報道から流れる断片的な情報ではつかめないけれども、今、政府は食のシステムを大きく作り替える大きな法改正・法新設を次の国会で実現しようとしています。これまでの日本の食のあり方を大きく変えてしまう土台を多くの人が知らぬ前に作ってしまおうということなのだと思います。
一言で言うならばこれまでの地方分散の食を中央集権化して、企業の儲けになることを軸に新たな食料システムに再編していくための動きだと言えるでしょう。それには種苗法・食糧法の再改正、さらには革新的新品種開発のための新法制定が含まれます。
これまで日本の主要農作物のタネは地方自治体が主役を担ってきました。コシヒカリもササニシキもすべて地方自治体が開発したものです。地方自治体がその地域に合った品種を作ってきたので多様な品種ができたのです。しかし、1998年、日本がUPOV1991に加盟すると、種苗法が作られ、それまで種子事業用に確保されていた国の財源が一般交付金に変えられ、民営化のプロセスが始まりました。2017年の種子法廃止はそのプロセスの1つです。そして、今、それがさらにギアが上がり、国の下に中央集権化される可能性が高くなっています。

地方自治体が持っている公設試験場の再編が俎上に登り、統廃合・広域化される可能性があります。高市首相が「儲かる農業」と強調していますが、これは高市首相の独自路線ではなく、すでに農水省の「知的財産戦略2030」でも「稼げる農業」が強調されています。もちろん、国が稼ぐのではなく、稼ぐ主体は民間企業になります。国や地方自治体の公的機関の研究成果も「民間企業への知的財産の民間移転」のためになされるでしょう。
つまり、この新たなシステム転換は地方自治体と地域の農家の間にくさびを打ち込み、公的機関が民間企業のための研究を行うものとなるでしょう。民間企業は狭い地域のために市場の限られた多様なタネではなく、広域で売れる少数のタネにしか関心を持たないため、地域のための種苗は無視されていくことが予想されます。
しかも、儲けとなる品種となると、イチゴやブドウなどに集中していくことでしょう。2020年の種苗法改正は海外での1975品種の使用を禁止する守りの改正でしたが、2026年の改正は攻めの改正と言えるでしょう。しかし、その攻めの根拠となるのは種苗ごとのライセンス管理団体です。シャインマスカットのような売れ筋の品種であれば、そんな団体を作ることができるとしても、すべての品種でそんな団体が作れるわけは当然ありません。つまり、売れ筋だけに特化した法改正だと言わざるをえません。
さらに中央集権化された環境の中で、新たな種苗開発では、「ゲノム編集」や重イオンビーム、中性子線育種といった人為的突然変異育種技術がメインになっていくことが想定されます。統廃合されてしまえば、そうではない従来の育種技術による品種を求めようと思っても、得られなくなる可能性があります。トップダウンで育種が行われることにはこうした大きな危険があります。
イチゴやブドウだけでは私たちは生きられません。地域で生産される地域に合った多様なタネこそが今後の激動の環境の変化に対応するために不可欠でしょう。でも、今回の政府の食料システムの大転換は、私たちが生きていく上で一番肝心な部分は素通りして、企業の儲けになる食料システムに変えられようとしていると言わざるをえません。
地域の食のシステムを守るために何ができるのか、真剣に考えなければならない時になると思います。
