世界で気候変動が激しさを増し、生物絶滅も想定を超えたスピードで進んでいる。多重危機が同時進行する私たちの世界。この危機を作り出している主因の一つが工業型の食のシステム。この変革はこの危機を克服する上で避けて通れない。
その一つの重要な指標になるのが有機認証である。有機認証というと、日本ではあまり注目されない。「いや、有機認証なんて不要」、そんな言葉も飛び交う。有機認証が工業型の食のシステムから食を守る上で大きな準拠枠となっていることはほとんど知られていないだろう。認証を取る上ではさまざまな問題もあって、取らない人もいる。認証を取るか取らないかはひとまず置こう。食を守る最後の砦として、有機認証をどう守るかを考えなければならないことをぜひ知ってほしい。
米国ではこの近年、有機食品市場が急激に拡大した。大手の食品企業がこの動きに手をこまねいているわけがない。あのAmazon.comも有機食品販売で事業を全米に伸ばしていたWhole Foods Marketを2017年に買収した。大企業までが有機食品市場に殺到する中で、大企業に都合のいい有機食品を実現させるという圧力が有機認証基準にかけられることになった。
有機農業とはもちろん、自然を生かして、自然と共に実践するのが基本でなければならない。でも植物工場で作った食品も有機認証されるように圧力がかけられていく。これでは有機認証がなし崩しになってしまう。
不自然なもの、有機農業にふさわしくないものを大企業が圧力をかけて認めさせるようにしていこうとする。専門家だけで有機認証基準を決めるのであれば、大企業の言いなりになる人を委員に据えて、委員会も人びとに知らせずに大企業の都合のいいように決めてしまえばいい、ということになる。
でも、これに待ったをかけたのが、米国の市民団体。その攻防が繰り広げられるのが、有機認証基準を審議する全国有機認証基準委員会(NOSB)だ。委員会の議論を市民に伝え、パブリックコメント、オンライン署名などをフルに活用して、委員会に市民の意見をぶつける活動が近年活発になった。
NOSBは年2回、春と秋に開催される。今年、秋は10月22〜24日に開かれる。それに先立ち、9月30日までパブリックコメントが行われ、それに加え、米国の市民団体はPFASやプラスチックの使用問題、有機種子の使用などについての要求を委員会に対してぶつけている¹。
それが日本はどうだろう? 今年、7月1日、農水省はQ&Aの項目を新設して、放射線育種による種苗を使っても有機認証できるという見解を公表した²。つまり、学校給食を有機にしたと思ったら、あるいは、有機米を買ったら、それは「あきたこまちR」などの重イオンビーム放射線育種米になっていたということになりうる、ということだ。
でも、これは農水省が勝手に決められることだろうか? 消費者が求めるのは、農薬も化学肥料も遺伝子操作もされていない安全な食品ではないか? もし、そうでなかったら、騙されたと思うだろう。もし、消費者が有機認証基準なんて信じられない、となってしまえば、有機認証など意味がなくなる制度になってしまう。「みどりの食料システム戦略」も何を目指しているのかわからなくなる。重イオンビーム放射線育種問題に限らない。食を工業型のものから生態系を守るものに転換する上で、有機認証は大きな準拠枠になりうるのに、このままではそれがまったく役立たなくなってしまう。
放射線育種に関するパブリックコメントは日本ではあっただろうか? それもなかった。市民への説明も相談もない。意見も聞かない。いきなり上から下に出されるだけ。日本の有機認証基準はこんな形になっていて果たしていいのだろうか? 残念ながら市民が声を出せる米国と違って、日本では声を出すところすらないのが現実だろう。これは変えていく必要がある。
「あきたこまちR」を有機認証することにどんな問題があるのか、この問題に詳しい久保田さんを講師に学習会開きます。ぜひご参加を!
《オンライン学習会:「あきたこまちR」は「有機JAS認証」できるのか?》
日時:2024年10月11日(金)20:00〜21:30
講師:久保田裕子さん(OKシードプロジェクト共同代表、日本有機農業研究会副理事長)
Zoomによるオンライン学習会(要申し込み)
参加はOKシードプロジェクトのサポーター無料
詳細 https://v3.okseed.jp/news/5271
オンライン署名“わたしは、遺伝子を改変された「あきたこまちR」を食べたくありません!”
https://act.okseed.jp/akitakomachir
まだまだ続きます。
(1) The National Organic Program Needs Improvement
オンライン署名は日本からも可能
https://gmofreeusa.salsalabs.org/nosbmeetingfall2024/index.html
Beyond Pesticides Calls for Action: Organic Only Stays Strong and Grows Stronger with Public Input
Beyond Pesticides Calls for Action: Organic Only Stays Strong and Grows Stronger with Public Input
Cornucopia Institute: National Organic Standards Board Meetings
(2) 有機農産物、有機加工食品、有機畜産物及び有機飼料のJASのQ&A
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-465.pdf#page=57
「(問 10-10) 有機農産物のJASにおいて、放射線照射を利用して改良された品種やこれらを
祖先にもつ品種の種苗を使用することはできますか」参照