今年を種子主権の年に!

 長周新聞に新年に向けた原稿を書きました。
フードシステムがもたらす多重危機 地域の多様で自由な種を守る元年に
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/33480
 
 今年は種子主権の年に、と個人的には思っています。種子主権というと自家採種の権利と思われてしまうかもしれませんが、それに尽きるものではありません。タネを買う人であっても種子主権は重要です。種子主権とは、タネを自由に選び、自由に育てる権利、タネの決定権と言ってもいいかもしれません。
 
 自家採種するかタネを買うかに関わらず、自分が育てたいタネを自由に選び、それを自分の考える方法で育てるということ、それができる状態が種子主権のある状態だと思います。種子主権は種子への権利として小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言などでもうたわれています。
 
 政府や自治体が農家の意志に反して、ある種子の生産をやめてしまったり、地域で重要な種苗を作る人たちが生産を続けられない状態に放置されてしまうことによってタネを作れなくなるというのは種子主権を侵害された状態だと思います。
 
 種子主権を守るということの中には自家採種をする権利も重要な要素ですが、しかし自家採種する権利だけが種子主権を構成するものではありません。それだけ主張すれば地域にとって重要な種子を維持し続けている地域の種苗会社まで敵にしかねません。そのタネを維持していた種苗会社が破産して、結局、タネが維持できなくなるということは当然避けなければなりません。
 
 希少な種子を維持し続けている地域の種苗会社は種子主権の担い手の重要な存在です。その事業が続くようにすることは種子主権にとっても重要です。そのためには買って支える必要があるケースもあるでしょう。さらにはその種苗会社に関わる種採り農家をどう支えるか、という配慮がなければ種子主権は成り立ちません。
 
 農水省やマスコミは「海外に盗まれた日本の優秀な種苗」を前面に打ち出し、それを防止するために知財権を強化することが重要であるとして、世界に類例のない法改正を打ち出してきました。これに対抗する基軸は、種子主権を前面に立て、地域の種苗会社で種採りをする人たちとも連帯して、法改正に反対することであったはずでした。その意味でタネを守る側の共通の旗印は自家採種権ではなく、種子主権であったはずです。
 
 また一方で、自家採種の権利ばかりの一本足で農水省を批判しても、農水省は「自家採種できるタネがあるのだから、その権利を侵害していることはありません」と言ってくるでしょう。現に秋田県もそう言っています。でも、従来の「あきたこまち」を育てたい農家がいるのに、その種籾を供給しない、という決定は種子主権を侵害する行為であることは明白です。
 
 タネを自家採種する権利だけでなく、必要とするタネを選べて、適切な費用で購入できることも重要な権利であり、公的機関がタネの方針を作る上で、農家の意志を反映させることは政府や地方自治体の義務だと、国連の諸条約や宣言は述べています¹。これらすべてが種子への権利であり、種子主権はこうしたもので成り立つ、欠くことが許されない基本的人権の基盤です。
 
 種子主権についてはバンダナ・シバさんが1990年代から種子の自由運動として主張され、ブラジルの運動はもちろん、ビア・カンペシーナなどの世界の運動も運動の基軸にしています。南だけでなく、先進国の中でも種子主権は重要な権利であると認識されるに至っており、それゆえ国連の条約や宣言に結実したのだと思います。そのような流れを個人的にも追ってきましたので、その重要性に関して発信し続けてきたのだけど、反響は弱く、日本の中ではかき消されてしまったと感じています。
 
 しかし、ここ近年の状況変化の中で、この種子主権を今、意識せざるをえない状況に日本もなりつつあると思います。その一つは米不足という事態であり、また「ゲノム編集」トマトなどの登場、さらには「あきたこまちR」の全量切り替えという事態を迎えています。私たちが必要とするタネが得ることもできない、そんな事態がすぐそこにやってきてしまっています。
 
 買うか自家採種するかにかかわらず、種子主権は肝心で、種子主権なしに食料主権は絵に描いた餅になってしまう。タネを奪われれば民主的な社会は作れません。国や地方自治体はどんな種子を作るか、一方的に決めるのではなく、農家や消費者の声に耳を傾けて、その意志を反映させることが必要です。さらに地域の在来種を守るためにも、その力を振り向ける必要があります。
 
 そのような意味で、今年は種子主権の年にしたいものだと思っています。今の段階ではそれは個人的な思いに過ぎませんが、共感する人がいると信じたいです。
 
 新年早々、サイト再構築作業に明け暮れる状態になり、本来の年始の挨拶ができない状態のママのスタートになってしまいましたが、なんとか復旧をして、再スタートを切りたいと思います。
 
 みなさん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

(1) 国連の種子主権に関わる条約での情報を簡単にまとめました。
https://m.inyaku.net/unseed

“今年を種子主権の年に!” への1件の返信

  1. 種子主権、種を大事にしないこの日本という国に大変重要だと思います。食料自給率の低さばかり喧伝していますが、根本は種子自給率が大事で、鶏や牛の餌の自給率も大事だと思いますが、日本は、この視点が欠落している気がします。
    食べ物が種からできていることを意識してから見る世界が変わりました。種子を大事にすることは、私たちの人権を守ることにも繋がるので、私も学生という立場から、できることをしていきます!

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