種苗法改正案の審議、衆議院を11月19日に通過し、昨日、1日の審議、そして12月1日に追加の審議をして、もう採決するという。結論ありきでまともな審議になっていない。形だけ。どこか外の世界で決められて、それを農水省・政府は適当に取り繕うだけ。国会は完全に形骸化させられている。批判は誤解と言い換え、すべてにフタをして政府は対応を変えようともしない。
何が問題か? 現在の種苗法の大元になる1978年制定の種苗法の生みの親、松延洋平さんはこう語る。「今問題の農家の自家増殖に関していえば、その78年に成立した種苗法では、まったく制限しなかった。なぜかって? 当然ですよ。当時はそんな考えはなかった。種苗法は農家育種、農家と一体的に作ったものなんだから」
「そもそも農家の育種は自家増殖と一体だ。育種はいいけど採種(増殖)はダメなんて理屈が通るのか。種子法を廃止する際、農水省は「民間活力を最大限に活用する」と謳ったけど、最大の民間活力は農家にあるはず。育種は種苗メーカーにお任せとなれば、結果的に、日本の育種力は落ちてしまうんじゃないだろうか。僕はそれが心配だ。」(1)
今回の種苗法改正は1978年にできた種苗法改正の20年ぶりの改正であった1998年の改正に続く、22年ぶりの改正となるが、この農業の根幹を成す大原則がここで変えられるという大問題をはらんでいる。農家の経営にいくら負担になるというレベルの話ではないのだ。大原則を変えようとしている。紙議員はそれを問いただした。全国愛農会会長の村上真平さんもこの大原則の重要性を語った。それなのに政府は対応せず、あまりにお粗末な形骸化した審議だけで成立させられようとしている。
もし法改正が成立すれば、その結果は地域の種苗の今後にあらわれていくだろう。
農水省のイノベーション戦略2020では産官学共同の研究組織がバイオ技術を使って作り出した品種を民間企業が中心に作るというロードマップが描かれている(2)。
それに合わせるかのように米の農産物検査規格も見直されようとしている。民間企業の利益になる品種だけが大量生産され、これまで各都道府県で作られてきた中山間地向け品種など市場の小さい、儲からない品種は消えていくことになりかねない。
気候変動が激化しつつある現在、地域に合った多様な種苗を確保することはこれまで以上に重要になる。地域に合った多様な種苗を作れる主体は地域の育種農家(地域企業、農協、企業体含む)、地方自治体だろう。しかし、ここ10年、こうした主体による新品種開発は停滞し、特に地方自治体によるものは半分以下に激減しているのが現実となっている。本来、日本が強みを持ってきたのはこうした主体が作る品種があったからであるにも関わらず。
本来、国会が焦点を当てなければならなかったのはこの現実ではなかったか? この地域での育苗環境をどう強化し、どう守るかという政策が必要とされていたはずだ。地域の育種農家を支援し、種苗を育てる種採り農家の数も増やしていくことが何より重要だろう。野菜では9割海外生産となっている中、地域での種採りをどう取り戻すか、感染症や気候変動が激化する中、いつまでも種苗を輸入できるとは限らない。
国会で話されたのは育成者権の強化だけの種苗法改正案だけ。種苗を買う農家の数が増えなければ日本の種苗市場は大きくならないのに、育成者権を強めれば農家にも利益があるという不可解な説が根拠もなく繰り返された。輸出強化というが輸出で儲かるのはほんのわずかな種苗に過ぎない。そして、今、世界に送り出す新品種の数で日本は中国よりも一桁少なく、韓国にも抜かれているのが現実であり、競争が厳しくなる世界で日本の種苗が高い地位を占める保障はない。その実態も多くの国会議員は関心がないように思われた。「日本の種苗はすごくて世界に狙われている、ニッポンは優秀、ニッポンすごい」と信じるのは勝手だが、それを作り上げてきた地盤は急速に崩壊している。そんな政策では優良な品種は作れなくなるのに。
政府のロードマップではもう種苗産業の中心は民間企業になってしまっている。巨大民間企業が日本列島の住民の生存に関わる主食を握ったらどうなるか? 値段が上がるというだけに留まらない。民間企業は儲からなければ事業を放棄する。そんな時、われわれの食料は誰が保障するのか? もし、自然災害(台風・集中豪雨などによる水害、冷害、地震など)や原発事故などによって広汎な地域の種苗に影響が起きた場合、どうなるか? 損失覚悟で動く巨大企業はまず存在しない。その時に地方自治体が種苗生産能力を失っていれば、日本列島に何が起こるか、起きてから「想定外でした」と言うのは許されない。
また、日本政府が依拠するイノベーション戦略も基礎研究に投資しない底の浅いもので、国際的な競争力が持てるとは到底考えられず、絵に描いた餅に終わるだろう。となると、今の政策では日本の食の未来は真っ暗ということになる。
さて、どうするか? まだ種苗法改正が決まったわけではない。このありえない政策がいかに日本の食を危うくするか、保守を含めた多くの人に知ってもらうことはまだまだできるはずだ。そこには大きな可能性が残っている。
そして、政府が置き去りにする地域の食、ローカルフードを取り戻すことはいくらでも方法がある。地域のタネを使った農産物を学校給食で使う、それが家庭や地域のスーパーにもあふれ、地域の食が変わっていく。条例を作れればさらにそれは強化できる。そうした地域では食料保障が確保できる。そうした地域が増えていけば、どこかで災害が起きても支援が容易になる。逆に特定地域に食料を依存する体制になってしまえば、災害にはとても脆弱になってしまう(1%しか食料を自給できない東京や大阪の住民が一番危うくなることを改めて自覚する必要がある)。
そうしたローカルフードを強化する地域を増やしていき、そうした政策の重要性を理解する人が増えていけば、この誤った政策は国会でも変えることができるはず。
食料自給率が38%という現実の中で、政府の種苗法改正に見られる政策はそれに向き合うどころか、悪化させるものになるだろう。しかし、ことは時を争う。どう地域の食を守れるか、地域主体の食に変えられるか、これまで以上にその活動が重要になっていくことは間違いない。やれることはあまりに多くありすぎるほどだ。
(1) 現代農業 続々「農家の自家増殖、原則禁止」に異議あり!
種苗法の誕生秘話
http://www.ruralnet.or.jp/gn/201809/syubyouhou.htm
(2) 「農林水産研究イノベーション戦略2020」
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/200527.html