東アジア植物品種保護フォーラム・UPOVと日本の問題に関するWebinar

 気温が高い。本当に夏を越せるのか、不安になっている人もいるのでは。僕も実はその一人だけれども。すでに世界では異常な高温やそれに伴う自然災害で多くの人が命を落としている。これはすでに1970年代から警告されてきたことだ。それなのに各国政府が対策を怠ってきた。気候対策は一部の企業の利益を損なう(すべての企業ではない)。そうした企業は政府に対策を取らせないように巨額を使って、政府に働きかけてきた。その結果がこれだ。その気候対策をストップさせてきた企業は殺人企業の名を使わねばならないだろう。
 その企業で一番先に槍玉に挙がるのはエクソンモービルのような石油会社だろうが、実はそれだけではない。種子・農薬・化学肥料・食肉企業・流通企業なども実は気候対策を妨害する上で、大きな力を発揮してきた。
 
 過度な気温の上昇は人間以上に、他の生物も直撃する。これまで以上に病虫害もひどくなる。今、採らなければならない政策とは何か、といえば、農業分野ではその一つは作物の多様化だが、残念なことに、未だに、政府の施策はそれの真逆を突き進んでいる。つまり、多様なタネを生かせる農業ではなく、特定品種だけを普及させようとする。このようなモノカルチャーはより多くの農薬、化学肥料を必要とする傾向になる。気候危機対策とは相容れない政策だ。
 
 新たな品種の育成者の権利を守るための種苗法改正を2020年に決定してから、まだ5年しか経っていないのに、もう次の改正に向けて動いている。来年の通常国会で、種苗法を再改正しようとしているのだ。なぜ、法改正したばかりでまた変えるのか? 実は2020年の改正は来年の改正のための前提作りに過ぎなかったのだ。
 
 前回の改正は一言で言えば、「日本の種苗を海外で使わせない」というものだった。日本の種苗が海外で使われてしまえば、農産物輸出の際に競合してしまう。だから、まずは使わせずに農産物輸出を優先させた。でも、日本の種苗セクターは減少を続ける国内市場だけに限定されてしまえば、さらに衰えてしまう。だから、ここでは終わらない。次には日本の種苗含めて輸出をしていく種苗法改正が不可欠になる。それが来年に計画されている種苗法再改正の大きな目標となる。
 
 でも、一度、禁止したものを解禁すれば、農産物輸出との競合はどうするのか、疑問になるだろうが、そこでもたらされるのが「戦略的海外ライセンス」というものだ。つまり、競合する時期には市場に出すなという強制的なライセンスを結ばせた上で、日本の種苗を売れるようにする、というのだ。しかし、こんな生産者を縛るライセンスを個々の企業が要求するならともかく、日本政府として導入するというのはいったいいかなるものか? つまり、海外の農家を日本の種苗企業の都合のいい契約労働者にしてしまう、というようなことになると考えざるをえないからだ。果たして、そんなことを海外の政府は許容するだろうか? 他国の農家に強制するそんな権限は日本政府にあるだろうか? もしそんな法案が出たら、国際的な批判が殺到するのは確実だろう。
 
 これまでも日本政府・農水省はアジアでの農民のタネの権利を否定し、各国政府に種苗法改正と、そのバックとなるUPOV条約の批准の圧力をかけてきた。東アジア植物品種保護フォーラム(EAPVP)を作り、それを通じて強力に働きかけてきた。それに対して、農民のタネの権利を奪うものとして、アジアからは強い批判が噴出している。
 Third World Networkが6月にこの問題についての報告書を完成させた。それが “The East Asia Plant Variety Protection Forum and UPOV 1991:Implications for Seed Systems in Southeast Asia” で、報告書の批判は日本政府の動きに集中している。そして、その刊行を記念して、7月16日午後5時からWebinarが開催される。報告書を書いたSangeeta Shashikantさんがメインの報告を務め、日本からは印鑰(いんやく)が短いコメントをする予定だ。英語によるセミナーになるが、ご関心のある方はぜひご参加ください。
 
 アジアレベルで、作物の多様化が失われていけば、気候危機への対応もさらに難しくなる。本来、日本政府がやるべきことは南のアジアの諸国に協力を求め、暑さに強い多様な品種を広げることではないか? しかし、現在の日本政府は企業利益の最大化の方向のみに特化して動いている。気候危機で犠牲者が出る場合、その犯罪の責任はこうした企業だけでなく、その企業と手を携えた国の官僚にもあると言わざるを得ない。逆に言えば、日本政府がこの気候危機に対してできることは大きなことがあるはずだ。地球規模の危機であり、人類の危機でもある。それに背を向けて動き続ける日本政府に対して、方向転換を強く求めていきたい。

Webinar: “The East Asia Plant Variety Protection Forum and UPOV 1991: Implications for Seed Systems in Southeast Asia”
日時:16日17時(午後5時日本時間)
Webinar参加申し込み
https://tinyurl.com/53h5ea2a

メインスピーカー:
Sangeeta Shashikant (Third World Network)

コメンテーター:
Nori Ignacio, Executive Director, Southeast Asia Regional Initiatives for Community Empowerment (SEARICE)
NurFitri Amir Muhammad, Food Sovereignty Forum Malaysia
Inyaku Tomoya, Secretary General, OK Seed Project, Japan

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