ベロモンチダムのビデオ紹介 & Xingu+23

ブラジルのベロモンチダムにより大きな影響を受ける先住民族が他の遠くの地域の先住民族と共にダム建設と闘う決意を語るビデオ。マトグロッソ州ピアルスで300人、18の­異なる民族を代表する先住民族が集まり、ベロモンチダムが先住民族に対して与える影響を語り合い、決意を固める。

オリジナルは”Belo Monte – Piaruçu”
すでにダムの建設は2011年に始まり、川は濁り、人びとは大きな影響を受けている。現地で何が起きているか、上のビデオをぜひ見てほしい。映像も音楽も美しいビデオなので、そのまま再生させるのではなく、歯車のアイコンをクリックして、解像度を720p HDを選択し、さらに全画面で見てほしい。

ベロモンチダムに影響を受けるシングー川周辺先住民族や住民はRio+20が開かれている同じ時期、ダム建設地に近いアルタミラに集まり、Xingu+23という集まりを持つ。+23とは1989年にベロモンチダムの建設を止めた年から23年ということを意味する。

すでにサイトも立ち上がっていて、寄付も受け付けている。Xingu+23
資金的にも厳しい中行われるこの会議、なんとか支援したいところだが、日本からは直接寄付が難しいようだ。

支援するいい方法がないものか模索中。

小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える

4月17日は小農民の闘い国際デー。その翌日にfrom Earth Cafe “OHANA”でこの日の意味を日本との関係で考える集いが開かれ、問題提起をさせていただいた。

16年前の1996年4月17日、ブラジルのアマゾン東端のエルドラードドスカラジャスで農地改革を求める人びとが21日虐殺された。この日を小農民の闘い国際デーとしてVia Campesinaとそれに賛同する運動が世界各地で取り組みを毎年行っている。

まずはMST(Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra、土地なし地方労働者運動)の取り組みを通じてそのブラジルの小農民の闘いを見た。MSTはブラジルの農地改革を求める人びとの運動をつなげていく形で1984年に結成された運動団体である。

下のビデオはリオグランジドスル州で農地改革を求めてキャンプ生活を送る人びとのインタビューを中心にMSTの歴史を振り返り、MSTの使命、MSTの求めるビジョンを表現したものだ(ポルトガル語、スペイン語字幕)。

MST (Movimiento Sin Tierra) 1ra parte: Campamentos

農地改革を求める素顔の人びとの顔があらわれていて、なかなかいいビデオだと思う。ブラジルでは1%の超大地主が農地の46%を独占しているという。1988年憲法(現行憲法)では社会的機能を果たしていない非生産的土地は農地改革の対象となる。しかし、行政はほとんど動かない。

MSTはそうした土地を見つけて、その側にキャンプを張り、長年政府にその土地の農地改革を求めて闘う。今は占拠(オキュパイ)運動が盛んだが、ブラジルの農地改革を求める人びとは長いこと、そうした活動を行ってきた。彼らの運動は合法的であり、ブラジル社会の中からも絶えない支援がある。しかし、地方で絶大な権力を持つ大土地所有者は政府や警察、マスコミに大きな影響力を持ち、MSTを犯罪組織、テロ組織として孤立化させようとしてきている。

そんな中でも歌手や有名人でMSTの支援を公言している人たちは少なくない。下記のビデオはChico César。実力と人気のある歌手だ。Pensar em Vocêとは「あなたのことを思う」という意味。

農地改革を求める運動に対して、さまざまな弾圧がかけられる。自警団(殺し屋)による恐喝、殺害、警察による強制排除など。最悪のケースが1996年にエルドラードドスカラジャスでで起きた。大地主に依頼された軍警察が無差別発砲、21人が殺され、多数の負傷者を出した事件だ。

下記のビデオはこの事件を小説『中断させられた行進』に書いた著者へのインタビューでカラジャスの虐殺をまとめたものだ

小農民とは誰か?

