モンサントはいらない–Occupyモンサントに寄せて

9月17日はOccupyモンサント世界行動日。日本では18日に東京・東銀座の日本モンサント株式会社前と首相官邸前で行動が行われ、そこで問題を提起しました。時間が限られていて、話しきれなかったので、話したかった内容をまとめておきます。 “モンサントはいらない–Occupyモンサントに寄せて” の続きを読む

小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える

4月17日は小農民の闘い国際デー。その翌日にfrom Earth Cafe “OHANA”でこの日の意味を日本との関係で考える集いが開かれ、問題提起をさせていただいた。

16年前の1996年4月17日、ブラジルのアマゾン東端のエルドラードドスカラジャスで農地改革を求める人びとが21日虐殺された。この日を小農民の闘い国際デーとしてVia Campesinaとそれに賛同する運動が世界各地で取り組みを毎年行っている。

まずはMST(Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra、土地なし地方労働者運動)の取り組みを通じてそのブラジルの小農民の闘いを見た。MSTはブラジルの農地改革を求める人びとの運動をつなげていく形で1984年に結成された運動団体である。

下のビデオはリオグランジドスル州で農地改革を求めてキャンプ生活を送る人びとのインタビューを中心にMSTの歴史を振り返り、MSTの使命、MSTの求めるビジョンを表現したものだ(ポルトガル語、スペイン語字幕)。

MST (Movimiento Sin Tierra) 1ra parte: Campamentos

農地改革を求める素顔の人びとの顔があらわれていて、なかなかいいビデオだと思う。ブラジルでは1%の超大地主が農地の46%を独占しているという。1988年憲法(現行憲法)では社会的機能を果たしていない非生産的土地は農地改革の対象となる。しかし、行政はほとんど動かない。

MSTはそうした土地を見つけて、その側にキャンプを張り、長年政府にその土地の農地改革を求めて闘う。今は占拠(オキュパイ)運動が盛んだが、ブラジルの農地改革を求める人びとは長いこと、そうした活動を行ってきた。彼らの運動は合法的であり、ブラジル社会の中からも絶えない支援がある。しかし、地方で絶大な権力を持つ大土地所有者は政府や警察、マスコミに大きな影響力を持ち、MSTを犯罪組織、テロ組織として孤立化させようとしてきている。

そんな中でも歌手や有名人でMSTの支援を公言している人たちは少なくない。下記のビデオはChico César。実力と人気のある歌手だ。Pensar em Vocêとは「あなたのことを思う」という意味。

農地改革を求める運動に対して、さまざまな弾圧がかけられる。自警団(殺し屋)による恐喝、殺害、警察による強制排除など。最悪のケースが1996年にエルドラードドスカラジャスでで起きた。大地主に依頼された軍警察が無差別発砲、21人が殺され、多数の負傷者を出した事件だ。

下記のビデオはこの事件を小説『中断させられた行進』に書いた著者へのインタビューでカラジャスの虐殺をまとめたものだ

小農民とは誰か?

ブラジルの場合、それは先住民族であり、最初の闘いは先住民族の闘いだった。現在もなお、先住民族は土地を奪われ、殺害の対象となるなど厳しい状況が続いている。下記のビデオはマトグロッソ州で豊かな森を牧場や大豆畑に奪われた先住民族シャバンチの闘いを描いたもの。

もう1つ、下記はマトグロッソドスル州で同様に大豆やサトウキビ畑に土地を奪われる先住民族グアラニ・カイオワの闘いを描いたものである。

ブラジル、南米の小農民を追い詰める遺伝子組み換え大豆

ここ近年、ブラジルを含む南米で急速に遺伝子組み換え種子が農業生産に入り込んできた。この過程は逆農地改革と呼ばれる。つまり、世界最悪レベルの農地の集中を改善する農地改革をするのではなく、遺伝子組み換え大豆を導入することで、さらに土地の集中、分配の不公平を拡大させることになるというものだ。

