健康危機、気候危機、生物大量絶滅危機というかつてない危機に対して、世界中で有機農業・アグロエコロジーの強化が求められ、それが着実に進展する中、日本では伸び悩む。だから「みどりの食料システム戦略」で有機農業を2050年までに25%にする、という提案を聞いた時、少なからぬ人にとって、一筋の希望に見えたはずだ。
わずか2週間という通常の半分のパブリックコメントに17000以上のコメントが寄せられたという。その中には農家の存続支援や有機化の進展を求める切実な声が多く寄せられたことは間違いないだろうし、「ゲノム編集」やRNA農薬などのバイオテクノロジーの採用はやめてほしいという声も圧倒的に寄せられたことだろう。それはどう反映されたのか?
本日、確定されたとする資料から見ると、中間とりまとめから最終報告へは、何がどう変わったか、一言で言えば、なんと、
「国民の理解」が付け加えられただけ。
ようするにそれは彼らにとっては誤解なのだ。だから、その「国民の誤解」を解くために「丁寧な説明」が今後繰り返されるのだろう。国会でのお馴染みの菅首相の答弁のように「ゲノム編集」やRNA農薬は安全であり、優れた技術であって、日本の発展のために欠かすことができないものなのだ、という彼らの説をこちらが受け入れるまで何度も何度も、壊れたテープレコーダーを繰り返し流し続けるということになるのだろう。ゼロ回答というかマイナス回答ではないか?
もう1つ指摘するとしたら、「フードテック」が強調されている。フードテックとはたとえば細胞培養肉とか、「ゲノム編集」された昆虫とかを使ったこれまでにない食を作り出す技術(もちろん、悪いものばっかりじゃないけど、バイオテクノロジーを使いまくりで特許だらけのものが多いので注意)。この技術への「国民の理解」も求められていくことになるだろう。
一方で、学校給食の5割を有機にする目標とか、「ゲノム編集」やRNA農薬推進をやめてほしい、という声に対する対応は一切見つけられなかった。
唯一、資料の中でプラスに評価できるのは、参考資料にある既存の「優れた技術の横展開」というページ(添付)。これがしっかり確立すれば、これまでの有機農家の技術を生かす道は切り拓けるかもしれない。これは重要(不幸中の幸い)。でも、それを拡げるための新たな施策は書かれておらず、これまでのメニューがアリバイ的に貼ってあるだけ。
モンサント(バイエル)が買収した農業プラットフォームが今後の農業の行方を決めていく。それが新しい食料システム。政府は企業のための基礎研究を税金でやる以外、やることがなくなる。どんな作物をどの地域でどういう化学肥料・農薬を使って生産させるか、そんなことは彼らが決めて、アプリを通じて各農家に指示が出る。もちろん、そんなの使わなくてもいい。だけど、政府や自治体は動かないし、やろうと思ったらすべて自己責任でやりなさい、となっていくことだろう。彼らは市場まで押さえている。多国籍企業のプラットフォームに乗るか、それとも…、そんな選択になってしまうことになるかもしれない(もちろん、そうはさせてはならないのだけど)。
どの国も農業は社会の存続に不可欠なので、しっかり守っている。でもその政策はどんどん後退して、民間企業に明け渡されていく。自由貿易協定で各国の法律を変えさせる、それだけでなく、国連を通じて、各国政府の政治を一気に変える。そのための食料システムサミット。日本の戦略もそれに応じたものとして準備されている。種子法廃止、農業競争力強化支援法、種苗法改正、農産物検査見直しもすべてこの戦略に見事に合致する。
これまで遺伝子操作作物(食用)に手を染めてこなかった日本も染め始める。民間企業だけではない。地方自治体も巻き込まれるかもしれない。儲からない基礎研究は国や地方自治体にやらされる。遺伝子操作された作物の栽培実験が都道府県の農業試験場で行われることになるかもしれない。うまく行ったら、それは民間企業に譲渡され、販売されていくことになるだろう。
もう1つ、指摘しておきたい。今回の戦略でネオニコチノイド系農薬を代替させるという表現が、この戦略の資料の中でなされたが、これはたぶん、初めてではないか。ネオニコ問題を気にしていた人はそれを見て、涙したとも聞く。
でも、いつまでにそれをやるのかというとなんと2040年までなのだ。あと20年もネオニコチノイド系農薬使い続けるの? ハチがいなくなってしまうじゃない。というか、今すでにネオニコチノイド系農薬、多くの国が規制・禁止していて、日本だけが規制緩和しているのだけど、それをあと20年も続けるなんてありうるの、という話だ。
経団連の会長がまた住友化学から出るが、その住友化学もヒアリングされているけど、反対していない。なぜかというと住友化学にとってこの新たな戦略の農業プラットフォーマーとなることで莫大な利益が確保されるからだろう。
結局、これは企業の企業による企業のための食料システム戦略なんであって、決してみどりの食料システム戦略なんかじゃない。
これを国は世界の農民・市民がボイコットする国連食料システムサミットに持って行き、国際ルールにしようと言っている。その前に日本のルールにするのだって、おかしいでしょ。パブコメの1万7000件の内訳を発表してほしい。企業が動員していなければ圧倒的に企業のためのシステムではなく、消費者や小規模農家がやっていける安全な食を作ることを求める意見が圧倒的だったはずだろう。それを無視して行くのだろうか? わたしたちは世界の敵になるってか。
見事に農業政策の民営化、多国籍企業への解放が進んでしまうというこの時に、どうやって事態を変えていくことができるだろうか? もちろん、産直提携はかつてないほど大きな威力を発揮するだろう。でも、対抗するためにはもっと大きな力が必要になる。
水道を多国籍企業に奪われた市民が世界でどう闘っているか、その闘いを今度は食でやっていかなければならない時代が来ているのかもしれない。そして国単位ではなく、そうした自治体が相互に国境を越えて連帯して支え合う時代になっていくかもしれない。
各地域での取り組みは最前線になる。学校給食も種子も水道も漁業権も市場も、人びとの命・生活に関わる分野で地方議会がどう動くかも大きな意味がある。
そして国際的には今年の9月国連食料システムサミットへの対抗のグローバル・ピープルズ・サミット、そして11月グラスゴーで開かれる第26回気候変動枠組条約締約国会議で世界からそうした人びとが集まってくる。将来切り拓くきっかけは作っていくチャンスがまだまだある。
かなりさらに大変な時代に入ってきていますが、がんばりましょう。どうせ、絶対、多国籍企業の思うようにはいかないのです。チャンスはいっぱい出てくるはず!
農水省「みどりの食料システム戦略」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/team1.html
国連食料システムサミットに代わるGlobal People’s Summit
https://peoplessummit.foodsov.org/
食と気候に関するグラスゴー宣言
https://www.glasgowdeclaration.org/
グラスゴー宣言に関する説明(日本語)
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4842048762488582