ラウンドアップ(グリホサート)は複数の種類のがんをひきおこすとする研究が発表に

 モンサント(現バイエル)のラウンドアップ(主成分グリホサート)の発がん性をめぐり、新たな有力な研究成果が発表された¹。すでに2015年に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートの発がん性についてグループ2Aの発がん性物質と分類して以来、大きな論争が繰り広げられてきたけれども、大きな影響を与えずにはいない重要な結果である。
 この研究(グローバル・グリホサート・スタディ)は国際的な研究機関が参加する大規模・長期的なもので、その結論はグリホサート系農薬は複数の種類のがんを引き起こすというものだ²。この研究での方法はグリホサート単体、米国や欧州で売られているラウンドアップ製剤、それぞれで、現在、欧州が安全とみなしているレベルのものを水を介してラットに2年間与えるというもの。1000匹以上のラットが使われたが、一切投与されなかった対照群のラットと比較して、複数の組織部位で良性および悪性腫瘍の発生率の増加が見られた。腫瘍が確認されたのは、血リンパ網組織(白血病)、皮膚、肝臓、甲状腺、神経系、卵巣、乳腺、副腎、腎臓、膀胱、骨、膵臓内分泌部、子宮、および脾臓(血管肉腫)。これらのほとんどは通常のラットでは発生率は1%未満。白血病によって死んだ4割は幼少期に発症している。
 
 この研究はこの発がん性の研究の発表で終わらず、次の課題は神経毒性の研究になるという。実際にグリホサートが与える健康被害は発がんだけでない、と指摘されてきた。でも、これまで米国などで闘われている裁判は発がんのみを争点にしてきた。神経毒性、遺伝毒性・生殖機能への影響など、まだまだ多くの分野は裁判では十分争われていない(遺伝毒性についてはフランスで初めての裁判が始まっている³)。
 
 ラウンドアップの発がんに関する裁判だけで、バイエルは約110億ドルという莫大なお金を費やしており、さらに未解決の訴訟が6万7000件はあると言われている⁴。
 それに拍車をかけるのが米国政府によるMAHA(Make America Healthy Again)委員会報告書だ。訴訟の中心テーマになっている非ホジキンリンパ腫には言及がなく、これはバイエルのロビイストの勝利かもしれないが、グリホサートのリスクに言及したものとなっており、肝心の米国政府からもバイエルは見放された形になった(トランプ関税のいい加減さを考えれば、今後どうなるのかあまり信頼できないが)⁵。
 
 5月28日には米国ミズーリ州控訴裁判所が、バイエル社に原告3人に対して、6億1100万ドル(今日のレートで約883億円)の支払いを命じている⁶。さらに非ホジキンリンパ腫以外の分野でも裁判が広がれば、もはやバイエルはもう持たないだろう。バイエルは米国の各州で訴えを禁止する法案の成立を期待して、21の州で制定の動きが生まれたものの、結局、法案を可決したのはジョージア州とノースダコタ州の2州のみに留まった⁴。もはや、ジ・エンド。ということで、バイエルはモンサントの事業を終わらせることも視野に入れ始めたと報道されている⁷。
 
 どころが、この日本ではまったく違う情報ばかりが流れている⁸。たとえば、”IARC グリホサート”などの言葉でGoogle検索してみるといい。IARCの発がん性の判断は誤りだ、という農薬村のサイトばかりが上位に並ぶ。さらに、日本でラウンドアップの販売を手掛ける日産化学は、ラウンドアップを「誹謗中傷」すれば裁判に訴えると脅している³。日本の中だけはラウンドアップは勝ち続けている。これは現代の「勝ち組」だろう。勝ち組とはブラジルの移民コミュニティの中で、日本の敗戦を口にする人を攻撃した人びとのことだ。彼らは日本の敗戦が知られれば、彼らが持つ軍票(日本軍が発行した代用貨幣)が無価値になることを怖れて、恐怖政治を引いて、日本が勝っていることにしようとした。
 「今も、ラウンドアップは勝ち続けている」と言わないと利権が奪われる人たちが日本にいるのだ。それが効を奏して、日本のマスコミは世界で起きていることをまず報道しない。グリホサートは日本の環境を汚染し続け、命はより脅かされることになる。
 
 今回の研究の中心を担った研究者たちのインタビューが公開されている⁹。「金よりも事実が勝つ」「何百万の人の命がかかっている」と述べたその言葉は重い。
 この現代の「勝ち組」に加担するのか、日本でも問わざるをえない。

(1) Carcinogenic effects of long-term exposure from prenatal life to glyphosate and glyphosate-based herbicides in Sprague–Dawley rats
https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-025-01187-2

(2) New study adds to evidence that glyphosate weed killer can cause cancer

New study adds to evidence that glyphosate weed killer can cause cancer

International study reveals glyphosate weedkillers cause multiple types of cancer
https://gmwatch.org/en/106-news/latest-news/20557-international-study-reveals-glyphosate-weedkillers-cause-multiple-types-of-cancer

(3) 5月20日に書いた投稿参照
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid02ReGFe5KHT2Li9iQGQqswKfZ1WMuuJAmJbGBS7cVFkFmitAw9AEYJmsCSi3wCm82rl

(4) Monsanto Roundup Lawsuit Update

Monsanto Roundup Lawsuit Update

(5) MAHA Commission Calls Out Toxic Chemicals including Glyphosate and Atrazine for Damaging the Health of Americans

MAHA Commission Calls Out Toxic Chemicals including Glyphosate and Atrazine for Damaging the Health of Americans

Trump-backed pesticide report led by RFK Jr. draws fire from agrichemical industry

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(6) Bayer’s Monsanto loses appeal of $611M Roundup verdict in Missouri
https://www.reuters.com/legal/government/bayers-monsanto-loses-appeal-611m-roundup-verdict-missouri-2025-05-28/

(7) Bayer seeks Roundup settlement, explores Monsanto bankruptcy, WSJ reports
https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/bayer-seeks-roundup-settlement-explores-monsanto-bankruptcy-wsj-reports-2025-05-15/

“On the ropes,” Bayer seeks escape from costly Roundup litigation

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(8) 小島正美:除草剤「ラウンドアップ」への誹謗中傷に企業が損害賠償請求へ、SNSで飛び交う虚偽情報に一石、悪質な拡散を止めることができるのか
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/37739

(9) Final Carcinogenicity Results from the Global Glyphosate Study

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