隠蔽手段としての「あきたこまちR」

 「あきたこまちR」の問題、その本質は隠蔽だ。国はカドミウム汚染問題を当初から隠蔽する方向で動いてきた。それに対してかつて、秋田県はその方向に反対し、独自に調査を公表していたりしていた。その秋田県がなぜ、国の先棒をかつぐように変わってしまったのか。
 
 カドミウム汚染の問題が世論を大きく変えようとしていた60年代後半以降、国はこの汚染に対して常に及び腰の対応を続けてきた。1998年に日本各地でカドミウム汚染米が出た時も、政府は「調査は消費者の不安感をあおる」などとして実態調査をすべきでないと当該自治体に指示した。しかし、秋田県はその指示に反発して、独自の調査を始め、汚染地域、汚染件数も発表している¹。
 なぜ、国は隠蔽するのか、それは汚染除去に膨大な費用がかかるだけでない。このカドミウム汚染が国策として行われた鉱山開発に起因するものであり、そして、それを引き起こしたのは財閥系企業。その責任が問われるからだ。戦争のためには銅などが必要であり、日本には国内に十分な銅生産がなかった。無理矢理、鉱山開発をしたことのつけとして、日本各地に汚染が残された。イタイイタイ病患者の闘いで有名な富山県神通川地域だけでなく、同じ問題は秋田県にも存在している。国や汚染企業はその責任を取る義務があった。実態を明らかにしようとした当時の秋田県の行動は、称賛しうるものだ。
 
 しかし、来年から導入される「あきたこまちR」はこの問題をなかったことにしてしまう。カドミウムを吸う遺伝子(OsNramp5)を重イオンビーム放射線で破壊し、ほとんど吸うことがないお米にしてしまえばそれが汚染地であっても、カドミウム汚染米問題は発生しない、というわけだ。でも、ほとんど吸わないということは農地には汚染は残ったままである。農地の汚染を下げる施策とセットであれば、ともかく、農水省の施策にはそれがない。これでは問題は解決しないではないか、と農水省に質問した。
 農水省の答えには驚いた。農水省の責任は農産物だけ、というものだった。農地は当然、誰もが農水省の責任だと思うだろう。でも違うのだ。それは環境省の管轄。だから農水省は農産物にカドミウムが含まれなければそれでOK、という姿勢なのだ。
 
 農地の汚染を下げるために世界各地で実践されている施策の柱の1つは客土以外に、植物による汚染除去(ファイトレメディエーション)がある。つまり汚染物質を吸い上げる植物を栽培することで汚染を下げていく。かつては農水省も農地の汚染を下げることにもっと取り組んでいたはずだが、この「あきたこまちR」「コシヒカリ環1号」が出てからはそれがどこかに消えてしまったようだ。日本では農産物を管轄する農水省と土壌の汚染を管轄する環境省という縦割りで、実質汚染を下げる政策は消えたも同然だ。環境省としても、汚染を下げる有力な手段を実施できないのだから、お手上げ状態だろう。
 
 つまり農水省にとっては、カドミウムを吸い上げないお米にしてしまえば、カドミウム汚染はもう関係ありません、と実際に残る汚染を無視できるというわけである。
 
 国策の失敗を隠蔽し、汚染企業の責任を免除させる。そしてそのつけはすべて住民、特に汚染地域の農家に押しつける。「あきたこまちR」は実質的に非汚染地の農家にも負担を押しつけることになる。そしてそれを食べる市民にも、つけがまわってくる。汚染の除去は大変困難なことだが、汚染地域は限られており、その汚染地での農家・住民への補償とその地の汚染除去をしっかりやる以外に解決方法はないのに、それをせずに未来永劫汚染は残ることになる。
 
 かつて、国に抗して、カドミウム汚染調査を行った秋田の反骨精神に溢れた人はその後、どうなってしまったのか気に掛かる。どうして秋田県は国のお先棒をかつぐ逆方向に動いてしまったのか。いや、まだかつての経験と反骨心は残っている。オンライン署名「あきたこまちRは食べたくありません」を始めて以来、秋田県からの署名は他県を大きく引き離している。
 
 そして、言うまでもなく、この問題は秋田県だけの問題ではない。日本政府のこのような姿勢を容認しているのは私たち一人一人だ。水銀汚染、放射性物質汚染、さらにはPFAS汚染でも同じことが続いている。どの件でも同じような悲しいストーリーが繰り返されている。このまま、さらに未来も同じことを繰り返すのだろうか?
 
 やるべきことをやらなければ、未来に向けて同じことが繰り返される。そして、そのつけはわたしたちや未来の世代に押しつけられる。「もうたくさんだ」と声を上げる時だ。一人一人が声をあげてほしい。

オンライン署名
わたしは、遺伝子を改変された「あきたこまちR」を食べたくありません!
https://act.okseed.jp/akitakomachir

もうすぐ2000筆を超します。

参考資料
(1) 畑明朗氏『土壌・地下水汚染−広がる重金属汚染』(有斐閣選書)
154ページ〜161ページあたりの記述は必見

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