その状況を示すビデオが以下の『Killing Fields』。ブラジルだけでなくパラグアイも含めて、現地の小農民、先住民族に何が起きているかを表現した番組である。(GreenTVに日本語字幕版があったのだが、現在アクセスできない状況になっているので、ここでは英語版を紹介しておく)。

詳細は末尾のプレゼンファイルの図表などを参照していただきたいが、ここ10年ほどの間にブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアなど南米での大豆生産は急増しており、それに伴い、農薬使用も激増している。

その中で小農民は土地を追い出され、また住民はその農薬によって大きな被害を受けるにいたっている。

アルゼンチンでも空中散布される農薬(モンサントの開発したラウンドアップ)によって大豆畑周辺住民にガンや白血病、胎児や子どもの病気が大幅に増え、国連人権委員会でも取り上げられる大きな問題となっている。

この問題に関しては遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たちにまとめたので、その記事を参照していただきたい。

この大豆生産が急激に増加した理由、それは北における大豆の需要が急増したからに他ならない。その理由の一つは家畜の餌であり、もう1つはバイオ燃料である。

南米での逆農地改革を止める上で日本の消費者にはできることがある。いや止める義務があると言った方がいいかもしれない。単に義務というだけでなく、食の安全を考える上でもこれは避けて通れない。遺伝子組み換え大豆は決して安全な食品ではない。遺伝子組み換え大豆を食べて育った家畜は病気になる可能性が高い。

大地や小農民を傷つけて作られた大豆はまたそれを食べる家畜をも傷つける。遺伝子組み換えではない安全な飼料を食べさせた肉を求めること、そしてどのような飼料を食べさせたのか食品表示の義務づけを行うことはこうした反倫理的食料生産を停止に追い込む上で有効なはずだ。

この問題で浮かび上がる問題は食料主権の問題であると思う。遺伝子組み換え大豆が植えられた地域では食料がなくなってしまう。遺伝子組み換え大豆は主として輸出のための家畜の餌であったり、バイオ燃料の原料であり、食料ではない。食料を外の地域から輸入して購入できないものは飢えるしかない。

ひるがえって日本を考える。先進国の中で圧倒的に低い日本の食料自給率。前原議員などは現在の日本の農業すらも売り渡して構わないようなことを言って憚らない。いわば日本は世界でもっとも食料主権を売り渡してしまっている国といわざるをえないだろう。

一方、南米において人びとは食料主権を取り戻し、自分たちの手で自分たちが食べるものを作り出せる社会にしようと闘っている。

われわれにとって問われているのは彼らの食料主権を奪うような現在の農業モデル・穀物流通ビジネスモデルのまま消費を続けることを止めることによって彼らの食料主権を求める闘いと連帯して、同時にわれわれにとっての食料主権を取り戻すことであると考える。

遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たち

ノーベル環境賞とも言われるゴールドマン環境賞をアルゼンチンで遺伝子組み換え大豆の農薬散布を止めた母親たちの運動のリーダーのソフィア・ガティカ(Sofia Gatica)さんが受賞した。

この賞は権威あるもの。賞のことより、Sofiaさんの活動のすばらしさに感動を覚えた。単に個人的に感動を覚えるだけでなく、彼女の活動は放射能汚染を抱える日本の多くの人にとってもインスピレーションを与えるに違いないと思う。
Sofia Gaticaさん

彼女の取り組みについては詳しくは短いビデオが作られていてとてもいい出来なので、それを見るのが一番だが、英語なので、ごく簡単にその概要を書いておく(ビデオは末尾に日本語字幕をつけたものを載せてある。3分32秒)。

アルゼンチンは1990年代後半から急激に遺伝子組み換え大豆の生産が拡大し、現在は世界第3位。しかし、その生産方法は広大な土地に大豆だけを植えて、飛行機から農薬を散布するというものだ。この農薬が毒性が高いモンサントの開発したラウンドアップ。
農薬空中散布

ソフィアさんは生まれてすぐの娘をこの農薬によって失った。その娘の死が受け入れられなかったソフィアさんは近くの母親たちを訪ね歩き、農薬の影響を懸念する母親たちを組織して、近所で発生しているガンなどの病気を調べ上げ、地図にまとめた。彼女たちの調査でわかったことは近所のガン発生率は全国レベルの41倍という高さだということだった(下の地図の赤い丸がガン患者)。
近所の病気の地図

