種子法廃止や種苗法改正問題が日本でも迫る前に、海外では特にラテンアメリカで反「モンサント法案」とよばれる運動が社会を揺るがしていた。日本の種子法廃止や種苗法改正問題はこのこの問題と関わっていることは明らかだったから、2017年から20年にかけて、ラテンアメリカやアフリカ、アジアで動いている問題を日本各地で話して回った。
種苗法改正時には十分問題にできなかったものが今、大きな問題になっている。それが特許の問題。種苗法で扱われる権利は「育成者権」と言われるもので、一方、遺伝子組み換え作物で使われるのはそれに加えて「特許権」だ。この育成者権と特許権はどう違うのか、というと一言で言えば、特許権の方がずっと問題が大きい。
特許権が取られてしまった遺伝子組み換え大豆はその特許権を持つモンサント(現バイエル)などからの許諾がない限り、何もできない。契約書にサインして、その契約書に書かれてあることだけが許される。その契約にないことをやれば特許法違反となる。体に悪いかもしれないので、実験用に使う、なんてやったら法的に訴えられる可能性がある。
育成者権はそこまで縛ることはない。買ってきたタネを自家採種することは育成者権のあるタネでも可能だ。ただし、市場に販売する場合を除いて。そのタネから新しい品種を開発することも、また研究用に栽培することも自由だ。だから、種苗法の育成者権は特許法の特許権よりも自由度が高い。
特許というのは基本的に発明した人の権利を守るために作られた制度だ。でもタネに特許を認めることには世界的に強い反対がある。遺伝子組み換え企業であろうと大豆を発明したわけではないからだ。遺伝子を操作しただけで、大豆の発明者として君臨されるとなればちょっとおかしい、という疑問が出てくるだろう。だから世界ではタネを含む生命への特許を認めない政府はいくつもある。インドがそうだしEUもそうだ。
ところが知的所有権としては育成者権よりも特許の方がはるかに強くて有利なので、種子会社は特許を取ろうと圧力をかけてくる。タネへの特許を認めないはずのEUも3500の特許を認めてしまっている。その中心は遺伝子組み換え作物なのだが、近年は遺伝子組み換えでない従来の品種改良による作物でも特許申請が1500も来て、EUは200もすでに認めてしまっている(1)。遺伝子組み換え企業は従来品種でも特許を取得している。
だからNo Patents on Seedsという運動が立ち上がり、従来品種への特許取り消し、新規特許の阻止の活動を行っている。特許を取られたら、新品種を作るのはその特許保持者しか実質できなくなる。あるいは高いライセンス料を払わなければならなくなる。そんなことによって多様な種子はもう作れなくなってしまう。これは農業の持続性に対する大きな危機を作り出す。遺伝子組み換え企業が種子を独占する、という状況はこんな仕組みで進んできた。
それにまして反対が強いのが遺伝子特許。これは個々の作物に特許を認めるのではなく、特定の遺伝子に関する特許を認めるというもの。これがなぜ怖いかというと、植物の多くは同じ遺伝子を持っているから、特定の遺伝子に特許が認められてしまうと、その遺伝子を持つ広範な作物がすべて特定の組織に握られてしまう可能性がある。
たとえばある遺伝子がカドミウムを吸収することに関わっていることをある組織が発見して、その遺伝子を改変したもので特許を取った。その遺伝子の入ったお米はすべてその組織の特許の下に置かれることになる。その遺伝子は植物が共通してもっている。この遺伝子で同様のことをやればキャベツだろうかレタスだろうが、すべて1つの組織の特許で支配できてしまう。
この遺伝子特許で「モンサント法案」として批判されていたことがすべて実現できてしまう。これは種苗法改正ではここまではできない。
なぜ、「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」が問題かというと、まさにこの遺伝子特許が取られているからでもある(2)。だから種苗法改正の時に危惧していた以上のことがこの品種が広がることで実現する。もしその特許が民間企業の手に渡ったら?
「EUでもタネに200も特許が認められているのだから、日本でも少しくらいいいじゃない」って話にはならない。EUで特許が認められているのはトマトとかキュウリとか大麦など。大麦といってもビール用で、まだ主食で認められているものはない。遺伝子組み換え作物だって、大豆やトウモロコシで、これは欧米にとっては家畜の餌であり、彼らの主食でもない。
でも、日本は主食のコメで遺伝子特許を認めた。しかも、秋田県は県が提供する100%の種籾をこの遺伝子特許のものにするというのだ。秋田県だけでなく、農水省は3割の都道府県に導入することをまず目標にして、今後、主要な品種にしようとしている。
「日本は主食にまで遺伝子特許認めてしまったの? 狂っている」海外からはそう言われることは確実。でも、今、この遺伝子特許を覆すことはできないとしても、そんなお米を拡げないようにすることはまだ可能のはず。
これらの品種は元の品種とは似て非なるものだ。収量は下がってしまうし、マンガンは3分の1もないは、出穂期も、穂長も短くなり、稈長(背丈)は高くなって倒れやすくなるなどで採用しなかった県もある(3)。
だからしっかりと問題を指摘していけば広がることは止められるだろう。でもそれをやらなかったら、どうなるだろうか? 限られた種類の野菜だったらそれを避ければいい。でもコメを避けて、果たして生きることは日本でありえるだろうか?
(1) What is the problem?
https://www.no-patents-on-seeds.org/en/background/problem
(2) Google Patents カドミウム吸収制御遺伝子、タンパク質、及びカドミウム吸収抑制イネ
https://patents.google.com/patent/JP5850475B2/ja
(3) 12月2日の投稿の注(1)、(2)参照