フードテック推進ビジョンを批判する:越権行為

 1月9日締め切りのフードテック推進ビジョンに関するパブリックコメント、重要なので別の角度から見てみたい。
 
 戦後日本の原則でもあった戦争をしないという国是、そして原発は新設しないという政策が国会での議論もなく、勝手に閣議決定されたのと同様に、いやそれ以上にまったく国会では何の検討もないまま、推進されようとしているのがフードテック。
 
 何が問題か、考えてほしい。
 
 「細胞培養肉はすごい、動物から幹細胞をちょっと持ってくるだけで殺さずに肉が増やせる。しかも気候変動ガスになる牛のゲップも出ないから気候危機対策にもなる」などといいことばかり宣伝文句を並べるけれども、細胞培養が人間社会を根底から覆すくらい、大きな影響を与えかねないことについては語ろうとしない。
 
 たとえば自然を生かす飼育をされる牛であれば、農作物は作れないような山間地に生える草を食べ、低温で土壌微生物が十分活発になれない地域でも、食べた草を反芻することで暖かい牛の内臓の中で発酵させ、そして土に返してくれる。草はある程度、食べられることで成長モードに入り、活動が活発になる。牛がいなくなればその地は砂漠化してしまうかもしれない。牛も自然な自然サイクルの輪の一つとなって、環境を守ることができる。
 
 しかし、培養肉はどうなるか? バイオリアクター(図はWikipediaから)の中で培養されるけれども、自然な循環は不可能だ。多くのケースで遺伝子操作された微生物が使われ、それが作り出した代謝物はそのまま環境に出すことはできない。培養肉の生産が増えれば増えるほど、膨大な産業廃棄物が作られてしまう。
 
 そして使われることが予想されるのは「ゲノム編集」や合成生物学や従来の遺伝子組み換え技術。政府や推進企業は安全だと言っているが危険に警鐘をならす科学論文はここ数年紹介してきているけれども、多数にのぼっている。しかし、それらは無視され、危険を指摘する声を「理解していない」と一方的に決めつけ、「丁寧な説明」という表現で、一方的な見解を押し付け続けているのがこれまでの日本政府がやってきたこと。
 
 これまでの食とは自然が育てる生命をいただくものであった(植物であれ動物であれ)。人は食べることで自然をいただき、一体化する。命は自律性があり、他の生命をも生かす能力がある。しかし、この細胞培養食はがんのように自律性を失った命の断片であり、命とはよびえない。当たり前だが、人は食べたものでできている。食べるものが命から非命となれば、人の本質も変わっていかざるをえないだろう。
 これまで生命を育んできた農家は、こうした非命の断片を増やすための原料供給者に変えられる。工場の原料供給者にされてしまう。そして作られた最終生産物としての食品は特許の塊であり、特許料を払った者以外、自由に作ることも食べることもできない。農業のあり方、社会のあり方も変えられていく。
 
 そもそも「ゲノム編集」に政府がゴーサインを出した時、果たして国会での議論はあっただろうか? 新たな法律を作らずに、現行法の適用だけの問題として、省庁内の検討だけでOKとした。そしてその省庁内の検討はいつもの通り、御用学者のお墨付きを得ただけで、危険を指摘する人たちは排除されたまま、結論ありきで決めてしまっている。
 
 他の国も同じと思うかもしれないが、そうではない。英国では「ゲノム編集」に関しては新法を作るという話になり、激しい論戦が英国議会内外で交わされている。日本が参加の限られた検討会だけで決めてしまったのとは大違いである。
 
 いつから日本は独裁国家になったのか? 科学的な検討すらできない国になったのか? そして、私たちの食や農のあり方を一方的に決めてしまえる国家になったのか?
 
 戦争放棄、原発新設しない、そのような重大な原則の変更と、このフードテック推進ビジョンは同様な重大な問題を孕んでいると言わざるを得ない。
 
 省庁が勝手に方針を作って、パブコメだけやって、進めますなどというのは許されない越権行為といわざるをえない。このビジョンは破棄して、国会含めて議論をし直すべきだろう。そして、規制する法律もなしに、進めることはあってはならないはずだ。
 
 問題の深刻さを考えれば、一人でも多くの人が一言でもいいので、このパブリックコメントにコメントを書いて送ってほしい。
 
パブリックコメント
「フードテック推進ビジョン(案)」及び「ロードマップ(案)」についての意見・情報の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003602&Mode=0

フードテック推進ビジョンを批判する:「ゲノム編集」・細胞培養食に未来はない

“フードテック推進ビジョンを批判する:越権行為” への2件の返信

  1. 未来の子供たちに、本物を残すのが正しい道です。遺伝子組み換えたり、ゲノムを編集した物を食べて真っ当な精神が育つでしょうか?また、それらを一部の政治家で勝手に決めて良い訳がありません。立ち止まらばきです。

  2. 自然素材が一番良いですです
    ゲノム編集、遺伝子組み換え食品は危険です
    断固反対します

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