稲の自家採種ができなくなる!? 種苗法改正はだまし討ちだった?

 今後、10年以内にほとんどの稲が自家採種できなくなる!?
 なぜ、そうなるかというと、農水省は全国の品種の「コシヒカリ環1号」との交配を進めており、漸次、既存品種と全量転換となり、転換された品種はみな自家採種が許されなくなるからだ。「コシヒカリ環1号」は放射線によってカドミウムを吸収する遺伝子の1塩基を破壊した稲で、その破壊された遺伝子OsNramp5は遺伝子特許が取られている。
 すでに2018年の段階でそうした品種は100品種以上にのぼっていると農水省は述べている(1)。そこで、そのリストと現段階でわかっているリストを5月6日に情報公開請求した。そして7月10日過ぎになって届いたリストは黒塗りばかりのいわゆる「のり弁」になっていた(2)。

黒塗りされた放射線育種米リスト

 その黒塗りの資料を目を凝らして見ていくと次のことがわかる。
 
 現段階でその総数は202品種に及ぶ。
 これから出てくる2025年に完成予定の品種が24もある。
 名前が公開されているのはわずか18品種。しかし、次世代作物開発研究センター イネ品種データベース検索システムで検索するとすでに39品種、名前は公開されている(3)のに、情報公開請求を行うと、インターネット上で公開されているデータすら黒塗りにされるようだ。いったい情報公開制度というのは何のためにあるのだろうか? この開発主体はみな国か都道府県だろう。税金で公共のための品種開発をしているはずなのに、なぜ黒塗りしなければならないのか?
 
 この202品種が特定できないので、どれだけの範囲に及ぶか推測しかできないのだけど、昨年、日本で農産物検査にかけられた品種の数はうるち米(普通に食べる米)312品種、もち米77品種、酒米124品種、合計513品種になる(4)が、生産量多い順にこの203品種(コシヒカリ環1号とその後代交配種202品種)を取ると、なんと99.38%にあたる。この品種すべてが成功するとは限らないとしても、実質的にほとんどのシェアが置き換えられる可能性があることになる。
 
 農家が品種を選択できるのであれば、つまり、通常の「コシヒカリ」か放射線育種米の「コシヒカリ環1号」を選ぶことができれば影響はまだ少ないのだけど、そうはならない。つまり、全量「コシヒカリ環1号」に変えてしまうので、従来の「コシヒカリ」の種籾はもう手に入らなくなる。
 
 でも、カドミウム汚染されていない地域で放射線育種されたカドミウム低吸収性のイネなんて必要ない。それなのになぜ、従来の品種が手に入らなくなるかというと、こういう理屈なのだ。
 
 「一部の地域だけでカドミウム低吸収性品種を栽培すると、その地域がカドミウム汚染地域であるとして風評被害になる可能性がある。またその品種以外はカドミウムが高いに違いないという別の風評被害が起きる可能性がある」(5)
 こんな理屈で、秋田県では県が提供する100%の種籾を放射線育種由来のものに変える計画だという。当然、これは、秋田県だけではなく、全国でやらないと筋が通らない。実際に放射線育種米への転換が全国的に進められようとしている。
 これには山ほど問題があるのだが、ここでは1つだけ指摘しておきたい。このカドミウム低吸収性品種=放射線育種米は遺伝子特許が取られたものであり、自家採種は禁止される。その系統のお米ばかりになってしまえば、稲の自家採種ができなくなってしまうのだ。
 
 そもそも2020年の種苗法改正の際、農水省はこういって種苗法改正を正当化した。「この改正法の対象となる登録品種は1割程度に満たない。9割は自由に自家増殖できるので農家に影響はない」。でもその2年前の2018年、ほとんどの稲を自家採種できなくすることを農水省は計画していた。そして種苗法改正の審議ではそれは一切言わずに、9割自家増殖できるとして農家を安心させ、法律を変えてしまった。しかし、同時に着々と自家採種できない稲の開発を進めている。これはだまし討ちと言わざるを得ないだろう。農水省は毎年、交付金を出して、転換を全国都道府県に促している(6)。その一番手が秋田県で、このままでは2025年から7割が自家採種禁止となり、2030年以降、ほぼ10割が自家採種禁止になってしまう。
 
 もちろん、自家採種できる品種がなくなるわけではない。でもそれを栽培しても、農産物検査が通らない。だから市場では売ることができない。産直ならばそうしたお米を売ることは引き続き可能なはずだが、それは全体から見たら限られた量に留まらざるをえないだろう。そして、通常品種の種籾の供給が終わってしまうので、自家採種をメインにしている農家でも種籾が尽きた時に放射線育種米を栽培せざるをえない局面に追い込まれてしまう。
 
 果たして、この放射線育種によるカドミウム低吸収性品種以外、問題の解決方法はないのかというと、これは別なところに書いたように決してそうではない。いや、この品種の選択はむしろ問題の矮小化であり、カドミウム汚染問題を解決することにもつながらない。
 
 種子主権のない食料主権とは絵に描いた餅のようなものだという。タネを失えば、もはや自由は存在しないからだ。農民、消費者の決定権は失われる。農家だけでなく、消費者の選択の自由も失われる。
 種苗法改正に反対した人びとには、この問題の深刻さを理解して、この動きを止めるために立ち上がってほしいと思う。まずは「あきたこまち」を守ることから始まる。

(1) 農水省消費安全局:コメ中のカドミウム低減のための実施指針
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/2_taisaku/attach/pdf/01_tec-11.pdf

(2) 情報公開請求によって明らかにされたカドミウム低吸収性イネ品種リスト(全データ)
https://drive.google.com/file/d/1UOzGJ-5cmVO26WX_YgOaIEIGbUSVTohx/view?usp=sharing

(3) 農研機構:イネ品種データベース検索システム「 コシヒカリ環1号 」を親にした品種一覧
https://ineweb.narcc.affrc.go.jp/search/ine.cgi?action=oyahinsyu&ineCode=NKK0000010

(4) 農水省:米穀の農産物検査結果等
https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/index.html

(5) 秋田県議会:加藤麻里議員の質問に対する秋田県の回答(7月3日)
https://smart.discussvision.net/smart/tenant/pref_akita/WebView/rd/speaker_minutes.html?speaker_id=12&search_index=2

(6) 農水省消費・安全対策交付金実施要領(28ページ)
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/torikumi/kouhukin/attach/pdf/r4-21.pdf#page=28

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