「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会 中間報告案」要するに種苗政策に関するパブリックコメント(16日締め切り)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcmSp/1031?CLASSNAME=PCM1031&Mode=0&id=550004136
締め切りが近いので、とにかくまとめてみました。
近年、国際的に種苗のあり方が大きな注目を浴びている。「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」でも強調されているとおり、現在、私たちが享受している種苗は長年、世界の農民たちが種採りを重ねてきたおかげで存在している。新品種開発者の独占権である育成者権と農民の権利はバランスさせることが種苗政策の基本である。
しかし、近年、特に遺伝子組み換え企業の独占が進み、種苗企業の力が強化される一方、農家の持つ権利が世界的に侵害されてきており、世界的に大きな懸念が生まれている。
そのため、国連において、さまざまな条約や宣言の中で、農民が持つ種苗に対する権利は繰り返し、言及されてきた。生物多様性条約(1992/93年)、植物農業遺伝資源条約(2001/04年)、先住民族の権利宣言(2007年)、生物多様性条約名古屋議定書(2010/2014年)、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1979/81年)の一般勧告第 34 号 農山漁村女性の権利(2016年)で農民の権利が強調されるに至っているが、それらはすべて、「小農および地方で働く人の権利宣言」(2018年)にまとめられている。
今回、パブリックコメントの対象である「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会(中間報告)(案)」においては、こうした国連で近年強調されてきた農民の権利がまったく配慮されていないと言わざるを得ない。それを正当化するロジックとしては、農民の種苗の権利がなくても、農産物市場が広がれば、おこぼれは農民にも落ちるから、いい、と言っているように思えてならないが、これでは健全な農業は発展することができなくなる。
これまでも、農水省は国連の諸条約、権利宣言を受けた施政を行おうとしてこなかったと言わざるを得ない。
1998年以来、農水省は育成者権の強化一本槍の政策を続けてきた。しかし、皮肉なことに、その政策とは裏腹に日本で作られる新品種の数は減る一方であった。UPOVの統計を見ると2001年は日本は世界第2位の新品種を作る国であった。しかし、上位国の中では日本のみが新品種開発数が大幅に減り、日本の国際的地位は下がる一方である。農水省の政策は農民の権利を損なうだけでなく、結局は地域の種苗会社を激減させ、地域における種苗の質を落とすことにつながっていると言わざるを得ない。この間、なぜ、この育成者権強化政策がこのような種苗セクターの衰退を招いたのか、農水省は真摯に反省し、育成者権と農民の権利をバランスさせる基本に戻り、政策を根本から再検討することが必要だった。
しかし、2020年には種苗法を改正して、さらにこれまでの既存路線である育成者権の強化を図っている。そして、さらに検討会は輸出する種苗に、通常は効力を持つことはない育成者権を実質的に付与するために「戦略的海外ライセンス」なる方法まで提案している。これは育成者権を持つものが、その生産のあり方まで規定できる権力を持つことになり、海外の国の人びとの食料主権をも否定することになりかねない。民間企業が特殊なライセンスを作り、そのライセンスにサインした人だけその使用を認めるということであれば私的な契約なので、ありうるかもしれないが、これを日本という国家が提案するということは常軌を逸した行為であると言わざるを得ない。それは到底、海外の国々の人びとにとって受け入れられるものではなく、今後、大きな批判の的となるだろう。海外の人びとの食料主権や種子主権を日本はまったく尊重しない国になっていくのだろうか?
今後、気候変動がさらに激化することが考えられる。南のアジア地域の人びとが長いこと育んできた品種の恩恵なしに日本列島に住む私たちは生き残れないかもしれない。これからは気候危機、生物大量絶滅危機の同時進行という中、国際的に協力こそが求められる時期に、その協力をより困難にするような制度を日本が導入するというのはまったくの愚策ではないか? 私たちの生存を困難にして、ごく限られた企業の知的財産権だけを強化することが、今求められているのか、大いに疑問である。
残念ながら近年、農研機構によって開発された品種で、現在の気候危機に有効な品種は十分出ていない。本来、育種(新品種開発)はトップダウンのスタイルではうまく機能しない。しかし、現在の日本の種苗政策では、このトップダウンの姿勢は今後、もっと強化されていくことになるだろう。現場のニーズとのミスマッチも拡大していくことが予想される。この政策がさらに日本の農業の活力を奪っており、新品種の数も減り、種苗企業の数も減り続ける原因になっている。極少数の種苗企業への独占が進み、多様な品種の選択の幅も狭まってしまっている。
そもそもタネは地域によって多様化すべきものであり、工業製品とは違って、単一品種を世界各地に広げるようなことはうまくいかない。地域の種苗を地域の農家と共に発展させていくことこそ、めざすべき道であり、育成者権だけをいくら強化しても、さらなる少数の企業の独占を利するだけであり、地域の種苗企業の消滅も阻めず、地域の農業の発展は可能にはならない。
この「戦略的海外ライセンス」を中心として、育成者権の存続期間を拡大させる、刑事罰の強化・適用など、育成者の権利ばかりを肥大させるこの「優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会(中間報告)(案)」は、日本の食・農のあり方に深刻なマイナスの影響を与えることは確実であると言わざるを得ない。
根本からの見直しを求める。
国連の諸条約・宣言の抜粋は以下から
https://m.inyaku.net/unseed