今や、農作物の成長を化学物質でコントロールする時代から微生物でコントロールする時代に移ろうとしている、と言えるのかもしれない。いや、それはずっと人類がやってきた有機農業じゃないか、と言えれば一番いいのだけど、話はかなり怖ろしいものになる。つまり、遺伝子操作した微生物でそれをやろうというのだから。
植物と微生物の共生にこそ、大きな可能性がある。化学物質でそれを代替させる工業型農業こそが土壌の劣化、気候変動、農薬依存などをもたらしてきた。だからそこから脱皮し、微生物との共生をどう回復できるか、生物多様性の回復、生態系の回復は今後の人類の生存にも関わる大きな課題であるはずだ。
もし、そうした回復に技術の焦点が行くのであれば望ましいこと、と言いたいのだが、実際に進みつつあるのは、微生物を遺伝子組み換え、「ゲノム編集」、さらには合成生物学によって操作したものを用いる農業に変えようとする動きである。
たとえば、モンサントを買収したバイエルは早くも2012年にPoncho/VOTiVOという微生物を使った種子処理製品を売り出している(モンサントの買収による独占禁止法の制約により、この製品の販売権はBASFに売却されている)。この微生物についての詳細情報は得られないが、この種子コーティングにはネオニコチノイド系農薬も使われているようだ。
その後、遺伝子組み換え技術や「ゲノム編集」技術を使って、窒素分の固定や真菌などを殺菌したり、線虫殺虫剤、また成長を刺激するための微生物などがさまざまな企業によって作られている。そして、中でもこの分野に急速に乗り出している企業が住友化学だ。
住友化学は微生物を活用した農業資材事業をバイオラショナル事業と定義し、Valent BioScienceを2013年に子会社にして、2020年には合成生物学を活用した次世代事業のための新組織を米国に設立、今年の2月にはFBSciences Holdingsも買収しており、本格的なバイオ事業拡大に乗り出している。
合成生物学とは究極の遺伝子組み換えと言われる。従来の遺伝子組み換えや「ゲノム編集」は既存の生命の遺伝子を操作するが、この合成生物学では人間が遺伝子を設計する、つまり完全に人間による人造生物(合成生物)を作るという技術。
化学物質で自然を代替する愚かさを卒業して、自然の仕組みを生かす方向に向かえばいいのに、その自然をあくまで人為的に操作・支配し続けようという姿勢から彼らは抜けられないのだろうか? 健康や環境に悪いを通り越して、バイオハザードの危険を感じずにはいられない。
栽培される農作物や飼育される畜産物が遺伝子操作されているだけでなく、その成育のための資材までが遺伝子操作される。どちらの遺伝子操作に対しても抵抗していかざるをえない。
バイデン政権はバイオエコノミーのためのバイオ推進大統領令を昨年2022年9月に出しているが、岸田政権も同様のバイオ戦略を打ち出しており、住友化学を筆頭にそうした農業が日本に導入される可能性は十分警戒していかなければならない。
New GMO Alert: Gene-edited Microbes Introduce a New Twist in GMO Agriculture
https://www.nongmoproject.org/blog/new-gmo-alert-gene-edited-microbes-introduce-a-new-twist-in-gmo-agriculture/
住友化学
2015年03月04日
ベーラント・バイオサイエンス社による微生物農業資材事業会社の買収について
https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20150304.html
合成生物学を活用した次世代事業の創出加速に向けて米国で新組織「シンバイオハブ」を設立
https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20150304.html
住友化学が米バイオスティミュラント企業を買収、低環境負荷で需要増
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/14609/