世界を危うくする「ゲノム編集」生物の無規制政策

 憂慮すべき動きが連続する。EUが来年に向けて「ゲノム編集」生物の規制なし放出を認める方向に動き出したが、カナダ政府は先週、米国同様、2ヶ月のパブリックコメントの後に、多くの市民の反対を無視して「ゲノム編集」生物の規制なし放出を認めた(1)。そして、EUから離脱した英国は新法案で「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー技術の推進を定めようとしている(2)。
 
 なぜ憂慮すべきことかというと、この動きがまったく科学的な精密さを欠いているからだ。遺伝の機構はようやく解明の端緒についたばかりのところであり、人類は遺伝子の機能も十分にはつかめていない。その段階で遺伝子破壊を進めてしまえばどんな影響が生態系に現れるのか、まったく不明の状況にある。研究者も警鐘を鳴らしている(3)。
 そして研究のあり方が近年、大きく変わっている。以前のように研究資金が公的な資金ではなく、企業によって左右されることが大きくなってきており、研究者のあり方も変わってきた。そして政府自体の中に企業の人間が入り込み、政策を決めてしまうケースが増えてきた。
 こうして、本来的な科学的な根拠はどこかに放り出したまま、企業の利益を追求できる政策が世界でまかり通る状況が生まれてしまったことになる。
 
 2019年に米国FDAが「ゲノム編集」生物を規制しない方針を明らかにして、トランプ前大統領が同様の政策を各国政府に要求した(6月)。それにまっさきに動いたのが日本政府。2019年の10月にはすぐさま同様の政策を表明している。国会でこの件が審議されたこともない(4)。省庁の判断で決めてしまっている。一方、EUは2018年7月に欧州裁判所が「ゲノム編集」生物は遺伝子組み換え生物として規制すべきという判断を出しているが、それを変えるパブリックコメントが実施中(締め切りは7月)。
 
 とりわけ懸念されるのが種の遺伝子すべてを変えてしまう遺伝子ドライブ技術の適用だ。遺伝子組み換え生物を自然界に放出しても、改変された遺伝子を持つ変異生物は自然界の圧倒的な存在によって阻まれる。しかし、遺伝子ドライブはわずかな生物を放っても、交配したすべての子孫の遺伝子を変えていってしまうため、結局、操作されていない遺伝子を持つ個体は絶滅してしまうという技術だ。禁止すべきとして、強い反対が表明されている(5)。種の絶滅が可能な技術なので、強い反対が世界中から沸き起こるのは当然の話だろう。しかし、バイオテクノロジー推進団体ISAAAはこの技術を礼賛するセミナーを頻繁に開いており、企業に買収された政府と結びついていつ始めてしまうかわからない。そして、その影響は国境を越えて全世界に波及せざるをえない。
 
 一方、単純な「ゲノム編集」に必要なツールを手に入れれば、家でも「ゲノム編集」生物を作れてしまう。もっともそうして作られた「ゲノム編集」生物は遺伝子組み換え生物である。要するに「ゲノム編集」のための遺伝子が挿入されたままのものだ。「ゲノム編集」を是認しようがしなかろうが、この段階の生物を放出することは違法である。ところが、一連の「ゲノム編集」規制なし政策によって、この遺伝子組み換え生物もまた自由に放出されてしまう危険が現実のものになってきてしまった。これが新たな感染症の原因になることは十分想定しうる。もし、遺伝子ドライブが使われたら種の絶滅が起きかねない。

 だからこそ、政府は早急に有効な規制の方法を見つけなければならないはずなのに、そんな動きは世界の政府に見られない。危険にさらされているのは世界すべて。
 
 原子力から遺伝子工学へ。そして、教育・研究体制の民営化、政府の民営化が進む。こんな中、どう世界の生態系を守ることができるか? 環境や健康を守ることができるのか、問われなければならない。
 
(1) Federal government abandons safety assessments and transparency for new gene-edited foods

Federal government abandons safety assessments and transparency for new gene-edited foods

(2) A Brexit opportunity worth grasping
https://www.ft.com/content/22a5d459-7b36-4f76-86db-861cca3d6b76

(3) “Democratic deficit” of decision making on gene-edited and gene drive releases
https://gmwatch.org/en/106-news/latest-news/20031

(4) 日本では厚労省、農水省、環境省の省内で検討会が数回行われただけで決定された。法律の変更、制定ではなく、省庁の権限内とされた。そのため国会では議員から質疑で疑問が指摘されることはあっても、国会内での議題にはなっていない。

(5) 遺伝子ドライブについてまとめた投稿
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid0pPLCSDhGFB3pA2MaLQvnkCNJpG2QnuXABXFwH91m7yAQwgwPjYp7jZPa2iw5diyil

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