4月1日、改正種苗法の一部が施行される。政府やマスコミはこの改正によって日本の優良な種苗が持ち出せなくなるとその意義を強調する。しかし、肝心なことが見過ごされている。
このグラフにあるように、新品種の開発数では各国とも年々増加しているのに日本だけ急速に減少している。これは海外に持ち出されたために減ったのか? そうではない。これまでにどれだけの品種が海外に持ち出されたのかと国会審議の中で聞かれた農水省が答えた数はたった36品種。一方、中国が2018年に新規登録した品種の数は5222。日本の570より一桁多い。
日本の新品種が伸び悩む根本原因は日本政府の農業政策の失策にあって中国や韓国にはない。農業を犠牲にする貿易自由化政策によりどんどん海外から安い農産物が入り込む→競合により離農を余儀なくされる農家が増える→種苗の買い手が減る・種苗を育てる技術を持った人もなり手がいない→予算は打ち切り→だから新品種が作れない。
一方、中国や韓国では国がバックアップして新品種開発が進んでいる。その差がこのグラフにはっきり現れている。日本では都道府県の種苗事業の予算も削られ、施設は老朽化し、関わる人たちの高齢化も進む。苦労は報われない。
それでは今回の種苗法改正はこうした問題を解決するだろうか? まったく手をつけない。許諾料で入る収入は微々たるもの。日本政府は解決すべき問題に着手しようともせずに、中国や韓国のせいにして、種苗法改正を正当化し、マスコミもそれをなぞるだけ。ところが語られないところに大きな変化が生まれようとしている。
それは公的種苗事業の民営化である。公的事業の多国籍企業への移行が始まる。まず、公的種苗価格が今年から上がり始める。これまで社会を支える基礎事業として採算抜きに行われていた公的種子事業は独立採算化を求められ、農家が買って支えなければならなくなる。つまり農家の負担は今後増え続けることになるだろう。
そして、その次には、種子事業の民間企業への移行となる。農家は種子を自由にできなくなり、企業の指示のもとに生産を委託する委託労働者にされていくことになるだろう。
かつて世界第2位の新品種開発国であった日本の新品種は減り続け、中国や韓国にさらに圧倒されることになるだろう。多品種作れるのは公的事業ならではのことだった。これを営利事業にすることによって儲からない品種は作れなくなる。品種の多様性は失われる。農家の自由も失われる。
政府はイノベーション戦略2020(1)やみどりの食料システム戦略(2)において、新品種をバイオテクノロジーの力を使った新品種開発を基軸に置こうとしている。それは研究室、サイバー空間でできてしまうので、もはや圃場管理する技術を持った農家を育てる必要はない。農村を維持する必要もない。この政策で利益を得るのはごく一部の企業だけであり、農家も農村も地域も恩恵にあずかることはできない。これが日本政府がめざしている方針であり、その先に、日本の未来はない。ごく一部の多国籍企業の天国になるだけだ。
さて、どうするか? 地域の農家を支える地域の多様な種苗を作る政策を作り、この動きに対抗することは十分可能なはずだ。公的種苗事業も地域の伝統的な在来種も守る条例を作ることによって、地方自治体レベルの方が早くできるかもしれない。
実際、そうした政策は世界各地で成立している。実際にイタリアでは地方自治体が地域の在来種を活用する条例を作り始め、今ではすべての地方で成立している。そして新しいイタリア全体でも法ができて、その地方を国がバックアップする方向で動いているという。
まさに多国籍企業が種苗を支配することから対抗できる動きをイタリアが始めているのだ。これはすばらしいモデルになるだろう。
地域から変えていくこと。地域で種苗から循環する食のシステムの構築へ。今後、闘いは別のレベルに移る。
参考資料
今回の改正種苗法の問題については昨年の衆議院農水委員会での発言にプレゼンファイルを入れたビデオを作っています。ぜひ見てください。
4月1日から施行になるのは主に種苗に登録品種を意味するPVPのマークを貼るなど種苗会社の義務規定に関わるものが多く、自家増殖の許諾制などは来年4月からの実施となります。
(1) 農林水産研究イノベーション戦略2020
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/200527-2.pdf#page=63
(2) 農水省みどりの食料システム戦略
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-105.pdf#page=10