日本、枯れ葉剤大国へ?

2012年12月5日、日本政府はダウ・ケミカルが開発した枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えトウモロコシの栽培、食用、飼料用としての利用を承認した(参考:農林水産省:平成24年12月5日付けでカルタヘナ法に基づき承認した遺伝子組換え農作物(第一種使用規程) PDFファイル)。

なぜ、枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシ?

枯れ葉剤とはベトナム戦争で使われた化学兵器だが、これにより、先天性欠損症に代表されるさまざまな健康被害、環境破壊がベトナム戦争終結後も継続している。枯れ葉剤が含むダイオキシンは直接の被曝がなくなっても3世代先にも影響が残ると言われており、その被害はまだまだ続くことだろう。

この枯れ葉剤の成分の1つである2,4-Dを使った農薬は今でも米国中心に販売されている。インターネット上でも購入可能で、米国ではゴルフ場など市民の生活空間に近いところで日常的に使われているが、安全性には疑問が呈されており、使用禁止を求める動きは大きくなっている。

そのような状況でなぜ枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えなのか、ということだが、これはモンサントの開発した農薬ラウンドアップに耐性のある雑草が広がり続け、効果を失いつつあることが背景にある。効かないから農薬の量を増やす、それでも雑草が対抗してくるので、他の種類の農薬を混ぜる、増やすという、いわば自然に対する軍拡競争が続いているわけだ。

枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えをしたところで、雑草は枯れ葉剤耐性になっていくかもしれない。この方法では農薬の増加、環境汚染の拡大を止めることはできないが、政府の側にそれを止めようとする姿勢は弱い。

枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えが承認されてしまえば、米国内に大量の枯れ葉剤(2,4-D)がばらまかれてしまうということで、大きな反対運動が起きて、米国では今年収穫のトウモロコシのための承認は降りず、承認をめぐる攻防が続いている(参考:Reuters: Dow’s controversial new GMO corn delayed, protests continue)。

しかし、残念なことに、日本では反対の声が大きくなる前に日本政府は形式的なパブリックコメントを行ってあっさりこの枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えトウモロコシを承認してしまった(日本以外ではカナダが承認)。この件を報道した日本の報道機関はあっただろうか?

枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え承認のオンパレード?

12月5日の承認だけでも論外な事態なのだが、これだけに留まらない。農林水産省の資料によると、すでに昨年11月20日と12月18日にさらなる3種の枯れ葉剤耐性トウモロコシ(いずれもダウ)の学識経験者の意見の聴取を終え、承認に向け、審査中であることになっている(参考:カルタヘナ法に基づく第一種使用規程の承認申請について学識経験者の意見の聴取を終えた審査中の案件一覧 平成24年12月18日現在 PDFファイル)。

ダウ・ケミカル社からの申請書でその中味がわかる(ダウ・ケミカル:第一種使用規定承認申請書 PDFファイル)が、これは枯れ葉剤耐性に加え、グリフォサート、グルフォシネート耐性、さらにはBtトウモロコシを掛け合わせたものだ。

グリフォサートの効力が失われていく中で、グルフォシネートなど他の農薬にも耐える遺伝子組み換えが増えている。要するに農薬のカクテルだ。枯れ葉剤もグリフォサートもグルフォシネートも合わせて使おうといううことだ。枯れ葉剤もグリフォサートもグルフォシネートも有害性を指摘する研究者は多い。

さらにBt。BtとはBacillus thuringiensisの略で、虫が食すと激しい症状を起こして死ぬとされる細菌で、それ自身は自然界に存在するものだが、それを植物自身が生成させるように遺伝子組み換えしたものがBt遺伝子組み換え作物ということになる。Btトウモロコシの種子はそれ自身が農薬なのだ。

Bt毒素は虫には致命的でもほ乳類が食べても害にならないとされるが、Btトウモロコシを2年間与えたラットでガンなどの腫瘍が発生したという研究もあり、その安全性には疑問符が付けられている。

遺伝子組み換えトウモロコシの本国である米国ですら承認をためらう危険性を指摘される枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え作物を日本は次から次へと承認していくのだろうか? そしてマスコミはまた沈黙を守るのだろうか?

実際に現在の承認システムでは市民がその問題を知ることができる機会がほとんどない。十分な情報が提供されないまま承認のための形式的な儀式が行われ、承認されていく。

消費者が拒否すれば生産者は作れない。しかし消費者が拒否しなければ生産者は作るだろう。日本の消費者が枯れ葉剤大量使用に道を開くことになる。その意味を十分考えたい。


追記(1月26日):
米国ではダウ・ケミカルは枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシの今年度収穫のための承認を断念せざるをえなかった。遺伝子組み換え企業の本国で承認されないものが日本で承認される。日本政府は米国政府以上に米企業に忠実なのだろうか? 
米国政府内は遺伝子組み換え企業の影響力が強いのに、この承認が長期間保留状態である理由としては、報道や市民運動の果たす役割が大きい。

昨年4月には米国農務省(USDA)に枯れ葉剤遺伝子組み換えトウモロコシに反対する36万5000のパブリックコメントが送られている。40万の反対署名がすでに届けられており、さらに今、枯れ葉剤遺伝子組み換えトウモロコシにとどめをさそう、とさらに運動が盛り上がっている。

この状況の違いに何を感じるべきだろうか?


追記2(2月18日):
2013年2月15日、新たな枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシの承認前のパブリックコメントが始まった。
遺伝子組換えトウモロコシ、カーネーション及びダイズの第一種使用等に関する承認に先立っての意見・情報の募集(パブリックコメント)について

この資料6の「チョウ目害虫抵抗性並びに除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ」、資料7の「チョウ目及びコウチュウ目害虫抵抗性並びに除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ」が枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシ、どちらもダウ・ケミカル社。

除草剤アリルオキシアルカノエート系と言われても何のことかわからないと思うが、2,4-D系の農薬=枯れ葉剤のことだ。単に枯れ葉剤耐性なだけではない。枯れ葉剤に加え、グルホシネートやモンサントのラウンドアップの主成分(グリフォサート)の耐性を組み入れている。要するに農薬のカクテル使用を前提にしたものであることになる。しかもBt(殺虫成分を生成する)でもある。

なし崩し的に進んでいく日本の承認行政…。

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