遺伝子操作は従来の品種改良よりもずっと早く開発でき、しかも従来の品種改良ではできなかったことができるなどと言っていなかっただろうか? とりわけ「ゲノム編集」はその切り札ではなかったのか?
Calyxt社は世界で初めて「ゲノム編集」食品を世に出したと言われているが、Calyxt社の前に「ゲノム編集」食品は存在していた。それが2014年に発売されたCibus社の除草剤耐性カノーラ(SU Canola)で現在主流のCRISPR-Cas9ではなくODM(オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発)という方法を用いて「ゲノム編集」されているとされていた(1)。
しかし、2020年9月、このSU Canolaを対象に「ゲノム編集」食品は検出可能だとして科学論文が発表される(2)や否や、Cibus社はこれは「ゲノム編集」ではない、と言い始めた。ODMで編集しようとしていたが、その過程で偶然、突然変異でできたので、「ゲノム編集」ではない、と(3)。実際に「ゲノム編集」されていることは届け出書類に確認されているので、これはごまかしに過ぎないのだが、結局、このSU Canolaはこっそり市場から消えた。その後、残る「ゲノム編集」食品はCalyxt社の大豆と日本のサナテックシード社のトマト、リージョナルフィッシュ社のマダイ、トラフグだけになった。
そしてCalyxt社の「ゲノム編集」大豆が2019年に始まるが、早くも事業が破綻し、清算に入った。生産が安定せず、農家は生産しようとしなかった。市場に受け入れられるかもまったく不透明だったため、Calyxt社の株価は暴落した(4)。遺伝子を破壊され、微細な遺伝子相互のネットワークを破壊された生物の成育は予期しない問題に直面するのはむしろ自然なことだろう。
農作物では日本で売られている「ゲノム編集」トマト、シシリアンルージュハイギャバだけが唯一となっている。売られているといっても、オンラインだけで、しかも有機のトマトが十分買える価格よりも高い価格でどうしてわざわざ「ゲノム編集」トマトを買う人がいるだろうか? 市場原理で考えれば当然、消えて当たり前の存在になっている。
このトマトの開発には15年かかっている。普通の品種改良でもこの期間あれば新しい品種は作れて、すでに市場に普通に出すことができているはずだ。でも、このトマトはそれすらできない。特許料は払わなければならないし、安く売るのでは利益が出ない。消費者の大半は疑いの目で見ている(当たり前)。
しかもこの長年の開発はサナテックシード社という民間企業が担ったのではない。国立大学で政府の支援のもと、つまり私たちの金が使われている。そのお金が通常の品種改良に使われていればとっくに私たちはその支出を享受できていただろう。でも売れない遺伝子操作食品に使ってしまったお金は私たちとしては失われたままになる。
遺伝子組み換えサーモンを開発したAquaBounty社も破産に直面し、日本で「ゲノム編集」魚を開発したリージョナルフィッシュ社の運命も暗い。これらの企業は政府からの支援がなければ存在しえなかっただろう。モンサントの遺伝子組み換え大豆も今やその存在価値が疑われている。既成事実と企業独占ゆえにその生産が続いているのが現実と言わざるを得ない。
金食い虫の遺伝子操作食品、それを可能にしているのは高い技術ゆえではなく、高い政府との癒着ゆえと言うべきだろう。そのようなものによって、私たちは世界をより危険にして、そして政治的にも経済的にも奪われ続けているのが現実と言わざるを得ない。
連続で書いているこの「遺伝子操作食品に未来はない」シリーズ、次の投稿で、今後のシナリオを検討してみたい。
(1) Cibus And Rotam Announce Launch Of Their First Non-Transgenic Commercial Product
https://www.cibus.com/press/press111914.php
(2) First open source detection test for a gene-edited GM crop
https://www.detect-gmo.org/
(3) GMO Status of Cibus SU Canola
https://www.greenpeace.org/static/planet4-eu-unit-stateless/2020/11/f7566127-gmo-status-su-canola_09112020.pdf
(4) Gene-edited crops pioneer Calyxt crashes, giving the lie to deregulation claims
https://www.gmwatch.org/en/106-news/latest-news/20106