混合農薬の新たな毒性の発見と日本の思考停止:グリホシネート規制パブコメ

  今の日本の厳しい現状を作り出しているのは他ならぬ思考停止以外ない。「〇〇だから仕方ない」できない理由を見つけて安心するのか、そこで止まる。すべてが止まる。その典型が「すべての原因が日米安保にある」だから何も変えられない? いや、変えられるものも変えられないと決めつけているから変わらないに過ぎない。
 
 メキシコはモンサントの農薬ラウンドアップ(グリホサート)の禁止、遺伝子組み換えトウモロコシの輸入の禁止を決めた。米国に接するメキシコ、その米国政府に絶大な力を持つモンサント(現バイエル)に挑戦する、あまりに無茶、無謀ではないか? まるでアリと巨象、ダビデとゴリアテの戦い。バイエルは米国政府に圧力かけ、米国政府もメキシコ政府を威嚇する。しかしメキシコ政府は怯まない。ついに米国内でメキシコのために遺伝子組み換えトウモロコシではなく、Non-GMOトウモロコシを作ろうという気運まで生まれてきた(1)。
 
 インド政府は農薬グリホサートの規制に踏み出した(2)。健康被害が深刻だからだ。一方、インドと逆に日本ではグリホサートの規制は緩和されており、日本ではグリホサートの使用量は増加の一途である。なぜ、日本ではグリホサートが規制できないのか? どこで止められてしまうのか、それを知る上で象徴的なことが起きた。インド政府がグリホサートの規制を決めた途端に、住友化学の株価が一時10%も急落したのだ(3)。
 住友化学はモンサントと技術提携しており、モンサントの開発した遺伝子組み換え種子の栽培に住友化学の農薬が使われ、現在はバイエルが住友化学の開発した農薬に対応した遺伝子組み換え種子を開発中である(ちなみに日本でラウンドアップの販売権を持っているのは住友化学ではなく、日産化学である)。その住友化学が経団連の会長となり、日本政府の政策に影響力を与えていることは疑いえない。
 
 政府の政策を一企業が決めるのはまったく民主主義でも何でもない。たとえばドイツは自国の企業バイエルやBASFが開発した遺伝子組み換え作物の栽培を禁止し、農薬の使用も禁止している。スイスも自国企業シンジェンタの遺伝子組み換え種子の栽培を許していない。政策を決めるのは市民であり、企業ではない。
 
 米国政府が決めているから仕方ない、経団連があるから仕方ない、そこで思考停止しているのが日本。しかし、このままでは怖ろしい未来が待っている。米国はもう日本に大豆を供給しなくなるかもしれない。住友化学が頼りにしていたモンサントはビジネスモデルが危なくなっている。トヨタはもう車が売れなくなるかもしれない。日本が思考停止している間に世界は急速に変わりつつある。そろそろ思考停止を止めないと本当にやばくなるのが日本だろう。

 さて、日本では除草剤グルホシネートの残留基準値が改定されようとしている。このグルホシネート(商品名バスタ)はモンサントのラウンドアップのライバル商品で、バイエルが開発し、バイエルがモンサントを買収する際に独占禁止回避のためにBASFにその権利が移譲されているが、グリホサート以上に健康に与える影響が強いとして、EUではグリホサートに先立ちその使用が禁止されている。そんな危険な農薬を日本はまだ承認し続けているばかりか、今回の改定では4品目でその規制が緩和される(43品目では逆に規制が厳しくはなっている)。
 
 グリホサートとグルホシネートが混合されるとさらに毒性の強い物質が作られるという報告も出ている(4)。現在、多くの遺伝子組み換え作物はグリホサートとグルホシネートのどちらにも耐性があるものが開発されており、そうした作物には両方の農薬が使われている。実は昨日8日にもグリホサートとグルホシネートの両方に耐性のあるバイエルの遺伝子組み換えてんさい(Sugar beets)が承認に向け、生物多様性影響評価検討会総合検討会議が開かれたが、誰も問題を指摘しなかった。そうした遺伝子組み換え作物は続々と増えている。政府がつかんでいない毒に農家も消費者も自然も曝されている可能性が高い。
 
 このグルホシネートなどの農薬の残留基準値を改定するためのパブリックコメントが現在行われていて、11日が締め切り(4)。何も意見なしで承認するのはちょっとまずいと思う。一言でも、コメントを送りたい。

  • その健康や生態系への危険からEUでは禁止されるグルホシネートを4品目とはいえ、残留基準値を緩和することはありえない。禁止に向けて動くべき
  • グリホサートと混合するとグルホシネートはより強い毒性ある物質を作ると指摘されている。農薬の影響を個々に評価するのではなく、そうした複合した場合の影響を考えて、使用を規制すべき。

(1) EXCLUSIVE Mexico to proceed with GMO corn ban, seeks international grain deals -official
https://www.reuters.com/markets/commodities/exclusive-mexico-proceed-with-gmo-corn-ban-seeks-international-grain-deals-2022-10-27/

(2) Centre restricts use of herbicide glyphosate over health hazards
https://www.business-standard.com/article/economy-policy/govt-clamps-down-on-widely-used-herbicide-glyphosate-fearing-health-hazards-122102600942_1.html

(3) Sumitomo Chemicals slumps 4.5 per cent as government restricts glyphosate usage
https://www.thehindubusinessline.com/markets/sumitomo-chemicals-slumps-45-per-cent-as-government-restricts-glyphosate-usage/article66060800.ece

(4) Glifosato y glufosinato de amonio, un combo tóxico para el ambiente y la salud
https://agenciatierraviva.com.ar/glifosato-y-glufosinato-de-amonio-un-combo-toxico-para-el-ambiente-y-la-salud/

(5) 「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(案)」(農薬(アシノナピル等8品目)の残留基準の改正)に関する御意見の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220190&Mode=0

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