種苗法改定案に関する自民党Q&Aを検証する その2

 種苗法改定法案を通すために自民党がQ&Aを作成して、国会議員やマスメディアに配布している。しかし、その受け答えには大きな問題があり、種苗法問題の部分については別記事でまとめた。
 このQ&Aには種苗法以外にも2018年4月に廃止された主要農作物種子法(種子法)についても触れられているので、それについても以下にコメントする。

2 主要農作物種子法廃止関係等

問1 主要農作物種子法廃止により、海外企業に種子が支配されてしまうのではないですか?

  1. わが国の種苗は、そのほとんどが国内の種苗業者から供給されていますが、我が国の品種開発の力が弱まれば、海外企業に種子が支配されてしまうことも懸念されます。
  2. このため、わが国の品種開発の力が弱まらないように、優良な品種開発を続けていく必要があることから、植物新品種を知的財産として適切に保護するための種苗法改正案を提出しております。
  3. なお、主要農作物種子法は、海外企業の参入とは全く無関係のため、法廃止により種子が支配されてしまうという御懸念はあたりません。(主要農作物種子法には、そもそも海外企業の参入に関する定めは一切ありませんでした。)

 国内の種苗業者が種苗を供給していると書いているけれども、野菜の種子については9割が海外での育種となっている。最近では新品種も国内で育成できず、海外で育成するものが増えており、国内の種苗能力は激減してしまっている。

 稲は例外的に100%国産種籾が確保されてきた。そのほとんどが道府県の公的種苗事業関連で行われてきた。それを可能にした背景に種子法の存在がある。在来種の保護の欠如など、これまでの種子法が完璧であったわけではないが、種子の国内での安定供給であったことをみればその意義は十分あった。それが今、廃止され、今後、危うくなってくることが危惧され、各地方自治体での種子条例の制定につながっている。しかし、後述のように各自治体の種子条例では対応できない問題も出ており、種子法廃止は放置できない問題である。

 「品種開発力が弱まれば」と書いているが、実質、ここ十年以上にわたって、日本の品種開発力は激減している。今や中国や韓国にも大きく引き離されてしまっている。地域の種苗会社にしてみれば地域で買ってくれる農家が減ってしまえば、さらに費用をかけて新品種どころでなくなるだろう。日本の農村が疲弊する政策が種苗会社にも大きな影響を与えているのが現状であり、ここで農家の負担を増やすことでそれが解決するというのはあまりに近視眼的な見方である。

 公的種苗事業がさらに縮小し、その事業が育んだ豊かな品種が多国籍企業に払い下げとなる危機が生まれるのはもう少し後のことだろう。廃止から2年で、参入がなかった、だから今後も大丈夫というのは根拠がなく、説得力はない。

問2 主要農作物種子法廃止により、地方交付税措置の根拠がなくなり、都道府県が行う種子供給業務の予算が打ち切られるのではないですか?

  1. 法廃止後も引き続き、都道府県の種子供給業務に必要な費用が地方交付税の算定根拠になっており、主要農作物種子法の廃止前と同様に地方交付税が措置されています。
  2. 都道府県においては、このような交付税も財源として種子供給を行っています。

 これも問いと答えが対応していない。法的根拠がなくなるという問いに対して、それについては答えず、ただ「今後も続けます」というだけ。農水省次官の通知では「民間企業の参入が進むまで」という限定付きだ。これではいつ「変わりました」と言うこともできてしまう。なぜ、続けられるのか根拠は示されていない。
 要するに今後、法的にも公共種苗事業を支えるための根拠付けをする法律の制定が不可欠ということだ。

問3 主要農作物種子法廃止後に都道府県が条例を制定しているのは、廃止が適切でなかったからではないですか?

  1. 都道府県で制定されている条例は、例えば種子法が対象としていた稲、麦類及び大豆以外に、イチゴやそばなどの作物も対象とするなど、地域の独自性を反映して制定されています。
  2. これは、種子法を廃止し全国一律というやり方をやめる中で、一方、地域の実情に応じた種子供給体制を構築しようとする都道府県の意志の表れといえます。

 こんな受け止めがありえるか? 無責任もいい加減にしてくれ、と怒鳴りたくなる答え。ここまで多くの道県で種子条例ができたのはその地域の農家をはじめとする人びとが地方自治体に働きかけた成果と言える。そして、種子法がなくても種子条例があればいい、ということにはならない。

 主要農作物の種子は都道府県毎に別々にやっているわけではない。東京都では種籾は作っていないし、神奈川県でも9割近くは富山県に委託している。種子法の下では、各都道府県が作る種子計画を下に、全体として不足することがないように全国種子計画が作られてきた。しかし、今はその調整がない状態となっている。

 1993年の冷害によって米生産に大打撃を受け、岩手県で種籾が確保できなかった時にはその冬に石垣島で種籾の増産が行われ、そのお米が岩手に届き、難が翌年も続く事態を避けることができた。
 気候変動が激しくなる中、各都道府県ごとの計画では不十分であり、災害を受けた場合、他の地域がバックアップできる体制を確立する必要がある。それをすべき政府・国会が各地域が勝手にやればいいというのだから、これほど見識のなさには言葉が出てこない。

 今後の気候変動、あるいは地震災害などが予想され、さらに今回の新型コロナウイルスの蔓延などで、種苗生産にも特定の地域に大きな被害が発生する可能性がある。その危険を回避するために、日本全体で、リスクを減らせる体制が不可欠であり、その点、種子法の復活は不可避であるはずだ。

種苗法改定案に関する自民党Q&Aを検討する(前編)

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