本当に今、目を覚まさないと。大事な分かれ道が目の前にある。目もくらむような変化が起きようとしている。どんな変化か?
Covid-19の蔓延で世界が苦しむ中、有機農業・アグロエコロジーの発展はめざましい。英国では2020年12.6%も有機市場が拡大したという(1)。米国ではなんと14パーセント(2)。新型コロナウイルスの出現は消費者の行動をも大きく変えつつある。
2018年にフランスのシンクタンクIDDRIは2050年のヨーロッパの農業と食のあるべき姿を提示した。アグロエコロジー、生態系の原則に基づく農業に転換させることで化学物質の投入を段階的になくして、土壌や微生物を守りながら、増加する人口を健康な栄養で支え、慢性疾患にも対応できるというものだ。2050年にはこの100年間近く、世界を苦しめた化学物質にはもう頼らない時代にできるのかもしれない。そのために今、やるべきことが検討されている(3)。気候変動も和らぎ、生物大量絶滅というシナリオも変えられるのかもしれない。次の世代への大きな希望が見えてくる。
しかし、もう1つの恐ろしい道が大きな口を開けて構えており、わたしたちを呑み込もうとしている。それはBrexitでEUを離脱した英国で鮮明に現れている。EUの厳しい遺伝子組み換え規制からも離脱しようというのだ。
英国政府は「ゲノム編集」を事実上無規制にする方針を打ち出し、1月7日に10週間のパブリックコンサルテーション(パブコメ)を開始した(4)。英国政府は「ゲノム編集」を無規制にした時に健康に与える影響や英国の農業に与える影響など検討をまったくせずに。
しかし、英国の市民運動は政府の動きを超えて、動き出している。多くの市民団体が共同で、英国のスーパーに「ゲノム編集」を扱わないように求める大きなキャンペーンを開始している(5)。売れなければ誰も作らない。日本政府は2019年10月にすでに米国に追従することを決めて、英国に先行し、「ゲノム編集」トマトの種苗配布が始まろうとしているが、まさに日本でこそこうしたキャンペーンをしなければならなかったわけだ(まだ遅くない)。
話はそこで終わらない。すでにEUでは世界でもっとも厳しい遺伝子組み換え食品表示義務制度がある。しかし、家畜の餌などは表示義務がない。それに対して、ドイツやオーストラリアでは独自のNon-GMOラベルが生まれている。それはなんと生産される6割や7割の食肉に付けられているという。Non-GMOが当たり前になっている。
このNon-GMO認証マークはドイツやオーストラリアでは普及しているが、それに留まらず、他のヨーロッパの国でも普及させるために、共通したものにしていこうということで、この2国の認証団体が母体となって、ヨーロッパNon-GMO産業協会(ENGA、European Non-GMO Industry Association)が設立された(6)。このNon-GMO食品表示は「ゲノム編集」ももちろん対象となる。この2つの団体はGreenpeaceなどと共に「ゲノム編集」の検出技術の策定を支えて、その表示義務の実現に向けても活動している。
バイオテクノロジー企業に買収された政府が命じられるままの政策を打ち出す中、市民の側から、その政策が修正されていく。これこそがわたしたちがやっていかなければならないことだろう。
道は選ぶことができる。遺伝子操作と化学物質漬けで、バイオテクノロジー企業に握られた道か、それとも化学物質漬けを卒業して、豊かな生態系と健康を守る道か、有機市場の拡大を見れば、英国の市民の選択は明らかに後者となっている。
日本でもその選択は可能だし、その道こそ、人びとの健康や環境だけでなく、地域の農業を守る道でもあるだろう。子どものために確保したいのはどちらの道か?
(1) 英国での有機市場の変化
Organic and Fairtrade sales soar as COVID and climate boost ethical consumerism
https://www.foodnavigator.com/Article/2021/02/11/Organic-and-Fairtrade-sales-soar-as-COVID-and-climate-boost-ethical-consumerism
Steep rise in UK’s consumption of organic food
https://www.theguardian.com/environment/2021/feb/10/steep-rise-in-uks-consumption-of-organic-food
(2) 米国での有機市場の変化
Organic Produce Sales Up 14 Percent in 2020, Topping $8.5 Billion
https://www.organicproducenetwork.com/article/1253/organic-produce-sales-up-14-percent-in-2020-topping-85-billion
Local farmer benefiting from pandemic as demand for organic grows
https://www.kxxv.com/hometown/mclennan-county/local-farmer-benefiting-from-pandemic-as-demand-for-organic-grows
Rodale Enlists Cargill in Unlikely Alliance to Increase Organic Farmland
https://civileats.com/2021/02/09/rodale-enlists-cargill-in-unlikely-alliance-to-increase-organic-farmland/
米国ではもはや有機農業が発展するのはもう止められず、有機農業が大資本に買収されてしまうのか、小規模家族農家ががんばれるのかの問題になっているように見える。
(3) 2050年のヨーロッパの農業を描いたシンクタンクのレポート
IDDRI report: Ten Years for Agroecology in Europe
https://www.soilassociation.org/causes-campaigns/a-ten-year-transition-to-agroecology/iddri-report-ten-years-for-agroecology-in-europe/
英国やEUでのアグロエコロジーに関する包括的な情報
Ten-years to Agroecology and Sustainable Diets
https://www.soilassociation.org/causes-campaigns/a-ten-year-transition-to-agroecology/iddri-report-ten-years-for-agroecology-in-europe/
The Oxford Real Farming Conference (ORFC) is the UK’s annual food and farming conference for agroecological practitioners.
https://www.soilassociation.org/news/2021/february/10/oxford-s-farming-conference-goes-global/
(4) How to ‘public consultation’ – what Defra should have done
https://beyond-gm.org/how-to-public-consultation-what-defra-should-have-done/
(5) Civil society calls on supermarkets to show leadership on GMOs
https://beyond-gm.org/civil-society-calls-on-supermarkets-to-show-leadership-on-gmos/
添付した画像はスーパーに「ゲノム編集」食品のボイコットをよびかけた市民組織のロゴ
(6) Behind the push for GMO transparency on-pack: ‘Non-GMO food labelling closes a loophole in EU legislation’
https://www.foodnavigator.com/Article/2021/02/11/ENGA-pushes-for-non-GMO-food-labelling-across-Europe