種苗法再改正に向けたパブコメ

 2020年に種苗法が改正になり、それがまた来年、再改正が予定されている。それに関わるパブリックコメントの締め切りが迫ってきた(6月16日締め切り)。
 なぜ改正したばかりの法律をまた改正しなければならないのか、どんな問題があるのか、少し、パブコメからは離れるけれども、簡単に整理しておきたい。
 
 まずは基本的な話。タネは農家が延々と長い期間、つないできたので、今につながっている。だから農家はタネに関する基本的な権利があるということ。そして、それを改良したり、維持したりするにも手間も費用もかかるので、その育成者の権利(知的財産権)もある。この農家の権利と育成者権がバランスしないと、どうにもうまくいかない。
 でも、近年は巨大化した種子企業の力が強くなりすぎて、世界の農民の権利が危うくなってきている。そこで国連ではその権利(農民の権利、タネの権利)をここ数十年かけて守れるようにさまざまな条約や権利宣言が出されている。
 
 残念ながら、日本の改正種苗法にはこの国連の蓄積がほとんど反映されておらず、育成者権ばかりが強調されることになった。世界ではこんな種苗法はイスラエルと日本にしかない、と言われるくらい極端なものになってしまっている。改正前の種苗法では基本的に自家採種する権利は登録品種にも認められていたけれども、それが改正で、例外無しに原則自家採種禁止になった(育成者権を持つものが許諾を出した場合のみ可能になる)。
 
 種子の知的財産権を強化したのであれば、改正種苗法は日本の種子を海外にどんどん輸出するというものになったかというと、まったくそうではない。というのも、この改正種苗法で海外への持ち出し禁止を指定することができるようになり、1975品種(2021年時点)が海外に持ち出し禁止に指定されることになった。
 
 種苗会社であれば世界中で売りたいと思うはずだ。だけど、自ら海外への持ち出しを禁止するというのは自ら市場を制限してしまうことになる。なぜ、自ら市場を塞いでしまうのか、というと、海外で国内と同様の育成者権を確保できないこと、しかも、日本よりも海外の方が生産規模が大きく、海外の生産に国内の生産が圧倒されてしまう、ということも危惧される。だったら、使わせないようにしてしまえ、というのが2020年段階の種苗法改正であったと言えるだろう。
 
 しかし、国内の市場はここのところ縮小傾向にある。このままでは内に閉じこもるのであれば、日本の種苗セクターはますます厳しい状態に追い込まれてしまうということになる。だから2020年の種苗法改正のままで終わるわけにいかないということになる。つまり、外に出さないと決めた改正種苗法をさらに改正して、今度は輸出する方法までしっかり打ち出すことが必要になるということになる。それが来年の種苗法再改正の目的ということになるだろう。
 
 でも、2020年段階で禁止したものを解禁にするというわけではない。そこで持ち出されるのが戦略的海外ライセンス、というものになるのだろう。これは単に種苗を売るのではなく、実質的に日本側が海外での生産を日本の生産を損なわないように規制することを目的にしたものだ。

パブコメ優良品種の管理・活用に関する農水省資料
 
 普通、タネを売る場合は、タネを買った農家のフリーハンドにタネを委ねる。でも、この戦略的海外ライセンスにおいては、その形は取らない。日本の側が出荷できない時だけ、その農産物の出荷が許される。日本が出荷できない時に、出荷してもらって、市場の棚を確保してもらい、顧客をがっちり獲得する。日本の農産物が出荷できる時には出荷させずに、日本の農産物が棚を独占することで種苗と収穫物の販売と利益を最大化させるという、かなり日本にとって都合のいいライセンス契約の構想になる。
 
 もっとも契約したけど、それを履行しなかったらどうするのか? 海外での契約違反を日本政府が出かけていって罰則を課すことは不可能。モンサントの場合は海外の種苗会社まで買収して、自組織でモンサント警察と呼ばれるような監視組織まで持って、強引に特許契約を押し通し、違反者は裁判に訴えた。でも、同じことを日本企業が実施するのは難しい。
 
 ということで、ここでそのモンサント警察の代わりになるものが必要となる。種苗法が改正された後、その作業が託されたのは農水省ではなく、民間企業などで構成される外郭団体である農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)。ここが中心になって植物品種等海外流出防止対策コンソーシアムが作られて、農業知的財産管理支援機関の設立に向けて、その具体策が練られてきたはずだが、その報告書は見つからず、現状がどうなっているかまでは、わからない。
 
 果たして、こんなことが成り立つのだろうか? 日本の事情で生産が左右される。海外の生産者は農民というよりも限りなく契約労働者に近い。決定権は自分たちにはなく、日本の育成者権保持者になってしまう。当然、その国の法律で許されるものにならなければならないが、これはその国の法律の改正も必要になるだろう。

農水省概算要求:農業知的財産保護・活用支援事業
 
 以前の改正種苗法は日本の国内法に過ぎなかったが、もし、来年上程される種苗法再改正法案が、このような戦略的海外ライセンスを前提にするというものであれば、海外での種苗法改正など法改正も必要となるだろう。
 アジアの隣国で、日本政府からの圧力が来ていると声が上がっている。つまり、日本国内の農民の権利、タネの権利を奪うだけでなく、アジア地域の農民の権利を奪うことにつながる可能性が高くなる種苗法再改正になる可能性があるといわざるをえないのではないだろうか?
 
 現在、公表されている報告書を読み込むと、以上のような流れが見えてくる。国内の農業者のためになる、という表現が繰り返されるのだが、これは大企業が潤えば、中小企業や貧困者もその恩恵にあずかれるという永遠に実現することのないトリクルダウン説の別バージョンのように思えてならない。海外の食のシステムまでつけ込むようなことをしなければ、日本の生産者の利益は守れないのだろうか? いや、それは一部の企業の利益になったとしても日本の生産者がそれで潤うことにはなることなどないのではないか。
 
 海外での日本の育成者権を守るという農業知的財産管理支援機関とはどんなものになろうとしているのか、国内外での農民の権利はどうなるのか、農水省やJATAFFと公開の場で詰めていく必要がありそうだ。
 そして、もう期限が迫ったパブコメなのだが、こうした方向性を念頭に農水省の「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会(中間報告)(案)」を読んでもらえれば、少しパブコメの問題点が理解できるのではないだろうか?
 
 まだ具体的なパブコメ文を書くところまで行かなかったが、長くなったので、ここでいったん止めます。

パブリックコメント
「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会 中間報告案」についての意見募集・情報の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcmSp/1031?CLASSNAME=PCM1031&Mode=0&id=550004136
このページにある「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会 中間報告案」

参考情報:
公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)令和6年度事業計画
https://jataff.or.jp/about/pdf/keikaku.pdf

添付図は農業知的財産保護・活用支援事業 令和2年度予算概算要求額
https://www.maff.go.jp/j/budget/2019/attach/pdf/index-58.pdf

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