ブラジルの場合、それは先住民族であり、最初の闘いは先住民族の闘いだった。現在もなお、先住民族は土地を奪われ、殺害の対象となるなど厳しい状況が続いている。下記のビデオはマトグロッソ州で豊かな森を牧場や大豆畑に奪われた先住民族シャバンチの闘いを描いたもの。

もう1つ、下記はマトグロッソドスル州で同様に大豆やサトウキビ畑に土地を奪われる先住民族グアラニ・カイオワの闘いを描いたものである。

ブラジル、南米の小農民を追い詰める遺伝子組み換え大豆

ここ近年、ブラジルを含む南米で急速に遺伝子組み換え種子が農業生産に入り込んできた。この過程は逆農地改革と呼ばれる。つまり、世界最悪レベルの農地の集中を改善する農地改革をするのではなく、遺伝子組み換え大豆を導入することで、さらに土地の集中、分配の不公平を拡大させることになるというものだ。

その状況を示すビデオが以下の『Killing Fields』。ブラジルだけでなくパラグアイも含めて、現地の小農民、先住民族に何が起きているかを表現した番組である。(GreenTVに日本語字幕版があったのだが、現在アクセスできない状況になっているので、ここでは英語版を紹介しておく)。

詳細は末尾のプレゼンファイルの図表などを参照していただきたいが、ここ10年ほどの間にブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアなど南米での大豆生産は急増しており、それに伴い、農薬使用も激増している。

その中で小農民は土地を追い出され、また住民はその農薬によって大きな被害を受けるにいたっている。

アルゼンチンでも空中散布される農薬(モンサントの開発したラウンドアップ)によって大豆畑周辺住民にガンや白血病、胎児や子どもの病気が大幅に増え、国連人権委員会でも取り上げられる大きな問題となっている。

この問題に関しては遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たちにまとめたので、その記事を参照していただきたい。

この大豆生産が急激に増加した理由、それは北における大豆の需要が急増したからに他ならない。その理由の一つは家畜の餌であり、もう1つはバイオ燃料である。

南米での逆農地改革を止める上で日本の消費者にはできることがある。いや止める義務があると言った方がいいかもしれない。単に義務というだけでなく、食の安全を考える上でもこれは避けて通れない。遺伝子組み換え大豆は決して安全な食品ではない。遺伝子組み換え大豆を食べて育った家畜は病気になる可能性が高い。

大地や小農民を傷つけて作られた大豆はまたそれを食べる家畜をも傷つける。遺伝子組み換えではない安全な飼料を食べさせた肉を求めること、そしてどのような飼料を食べさせたのか食品表示の義務づけを行うことはこうした反倫理的食料生産を停止に追い込む上で有効なはずだ。

この問題で浮かび上がる問題は食料主権の問題であると思う。遺伝子組み換え大豆が植えられた地域では食料がなくなってしまう。遺伝子組み換え大豆は主として輸出のための家畜の餌であったり、バイオ燃料の原料であり、食料ではない。食料を外の地域から輸入して購入できないものは飢えるしかない。

ひるがえって日本を考える。先進国の中で圧倒的に低い日本の食料自給率。前原議員などは現在の日本の農業すらも売り渡して構わないようなことを言って憚らない。いわば日本は世界でもっとも食料主権を売り渡してしまっている国といわざるをえないだろう。

一方、南米において人びとは食料主権を取り戻し、自分たちの手で自分たちが食べるものを作り出せる社会にしようと闘っている。

われわれにとって問われているのは彼らの食料主権を奪うような現在の農業モデル・穀物流通ビジネスモデルのまま消費を続けることを止めることによって彼らの食料主権を求める闘いと連帯して、同時にわれわれにとっての食料主権を取り戻すことであると考える。

モンサント、不当なロイヤルティの徴収に対する違法判決下る!

