植物は自ら光合成で作り出した炭水化物の4割近くを根から放出し、土壌微生物に与える。土壌微生物は植物から炭水化物を受け取る一方、さまざまなミネラル、水分を植物に渡す。お互いが生きていく上で不可欠なパートナーとなる。土壌学者がこの関係を「共生」と名付けた。地球の多くの生命を支えるベースにこの「共生」がある。しかし、工業的農業がこの「共生」を壊してきた。そして、今、この地球の生命が危機に曝されている。
それでは海の方はどうなっているだろう? 海は生命が生まれた場所とされるが、その「共生」のストーリーはまだまだ十分に注目されているとは言えない。
たとえば、熱帯の海はどうなっているだろうか? 色鮮やかな豊穣の海とイメージされるかもしれないが、実は熱帯の海は陸の上とは異なり、生命にとっては困難な地域でもある。熱帯の海が透き通っているのは、高い温度のために有機物がすぐに分解されてしまうからであり、要は栄養に乏しい地域だからだ。クジラはいつも栄養がたくさん得られる北極や南極の周辺で生活をしている。熱帯地域にも来るがそれは子どもを産むためだ。でも子どもを産む間、親のクジラはほとんど栄養を取れないために子育ては長期間の断食に近い状態という極めて過酷な業となる。
しかし、熱帯の海は砂漠ではない。実に多様な生命が生きている。その生命を大きく支えているのがサンゴであり、サンゴに共生している褐虫藻(かっちゅうそう)との共生なくして、この豊穣な生命の存在はありえない。サンゴとはイソギンチャクに近い動物でクラゲのような触手があり、動物性プランクトンを食べるのだが、そもそも熱帯にはそんな栄養源は多くない。褐虫藻はそんな中、サンゴに共生し、光合成を行って炭水化物をサンゴに供給してくれる。なんと褐虫藻は作り出した9割の炭水化物をサンゴに渡すという。南の豊かな太陽を受けて、褐虫藻が作り出す栄養を得ることでサンゴは繁殖していくことができる。
そして、サンゴはその栄養を元に、粘液を作り出し、安定した住処を褐虫藻に提供する。サンゴが作り出すその粘液は回りのバクテリア、動物性プランクトンを養い、魚やエビなど多くの生命を支える源となる。サンゴがなければ熱帯地域の海は砂漠のような状態になるだろうと言われる。
しかし、世界のサンゴはわずか海の0.1%を占めるに過ぎない。でもその0.1%のサンゴが直接25%の生命を支え、間接的に支えているものを含めると40%に達すると言われる。わずか0.1%が40%の命に関わる。もし、サンゴ(と褐虫藻)が失われたら、海の4割の生命が影響を受けることになる。しかも、今、気候変動の影響で褐虫藻が死に絶え、その結果、サンゴも死滅しつつある。このままでは2050年にはサンゴがほぼ絶滅すると予測されている。海が死ねば、人類はどうなるか想像ができるだろうか? それもあとわずかの時間でである。
それをさらに加速するのが、人間による開発である。サンゴが棲息するのは光合成のできる浅い海、そのほとんどが陸に沿った海岸線である。それを埋め立てたり、化学肥料や赤土の流出、あるいは処理されない人や家畜の糞尿がサンゴの生存を困難にする。そして、そのもっとも愚かな行為が辺野古の新米軍基地建設だろう。
辺野古周辺は沖縄に残った貴重なサンゴの棲息地である。その意義は単に辺野古周辺の景観の問題などに留まるものではない。沖縄周辺の海洋生態系を支えるきわめて重要な命をつなぐ結節点なのだ。それを潰せば、その影響は計り知れない。人類の力では回復が不可能なほど、つまりお金をいくらつぎ込んでも回復できない損失が生み出される。
沖縄タイムス
辺野古の移植サンゴ、9群体のうち3群体が死滅 専門家「明らかな失敗」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/468927
NHK沖縄
移植の希少サンゴ1群体死亡確認
https://www3.nhk.or.jp/lnews/okinawa/20190909/5090007714.html
現在の日本の政権がこうした生態系の価値をまったく理解していない、そして、理解する気がないことはこれまでの言動から明らかであり、このような政権が続くけば続くほど、生態系にそれだけ甚大な損失を与えることになるだろう。この政権を一刻も早く退陣させ、命を守る方向に舵を切らなければならない。それができなければわたしたちの未来はなくなる。