タネの危機と解決策としてのタネ:世界で広がるタネの運動

4月26日は国際種子デー(International Seeds Day)で、世界中でさまざまな動きがあった。記念日ということを超えて、この動きは近年急速に大きくなっている。タネが危機であること、そして同時に世界で進む多重危機の解決策もまたタネから始まるからだ。
 
 タネの危機とは何か? 工業的・企業的農業実践によって、100年あまりのうちにその7割とも9割とも言われる多様なタネが姿を消した。そしてさらに遺伝子組み換え企業を筆頭とする種子企業による独占の進展によって、さらに種子の多様性、農業生物多様性が劇的に減り続けている。
 
 そして、遺伝子操作技術による危機も進む。遺伝子を操作された作物の耕作によって、在来種、野生種も含む近縁種の遺伝子が汚染される。そしてこの遺伝子操作による種子は特許によって独占を許され、その特許の範囲が「ゲノム編集」によって通常品種にまで広がりつつある。
 種子は企業の所有物、財産となって、人びとの食料主権、食料の決定権を奪いつつある。
 もっともそれに対抗する人びとの運動は世界大に広がり、相互につながり始めている。環境、社会を取り戻す鍵となるのがタネである。
 
 4月24日、欧州議会はEU種子販売法の改正を承認した。農家が育てる在来種を相互に流通できるように規制が緩和された。これは重要な勝利で、EUで地域の在来種をベースとした農業を発展させる道が広がった。これは長くEU加盟国の農民が求めてきた運動の成果と言える。もっともその実施にはさまざまな足枷が付けられることになった。
 同時にこの改正案は「ゲノム編集」種子の規制を放棄し、EUの農業での導入を承認するものとなった。欧州議会は「ゲノム編集」による種子の特許を認めず、食品表示の義務化などを約束しているものの、それは単なるジェスチャーに過ぎず空約束であるとEUの農民運動は批判しており、今後、最終決定に向けた協議に対して、農民運動団体ビア・カンペシーナはこの条項の却下を求めている¹。
 
 「ゲノム編集」などによる特許作物の広がりは従来品種にまで及ぶことが懸念されている。つまり「ゲノム編集」によって遺伝子の特定箇所を変異させた品種の特許は「ゲノム編集」によらない従来品種にまで適用される可能性がある²。
 特許品種の登場によって、莫大な開発予算を持たない種苗企業は姿を消し、さらなる多国籍種子企業による独占が可能になる。新品種を作るために特許を独占する遺伝子組み換え企業にライセンス料を払わなければならないからだ。遺伝子組み換え企業がさらにタネを独占することに道を開いてしまう。
 
 アフリカでもタネの攻防は激しい。先進国との自由貿易協定を通じて、国際種子メジャーのルールであるUPOV1991の加盟が義務付けられ、自国の種苗法を変えて、農民たちの在来種を封じ、外国企業の種子を買わないと農業ができなくする動きがアフリカ諸国で進んでいる。それと同時に押しつけられるのが遺伝子組み換え種子である。この動きに対して、アフリカの農民団体は Seed is Life #SeedIsLife キャンペーンを立ち上げ、アフリカ各地の農民が声を上げた³。
 
 その一つ、ザンビアでは4月に植物育種法(種苗法)改正案の審議が始まり、UPOV1991の加入がめざされている。この改悪案は農民の権利を奪うものとして声明が上げられている⁴。
 
 アジアでは多国籍種子メジャーのルールを押しつけているのは他ならぬ日本政府だ。日本政府のUPOV1991の押しつけに対して、インドネシアの市民団体の声を元に国連が動いた。食への権利特別報告者であるマイケル・ファクリ氏の書簡に対して、インドネシア政府ははっきりと、農民の権利を守る立場から、UPOV1991に加盟しない声明を出し、それは2月に国連のサイトで公開された⁵。同様の政策を求める声はアジア各国の農民団体から上がっている。日本政府の立場はアジアで孤立している。
 