モンサントはアルゼンチンの経済混乱につけ込んで入り込み、ブラジルやパラグアイなど遺伝子組み換えを認めていない国にも強引に入り込んで、わずか数年のうちに南米を遺伝子組み換えの国にしてしまった(モンサント、ブラジルの遺伝子組み換え大豆「開国」の手口 日刊ベリタ参照)

圧倒的多数の市民が反対しているにも関わらず、民主的プロセスを経ることなく、遺伝子組み換えは強引に合法化されたのだった。合法化以降はモンサントや他の遺伝子組み換え企業は政府に圧力をかけ、よりいっそうの遺伝子組み換え種の承認を計っている。この間にブラジルは世界一位の農薬使用国になってしまった。

モンサントのビジネスモデルは種子の供給を独占し、非遺伝子組み換え種子を可能な限り排除し、種子と農薬をセットで売りつけ、農業生産を支配し、独占的な利益を得るというものだ。モンサントの開発した種子から出た花粉で汚染された有機農家が被害を受けたにも関わらず、勝手にモンサントの種子を盗んだとして訴えられ、莫大な訴訟費用の前に廃業に追い込まれるケースが報告されているが、モンサントはその開発した種子の特許、知的所有権を武器に広大な地域に影響力を急速に及ぼすようになった(もっともその影響を与えている地域は世界全体で見るとわずか1割程度であり、南北米大陸にそれは集中している)。

しかし、そのビジネスモデルを正面から否定する判決が南米の遺伝子組み換え王国のブラジルで下った。

モンサントの遺伝子組み換え大豆のロイヤルティ、技術料、補償金の徴収を違法として、その徴収を禁止するというものだ。さらに本格的に(非合法下に)耕作が始まった2003年からの課金の返却までをも命じるものであり、モンサントのビジネスモデルを揺るがす内容を持っている。

ブラジルでは2003年以来、左派の労働者党政権が成立したが、農村地域においては大土地所有者の政治力は依然として強く、ルラ政権は大土地所有者への譲歩を続けた。世界的にも土地所有に極端な不平等のあるブラジルでは農地改革は長く社会の大きな課題であった。しかし、モンサントの登場と共に逆農地改革ともいうべき、土地を貧しい農民に分配するのではなく、大土地所有者への土地のさらなる集中が起きた。

多国籍アグリビジネスとブラジルの大土地所有者との連携の下、遺伝子組み換え大豆の生産は飛躍的に伸びた。しかし、同時に大豆生産農家とモンサントの間に不協和音も聞こえるようになってきた。今回の訴訟はその不協和音が確定的なまでに大きなものになっていることを物語っているように思える。

モンサントの政治力は未だに健在と思われる。この判決はすぐに覆される可能性は高いだろう。しかし、この遺伝子組み換え王国、米国につぐモンサント王国と思われたブラジルにこのような判決が出たことの意味は決して消すことはできないと思われる。

以下はブラジルでの記事の抄訳である。(Justiça condena Monsanto por cobrança indevida de royalties 裁判所、モンサントの不当なロイヤルティの請求に有罪判決

モンサント、遺伝子組み換え種子の特許料の徴収に違法判決下る!

ポルトアレグレ ポルトアレグレ地区第15民事法廷のジョバンニ・コンチ判事はモンサントによる遺伝子組み換え大豆へのロイヤルティを課すことを違法として、即刻停止することを命じた。この決定はパッソ・フンド地方組合、セルトン地方組合、サンチアゴ地方組合、ジルア地方組合、アーボレジンニャ地方組合、リオグランジドスル州農業労働者連合(FETAG)によるブラジル・モンサント社およびモンサント・テクノロジー社に対する集団訴訟に応じるものである。

4月4日に発表されたその決定において、小、中、大規模の大豆農家が2012年9月1日からロイヤルティ、技術料を払ったり、補償金を払うことなく、遺伝子組み換え大豆を保存し、再び畑に植え、その収穫物を食料として、あるいは原料として売る権利があることを判事は認めた。コンチはまた2010年9月1日から遺伝子組み換えを育てる生産者が他の小農民たちに保存してある種を譲ったり、交換したりする権利を認めた。

それだけでなく、2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆の売買に対してロイヤルティ、技術料、補償金をモンサントが課すことを禁止した。また判事は2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆生産へのモンサントによる課金を市場総合物価指数で補正し、月1%の利子を加えた上に返還するよう命令した。

ジョバンニ・コンチは日ごとに100万レアルの罰金支払いを条件に、ロイヤルティ、技術料、補償金請求の即刻禁止の差し止めを認めた。また両社は50万レアルの訴訟費用の全額の支払いを命じられた。

