米不足で国内の生産をしっかり増やすことが必要な事態になっても、米輸出の計画に力を入れ、同時に米の輸入を増やすという愚策に走る政府。これは根本的に異常な方向なのであり、これを放置していたらさらにおかしな事態に陥る。
今、日本の2020年の種苗法改正が何であったか、英語でまとめている。海外の団体から出版する予定なのだけど、その改正の目的をめぐり、理解してもらうのに苦労した。なぜかというと、普通、種苗法改正とはタネを売るためのものなのだ。でも、2020年の改正では売るのではなくて、売らないことが先に来る。「そんなことありえない」というのが海外の人から見た最初の感想。
なぜ、こうなるのか、理解してもらうためには戦後の日本の食・農がおかれている特殊事情を説明するしかない。戦後の日本は普通の国が掲げる食料自給をするという当たり前の政策を捨ててしまっているということだ。米国からの大量の穀物を輸入することが前提条件になっている。普通は戦後復興を終えたら、どの国も食料自給を基本にしていくのに日本だけは、あくまで米国の食料戦略が国内農政の前提となる。食料自給率を上げてしまったら、輸入ができなくなる。だから食料自給率を上げないことが政策なのだ。
そうすると農業振興できないから、農業振興は輸出一本槍にならざるをえない。もっとも農業は工業とは違って、多くの国にとって、輸出はわずか(日本の米では0.6%)。輸出ではほとんどの農家は潤わない。だから、そもそもこの方針が間違っている。38%の食料自給率をタネから100%にするのであれば、すべての農家が潤うのに、それをやろうとしないからどうしても政策が歪になる。
タネの知財権を武器に、海外の市場で独占的地位を得ようとするのが、「戦略的海外ライセンス」。日本の農産物が出荷できる時期には出荷を許可せず、海外市場を市場を日本産のために確保し、日本産が出荷できない時だけ出荷を許可するというものだ。でも、果たして、主権の外にある海外の農家にそんな統制を押しつけることが可能なのか。それはあまりに新植民地主義的ではないか、それで潤う農家は日本にどれだけいるのか、いや、そもそも、そんな契約が海外との間に成立しうるのか。疑問は尽きない。
現段階ではたとえばオンラインショップで海外からも日本のタネを買えてしまうから、それをさせないように販売業者を管理するという話になる。日本からの競合がありうる農産物のタネ(樹木の場合は苗木)は買わせない。買わせる場合は「戦略的海外ライセンス」の締結を求めるということになる。
タネを作るのも海外、農産物を売るのも海外、日本は知財権で儲けるというのがその発想の骨にある。それで儲かるのは誰? ごく一部の企業だけ。日本の地方のほとんどはまったく恩恵を得られない。食料生産がますます困難になる気候危機・生物大量絶滅危機進行中の現在、輸出拡大の見果てぬ夢にうつつを抜かす余裕はないだろう。まずは地域の食のシステムの再構築、食料自給率の向上を最優先させる政策に変えていかなければ、日本は食料危機まっしぐら。
ということで、またパブコメの文章に辿り着かないけれども、現在の異常な事態を変えなければならないことを一人でも多くの人に知ってもらいたいと思う。
「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会 中間報告案」についての意見募集・情報の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcmSp/1031?CLASSNAME=PCM1031&Mode=0&id=550004136
添付図は農業知的財産保護・活用支援事業 令和2年度予算概算要求額から抜粋
https://www.maff.go.jp/j/budget/2019/attach/pdf/index-58.pdf