食文化を支えてきた貴重な在来種の種苗はどんどん失われる。この種苗法改正はこのような独占をさらに補強するものだと言えるでしょう。タネを支配するものが世界を征すると言われましたが、まさにこの種苗法改正法案が描く世界はタネから流通までその支配の範囲を大幅に拡大するものとなりそうです。
果たして、そんな食のシステムが気候危機など激変する環境の中でどこまで有効か大きな疑問があります。単一品種の大規模栽培は病害にも襲われやすく、巨大化したシステムが崩壊したら、一気に食料危機になります。さらに自然と対話しながら食を作る経験を持った農家が存在しなくなり、クラウド領主の指示なしには何もできなくなってしまった時、万事休すになってしまいます。こんな脆弱なシステムに未来を任せるのは勘弁してほしい、と思わざるをえません。
もちろん、人工衛星やドローンなどを生かしていくことは必要なことです。でもそれは特定の企業の利益にするシステムに直結させるのではなく、もっと公的な使い方がありうるはずです。本来、政府がやるべきことはここにあります。
まだ法案の詳細はわからないので、これまでに農水省の検討会や知的財産戦略文書から、検討されている方向性を描いてみました。
未来をディストピアにしないためにも、この種苗法改正が描くシナリオとはまったく違った、地域の多様なタネに基づくもう一つの食のシステムの構想をしっかり描き、作りだしていくことが必要な作業になってきます。