ブラジルの森林、 先住民族と日本

A SEED Japan グリーン主流化セミナー ブラジルの森林とわたしたちの生活 で現在のブラジルが抱える問題と日本の関わりについて話をさせていただいた。

身近な次元で何が可能かということまで落とし込んで、話題を提供すべきだったのだけど、ブラジルの問題を包括的にまとめ出すとその現実の厳しさに引きずられてしまって、現実を語ることに終始してしまったと反省している。

もちろん、身近な次元でできることはあるし、それを討論していくためにはさらに1時間くらい必要だったのかもしれない。

たとえば遺伝子組み換えの問題。
南米を浸食している遺伝子組み換え大豆は、社会を蝕み、環境を蝕み、人の健康を蝕んでいる。これをブラジル人社会の側だけで変えようと思っても非常に困難。買い手がいっぱいいる以上、さらなる拡大を防ぐことは難しい。その遺伝子組み換えは北での家畜の餌やバイオ燃料になっている。日本の商社もどんどん輸入を拡大している。

遺伝子組み換え大豆で育った家畜の肉は実際に危険であると思う。カナダで遺伝子組み換えの飼料で育った肉を食べた妊娠中の女性93%の血液からBt 毒物(Cry1Ab)という遺伝子組み換え作物が作り出す殺虫性の毒が検出されたという研究が昨年発表されている。この場合はBt遺伝子組み換えトウモロコシのケース(Bt toxin found in human blood is not harmless)。

害虫には毒となるタンパクを作るように組み替えられたものなのだが、人間の腸では破壊されてしまい、体外に排出されるから安全と説明されていた。遺伝子組み換え大豆の場合にも残留除草剤の影響に関する懸念は高まっている。そうした肉を食べることは食べる側の健康被害の可能性を拡大し、さらに南北米大陸での遺伝子組み換え穀物の生産を支えることになる。

どうせ肉を食べるなら安全な飼料を使っている肉にすべきだし、遺伝子組み換え飼料の市場にブレーキをかけない限り、遺伝子組み換え作物の耕作の拡大を止めることは難しい。だから十分に意味のある試みになる。

そうしたことをやっていくことも森林を守る取り組みの1つだと思う。

さらにブラジル現地に行けば、魅力のある運動をやっている人たちに直接会うことができる。そうした人たちとつながっていくことで個々ばらばらであれば不可能な新しい社会を作る道が見つかるだろうと信じている。

Rio+20の機会を活用して、そうした可能性をぜひ見つけてきてほしい。

行けない人(自分も含め)にもどんな可能性があるか、これから模索していきたいと思う。

遺伝子組み換え大豆に追い詰められる南米先住民族 ブラジルを中心に

PARC先住民族チャンネル】オープン記念セミナー <脱成長・脱原発の時代と先住民族の暮らし> 2012年1月21日 アジア太平洋資料センター(PARC)で遺伝子組み換えと南米の先住民族の問題について話させていただいた。

同時に上映させてもらったビデオ、Killing Fields (Ecologist Film Unit / Friends of the Earth、日本語字幕GreenTV) 第一幕第2幕ビデオの方はヨーロッパから見た遺伝子組み換えが主題で、特に第2幕の最後の方はかなり主題から逸れてしまうのだけど、日本語の字幕の入ったビデオがほとんどないので、これを使わせてもらった。

急激な遺伝子組み換え大豆栽培の増加によって南米の先住民族や自然が痛めつけられている。日本もまたそれに無関係ではない。

PARC先住民族チャンネル

ジウマ・ルセフ大統領へのメッセージ:ベロモンチダム建設を中止してください

ジウマ・ルセフ大統領、

ベロモンチダムの建設を中止してください。

ベロモンチダムはブラジルの地域社会のニーズに応えるものではありません。

現に現地に住む先住民族や伝統的住民は長年強く反対の声を上げてきました。その声は無視されています。

ベロモンチダムはアマゾンの鉱物資源開発に使うものと理解せざるをえません。そしてその資源の多くは海外に輸出されます。その開発の過程で、アマゾンの生態系は大きく破壊されてしまうことでしょう。