母親たちは農薬空中散布ストップキャンペーンを始めた。コミュニティの人たちに農薬の危険を知らせた。
農薬の危険を知らせるセミナーを開く
しかし、その後ソフィアさんは電話で「子どもを殺すぞ」という脅迫を受けるようになり、ある男に銃を頭につきつけられて「大豆と関わるのはやめろ」と脅された。「でも私は止まるわけにはいかなかった」
「ここで起きているのは隠された大量虐殺。ゆっくり、そして秘かに毒を流す」
農薬に苦しむ住民
10年にわたる彼女たちの活動はついに大統領を動かし、農薬の影響調査を保健省に命じた。

ソフィアさんは大学の研究者(Andres Carrasco氏)とも連携して、農薬が出生異常をもたらすことを確認した。
Andres Carrasco博士とSofiaさん
この活動の結果、住民の居住地2500メートルの範囲の農薬空中散布は禁止されることになった。母親たちは全国中の農薬空中散布を禁止することを求めてさらに活動している。

アルゼンチンの農場の6割が大豆になっている。いわば大豆ブームの中でそれに対する闘いがどれほど困難なものか想像してみる。国中が熱中しているものにノーを突きつけるということはそう簡単なことではない。最近でもアルゼンチンで農薬汚染された地下水は塩水と同じだと御用学者が言ったとか。日本の放射能汚染で聞いたような台詞だが、そういう手のものは地球の裏でもごまんといるのだろう。

実際に殺害予告もあった。大農場主が法であり裁判官であるような南米において、その大農場主を敵にするということの怖さはなかなか表現するのが難しいと思う。

しかし、彼女は負けなかった。娘の無念を晴らすということ、そして今心配を抱えているお母さんたちとの連帯がそれを可能にしたのかもしれない。

彼女の闘いは極めて冷静で理詰めであったことは特筆できる。まず実態調査を行い、さらに信頼できるAndres Carrasco博士と動くことで有効な情報を国に突きつけることができた。Andres Carrasco博士はアルゼンチンでの農薬問題が大きな人権問題であることを証明した中心的な科学者である。

今、放射能汚染にまみれる日本、医療機関は情報を隠蔽し、放射能の被害は隠されている。そんな日本においても彼女の闘いはインスピレーションを与えずにはいないだろう。

ビデオはわずか3分32秒。ぜひ見てほしい(日本語字幕つけました)。


このビデオは2012年4月18日に「小農民の闘い国際デー」(勉強会)で南米で起きている遺伝子組み換え大豆による被害の1つとして紹介した。この勉強会の報告も読んでいただければ幸い →小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える



このソフィアさんたちの作った地図(町の農薬噴霧と関連がありうる病人の存在を記した地図)の詳細が見たいと思って検索していたら見つけた。

地図には白血病、ガン、ガンでなくなった、肝炎自己免疫症などのマークがある。実に痛々しい地図だ。遺伝子組み換え大豆に囲まれた小さな町に異常な病の発生。同様のことは南米の他の地域でも発生しているはずだが、なかなかこうした情報は出てこない。それだけにソフィアさんたちの奮闘の持つ意義ははかりしれない。

モンサント、不当なロイヤルティの徴収に対する違法判決下る!

モンサントはアルゼンチンの経済混乱につけ込んで入り込み、ブラジルやパラグアイなど遺伝子組み換えを認めていない国にも強引に入り込んで、わずか数年のうちに南米を遺伝子組み換えの国にしてしまった(モンサント、ブラジルの遺伝子組み換え大豆「開国」の手口 日刊ベリタ参照)

圧倒的多数の市民が反対しているにも関わらず、民主的プロセスを経ることなく、遺伝子組み換えは強引に合法化されたのだった。合法化以降はモンサントや他の遺伝子組み換え企業は政府に圧力をかけ、よりいっそうの遺伝子組み換え種の承認を計っている。この間にブラジルは世界一位の農薬使用国になってしまった。

