日本のタネのあり方を変えてしまう法案が国会に

 今国会で日本のタネのあり方を大きく変えてしまう法制度改革が行われてしまう、ということを書いてきました。そして18日に自民党の部会で国会に上程する法案が承認されたことが報道され、その法案の名前が「重要品種の育種及びその種苗の生産の振興に関する法律案(育苗法)」と「種苗法の一部を改正する法律案」であることがわかりました¹。まだ法案の中身は公開されていませんが、今回、明らかになった情報からその問題について考えてみます。
 前者の法案の名前は以前の仮の呼び名の方が本質を表していたと思います。以前は「革新的新品種開発のための新法」などと呼ばれていました。2030年度までに35品種の開発を目指すとしています。しかし、これまで新品種を一つ作るのには10年はかかっていました。2030年度ということは実質的に法案が成立してから5年を切る期間しかないことがわかります。いったいどうやって作るのかが疑問になるでしょう。
 
 でも、この目標は2021年に出された「みどりの食料システム戦略」、さらに遡れば2014年からの「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」ですでに立てられていたものと考えることができます。そして、すでにいくつもの候補が開発が始まっていて、市場に出すのも間近と思われます。
 この35品種に入る可能性が高いのは日持ちのする「ゲノム編集」メロンや、受粉作業が不要な「ゲノム編集」リンゴ、毒素を作らない「ゲノム編集」ジャガイモなどでしょう²。
 
 この方針にどんな問題があるのかについて、考える学習会も3月11日に開き、さらにその問題についてまとめた記事があります³。詳しくはそれを参照していただきたいと思います。
 
 ここではその問題点を絞ります。
 
 この法案の元の名にあった「革新的新品種開発」とは何か、ということです。従来の新品種開発とどこが違うのか、ということです。新たな技術を使うことで新品種開発のための期間を圧縮すると言っています。この技術とは主として2つの種類があり、一つが育種ビッグデータを用いるAI育種、もう1つが「ゲノム編集」であり、その「ゲノム編集」の構想の中に重イオンビームや中性子線などのビーム線育種も組み込まれています。これらの技術が持つ問題については前に書いた記事に詳しく書きました。
 
 果たして、このような技術を日本の種苗の基軸の技術にしていくということについて、日本社会の中で、十分な議論があったと言えるでしょうか? とりわけ一番影響を与える農家の方たちに情報が行っているでしょうか?
 特に「ゲノム編集」やビーム線育種は遺伝子の一部を破壊する技術であり、手っ取り早く、これまでにない性質を持った品種を作ることはできるかもしれません。しかし、これらの技術は遺伝資源を毀損していく技術であって、安全性は検証されておらず、長い目で見た時、むしろ失われるものの方が大きくなる可能性が高いと考えます。
 
 また、このように開発された品種が農家や日本社会にとって、どんな存在になるか、という点でも大きな問題になることが考えられます。というのも、これまでの日本の種苗の基軸は地方自治体が行う公的種苗事業によって支えられてきました。税金で作られる公的な品種が公的な財産になっていく、そのような好循環によって、日本のタネの根幹は支えられていたと言えるでしょう。
 
 ところが、今後の新品種開発体制では、その主軸は新技術に通じたバイオテクノロジー企業が中心に変わっていかざるをえないでしょう。というのも、この新技術を使った新品種の開発体制は地方自治体には整っておらず、それに特化した民間のスタートアップ、あるいはそうした部門を備えた大きな種苗企業が中心になっていくことは明らかだからです。
 
 以前ならば公的資金で開発したものの知的財産権は公的なものが普通でしたが、産業技術力強化法では、公的資金を使った場合でも、民間企業が知的財産権を取得できることになっており、その結果、今後、日本の新品種は少数の民間企業の独占物になっていく可能性が高いのです。
 
 「種子法とか種苗法とか幸いでいた人がいるけれども、何も変わらないじゃないか」「自分とは関係ない」と思う人はいまだに多いと思います。日本の改正された種苗法は世界で一番厳しいと批判されるのですが、現実に日本の農業現場はそんなことを意識されることは少ないかもしれません。なぜかと言えば、日本にはまだ公的種苗事業が健在であり、そうした公的なタネにはまだ自由度が残っているからです。だから現在の種苗法の問題を感じる場面は少ないかもしれません。
 でも、こうして日本のタネの開発が民間企業の独占物になっていき、地方自治体の公的種苗事業が細っていけば事態は一変します。毎回タネを買わなければならなくなるというだけではなく、企業の言う通りの農薬を使わないと育てられない、栽培方法や出荷方法まで自由が奪われていくことでしょう。そうなった時、もはや農家や市民の食の決定権は消え失せ、企業の完全な支配が完成してしまうことになります。
 
 タネとはわたしたちの生存権の根拠であり、それを奪われることは、わたしたちの生きる権利が企業によって決められてしまうことを意味します。
 
 国会での法案成立を防ぐ力は残念ながら、現在の国会には残っていないかもしれません。しかし、この問題を多くの人が認識して、その対抗策を作ることに力を合わせれば、打開する方法はまだ残っていると思います。
 
 その方法についても前の記事や学習会で提案させてもらいました。
 
 ぜひ、この問題点を広げていただければ幸いです。ぜひ、各地で学習会や議論の場を作ってください。

(1) 出願時から「新品種」保護 育苗法案と種苗法改正案、自民党が了承
https://www.jacom.or.jp/saibai/news/2026/03/260318-88164.php
新品種開発・普及の県や産地 各支援制度創設へ 農水省
https://www.agrinews.co.jp/news/index/368987

(2) 政策ニーズに対応したゲノム編集品種の開発
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/hinsyu/attach/pdf/r6hosei_r7_gaiyou-7.pdf

(3) 日本のタネのあり方を大きく変えてしまう法案が国会に
https://v3.okseed.jp/news/7931
オンライン学習会:今後の日本の食料政策を問う ー 植物工場、フードテック、乾田直播大規模化と種苗法再改正

添付した図は農林水産省農林水産技術会議事務局「品種開発をめぐる情勢について」2025年12月から
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/hinsyu/attach/pdf/hinsyu_kaihatu-7.pdf
この図では民間企業と地方自治体が対等な扱いになっているのだけれども、実際にそうではなく、開発が民間企業が中心となり、地方自治体の農業試験場は民間企業のためのインフラとして使うことが想定されているように思えてならない。
もう一つの機能は種苗の増産に向けた施設、つまり開発という上流の仕事ではなく、試験や種苗の増殖という下流の役割が課されてしまうのではないか。
公的リソースが民間企業に使われ、その利益は民間企業に握られる可能性が高い。

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