一時的に鉱山開発でブラジルが外貨を獲得し、利益を得たとしても、アマゾンの生態系が破壊されてしまえば、長期的にみればブラジル社会にとっては大きな痛手になります。鉱山資源は永続しません。しかし、アマゾンの生態系は今後長くブラジル社会を支える資源となります。

自然を破壊し続ける開発がこのまま続けばブラジルはもちろん、世界は崩壊するでしょう。その端的な例を私たちは東京電力福島原発事故で経験しました。この事故によって日本、そして世界は放射能汚染に長く苦しむことになります。このような開発はもはや続けることができない、ということを東電原発事故は示しています。

日本列島の住民はアマゾン破壊で作られるアルミや鉄を使って便利に生活してきました。そしてそのことを十分知らずに来ました。しかし、その生活はさまざまな浪費を生み出し、世界を汚染しており、もはや維持できるものではないと思います。

ベロモンチダムがひとたび建設されれば、先住民族を初めとする人びとの失われる生活、そして森、川は戻ってきません。鉱山資源はそう長くは続きません。どちらが重要か、ブラジル社会が長く幸せになれる道はどちらか、熟慮いただき、ベロモンチダムの建設を中止するようお願いいたします。

2011年8月22日

印鑰 智哉

ベロモンチダムに反対する国際デー

8月20日にブラジル国内、22日に海外でベロモンチダムに反対する国際行動が組まれる。

日本でも何らかの行動をしたかったけれども、そこまでできなかった。何もしないというわけにはいかないので、ブラジル大使館にメッセージを送ろうと思う。

その前にベロモンチダムとは何か、何が問題なのかを簡単に振り返る。資料を参照しながら書く余裕がないので、正確さに問題があるかもしれない。

ベロモンチダム建設が計画されたのは今から30年ほど前の軍事政権時代。ベロモンチダムの建設地周辺にはブラジル社会に接触をまだ持っていない先住民族をはじめ、数多くの先住民族がいる。


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その中でも先住民族カヤポは伝統的な生活を保ちながらもブラジル社会に対して積極的にデモ反対の意思表示をしてきた。カヤポのリーダー、Raoni(ハオニあるいはラオニ)がStingといっしょにベロモンチダム反対の世界ツアーを行っていて、日本にも来ている百一姓Blogカヤポ族 呪術師長老ラオーニ、日本を行く2007

なぜ、このダム計画が問題なのか?

同じく軍事独裁政権時代に計画され、建設されたトゥクルイダムはその発電量の多くが日本の出資したアルミ精錬工場のために使われている。一方、地域に住む先住民族や伝統的住民にはこうした電気は供給されていない。このアマゾン地域はカラジャス鉱山など、鉄鉱石、アルミの原料、金など豊かな鉱山資源がある。要するにそうした鉱山開発のためのエネルギーであり、その鉱山資源は主として海外に輸出される。地域住民からすれば地域の必要などはまったく無縁。このベロモンチダムも同様だ。人口の多い地域から隔絶されたアマゾン奥地に作られる水力発電は海外の必要に応じるため、地域を破壊するために作られるエネルギーだということになる。ブラジル社会のニーズに即する限り、このダム建設は不要であるという報告もある。

こうした破壊的計画は実際に直接間接に生活に影響を与える先住民族にはまったく事前の説明がされていない。ブラジルも批准しているILO条約169号違反である。

水力発電は自然エネルギーで地球温暖化対策としても優れているとブラジル政府は強調しているが、熱帯地域におけるダムはメタンガスを大量に発生させるため、必ずしもクリーンとはいえない。しかも、水体系を大幅に変えてしまうことにより、魚を中心に川の生態系は大きく破壊される。トゥクルイダムでは大量の蚊が発生し、多大な被害が出ている。川とともに生きる生活を続けてきた先住民族や伝統的住民にとってはまさに生存の危機にさらされることになる。

このダム建設が始まると、ダム周辺で巨大な規模で森林破壊が進むだろう。そして、さらなる鉱山開発なども始まり、多くの人びとが流入していくことになる。その結果、伝統的な暮らしをしてきた人びとの生活は破壊され、多くの森林が失われ、とりかえしのつかない生態系が失われてしまう。