モンサントのビジネスモデルは種子の供給を独占し、非遺伝子組み換え種子を可能な限り排除し、種子と農薬をセットで売りつけ、農業生産を支配し、独占的な利益を得るというものだ。モンサントの開発した種子から出た花粉で汚染された有機農家が被害を受けたにも関わらず、勝手にモンサントの種子を盗んだとして訴えられ、莫大な訴訟費用の前に廃業に追い込まれるケースが報告されているが、モンサントはその開発した種子の特許、知的所有権を武器に広大な地域に影響力を急速に及ぼすようになった(もっともその影響を与えている地域は世界全体で見るとわずか1割程度であり、南北米大陸にそれは集中している)。

しかし、そのビジネスモデルを正面から否定する判決が南米の遺伝子組み換え王国のブラジルで下った。

モンサントの遺伝子組み換え大豆のロイヤルティ、技術料、補償金の徴収を違法として、その徴収を禁止するというものだ。さらに本格的に(非合法下に)耕作が始まった2003年からの課金の返却までをも命じるものであり、モンサントのビジネスモデルを揺るがす内容を持っている。

ブラジルでは2003年以来、左派の労働者党政権が成立したが、農村地域においては大土地所有者の政治力は依然として強く、ルラ政権は大土地所有者への譲歩を続けた。世界的にも土地所有に極端な不平等のあるブラジルでは農地改革は長く社会の大きな課題であった。しかし、モンサントの登場と共に逆農地改革ともいうべき、土地を貧しい農民に分配するのではなく、大土地所有者への土地のさらなる集中が起きた。

多国籍アグリビジネスとブラジルの大土地所有者との連携の下、遺伝子組み換え大豆の生産は飛躍的に伸びた。しかし、同時に大豆生産農家とモンサントの間に不協和音も聞こえるようになってきた。今回の訴訟はその不協和音が確定的なまでに大きなものになっていることを物語っているように思える。

モンサントの政治力は未だに健在と思われる。この判決はすぐに覆される可能性は高いだろう。しかし、この遺伝子組み換え王国、米国につぐモンサント王国と思われたブラジルにこのような判決が出たことの意味は決して消すことはできないと思われる。

以下はブラジルでの記事の抄訳である。(Justiça condena Monsanto por cobrança indevida de royalties 裁判所、モンサントの不当なロイヤルティの請求に有罪判決

モンサント、遺伝子組み換え種子の特許料の徴収に違法判決下る!

ポルトアレグレ ポルトアレグレ地区第15民事法廷のジョバンニ・コンチ判事はモンサントによる遺伝子組み換え大豆へのロイヤルティを課すことを違法として、即刻停止することを命じた。この決定はパッソ・フンド地方組合、セルトン地方組合、サンチアゴ地方組合、ジルア地方組合、アーボレジンニャ地方組合、リオグランジドスル州農業労働者連合(FETAG)によるブラジル・モンサント社およびモンサント・テクノロジー社に対する集団訴訟に応じるものである。

4月4日に発表されたその決定において、小、中、大規模の大豆農家が2012年9月1日からロイヤルティ、技術料を払ったり、補償金を払うことなく、遺伝子組み換え大豆を保存し、再び畑に植え、その収穫物を食料として、あるいは原料として売る権利があることを判事は認めた。コンチはまた2010年9月1日から遺伝子組み換えを育てる生産者が他の小農民たちに保存してある種を譲ったり、交換したりする権利を認めた。

それだけでなく、2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆の売買に対してロイヤルティ、技術料、補償金をモンサントが課すことを禁止した。また判事は2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆生産へのモンサントによる課金を市場総合物価指数で補正し、月1%の利子を加えた上に返還するよう命令した。

ジョバンニ・コンチは日ごとに100万レアルの罰金支払いを条件に、ロイヤルティ、技術料、補償金請求の即刻禁止の差し止めを認めた。また両社は50万レアルの訴訟費用の全額の支払いを命じられた。