このダムには多くの批判があり、30年間着工されずにきた。地域の先住民族もダム建設に対しては闘って死ぬまで反対する意思表示をしている。国際社会もまたStingに加え、映画『アバター』の監督ジェームズ・キャメロンが現地をたびたび訪れ、ベロモンチダム反対の声を上げている。

アマゾン破壊で作られたアルミ缶を日本でも使っている。そうした破壊を続けるのかどうか、これは現地の先住民族の生存権のみならず、日本社会のあり方の問題でもある。

ブラジル大使館にベロモンチダム建設に反対するメッセージを送ろう!
ブラジル大使館

ブラジルのある農村におけるベーシック・インカムの実験 その1

ブラジル・サンパウロの郊外の小さな村でベーシック・インカムの実験を始めてしまった人たちがいる。

ベーシック・インカムとは収入の額に関係なく、成員全員、子どもからお年寄りまで個人に対して生きていく上で必要最低額を支給しようというものだ。

ブラジルNGOによるベーシック・インカムの実験
ReCivitasによるプレゼンテーション

当然、ベーシック・インカムとは税金などと関わり、NGOが実行するというよりは国政レベルの政策論と思ったので、なんで村でNGOがベーシック・インカムなんだ、と話を聞いた時はまったくつかめなかったが、PARCで開かれた『対話集会 ブラジルのNGOの実践から学ぶ 貧困をなくすために〜農村でのNGOの役割』に参加し、目を開かされた思いだ。

彼らの実践を正確に紹介すべきところなのだが、その余裕が十分ない。通訳もどきをしていて、うろ覚えでしかないのだけど、私にとっておもしろかった、と思ったところのエッセンスだけ、数回に分けて記録に残しておきたいと思う。

この実験を始めたNGOは2007年に創られたヘシビタス(ReCivitas)というNGO。ブルーナとマルクスという若い夫婦が創ったNGOだ。彼らは農村問題での貧困問題、市民権確立の活動をこのNGOを通じて行っていた。

2004年、労働者党政権はベーシック・インカム市民権法を成立させた(Wikipediaポルトガル語)。しかし、実際にはブラジルではこの法律はまだ実行されていない。ルラが再選に臨む時、2003年から始められていた貧困家庭の支援を目的にしたボルサ・ファミーリア(家族支援計画 Wikipediaポルトガル語)をこのベーシック・インカムの第一歩とするとしているが、ボルサ・ファミーリアを今後どうやってベーシック・インカムに転換していくのか明らかにはされていない。

ベーシック・インカムは収入の多さによって差別せず、全員に支給することを基本とするものだ。もし、貧しい人・家庭だけに支給するのでは、その人が貧しくなくなった時に支給を止める必要がある。支給を受けたいがために、貧困状態を継続するということにもなりかねない。また貧困であることを証明しなければならなくなる。その検証に手間・費用がかかってしまう。プライドも傷つくかもしれない。それゆえ貧困な状況に陥っても、受け取ろうとしない可能性もある。収入の高低に関わらず支給するのならそんな問題もない。

ただし、当然、その対象は大きくなり、どう財源を確保するかという問題も出てくる。その場合、これまでの社会福祉がどうなるのかなど、実現するためには国政レベルでコンセンサスが必要となってくる。しかし、ここで難しくなる。ベーシック・インカムがどんな社会を生み出すのか多くの人にとって想像ができないからだ。想像ができないことでコンセンサスを創ることは困難。コンセンサスがなければベーシック・インカムは実現できない。となると鶏か卵かでまったく進まない。

ヘシビタスが思い切った実験に踏み出すのはこのジレンマを超えるためだ。マルクスは言う。「ベーシック・インカムはアカデミズムの中で議論されている限り前に進まない」。彼らはへシビタスでニュースレターの印刷などに使っていたお金を小さなコミュニティに使うのであれば、そのコミュニティでベーシック・インカムが実現できてしまうことに気がつく。それをさっそく実行に移してしまう。

続く