 在来種の保護・活用に関しては韓国が本格的に進展させており、インドやフィリピンでは農民によるシードバンクが国中に広がっている。
 韓国では1997年金融危機をきっかけに国内の種苗会社のほとんどが多国籍企業に買収され、2008年の米韓自由貿易協定によって、食料主権が脅かされる、中でも種子主権が脅かされることに危機感を感じられようになり、種子主権を取り戻す動きとして在来種の保護・活用が盛んになり、農家や市民によってタネの図書館が作られてきている⁶。
 
 UPOV1991に対して、ラテンアメリカはもっとも激しく闘っている。同時にシードバンクの数も急速に増えている。ラテンアメリカ、アジア、アフリカだけではない。ヨーロッパでも、米国でもその動きは大きくなっている。
 
 ヨーロッパではSeeds4Allというプロジェクトが立ち上がり、在来種を守る動きと多国籍企業の種子の押しつけに反対するヨーロッパでの動きを知ることができる⁷。
 
 米国でも無数の動きが進んでいる。その中の一つに有機種子連盟(Organic Seed Alliance)がある。有機の種子の生産者ディレクトリーが作られており、種子購入希望者とをつないでいる⁸。図書館や教育機関などにもタネの貸し出しを行うシードライブラリーが作られ、非営利団体にも広がっている。そのマップ作りが米国以外も含め始まった⁹。

 
 工業型農業はタネと化学肥料と農薬の3点セットを農家に押しつける。この3点セットこそが土壌を荒廃させ、気候変動を激化させ、農民を困窮させ、企業独占の社会を作る。タネを取り戻すことはこの構造を根本から変えることにつながる。
 タネを守る動きは世界大に広がり、かつてない状況になっている。日本でもその市民による動きは確実に広がっている。
 
 しかし、日本政府はまったく完全に世界の動きを無視した政策を続けているのが現実だ。この落差をなんと表現したらいいだろう? 彼らには世界のこれだけの動きが見えないのか。彼らには国連で積み重ねられてきた議論から生まれた多数の条約や宣言も存在しないかのようだ。
 タネの権利を最も否定する国が、残念ながら現在の日本と言わざるをえない。タネの権利を否定することは食の権利を否定することであり、人権、そして民主主義を否定することである。
 
 そして、残念なことに、タネを守る動きを始めた人びとを除き、この問題への関心が日本社会は圧倒的に低い。種苗法改正の時は話題になったものの、自家採種できないタネは1割に過ぎないから影響ありません、という農水省のウソで沈静化してしまった。わずか5年のうちに、秋田県の7割を超える種籾は特許米になってしまう。2030年にはほぼ100%近くが特許米に。それも秋田県だけではない。タネは見事に私たちの手から奪われることが進みつつある。しかも主食のタネが特許に支配される国などはおそらく日本くらいしかないだろう。世界最悪のシナリオが日本で着々と進行しつつある。
 
 韓国で1997年以降に起きたことには注目すべきだろう。金融危機をきっかけに国内の種子企業が海外の種子メジャーに買収されてしまった。同じことがもっと大きな規模で日本で起きる可能性がある。アベノミクスが生み出した円安構造がきっかけになり、金融機関が破綻し、国内企業が多国籍企業に売られる、特許も外国企業に売られ、日本人は主食も海外の企業にお金を払わなければ食べることもできない植民地状況になってしまう。そうなった時、私たちの命を支えるものは何だろうか?
 危機の後、韓国は在来種を軸に農村と都市がつながり、抵抗力を強めている。そこから日本が学べることは大きなものがあるはずだ。
 
 愚かな政府をいくら批判していても、変わらない。このままでは日本経済はハードクラッシュが必至であり、政府は無策・無力で何もしない(できない)ことは目に見えている。その被害から人びとの生活を守るためには地域の食のシステムを再構築する必要がある。そしてその鍵となるのがタネである。
 タネを守る動きを支援しつつ、同時に政府の政策を変えていく必要がある。

 OKシードプロジェクトで情報を得て、対抗方法を拡げてほしいと思う。
サポーター登録(無料)
https://okseed.jp/supportus.html
可能な方はご支援を!

ローカリゼーションデイ日本2024
6月9日(日)10:00-18:00 オンライン(zoom)開催
https://peraichi.com/landing_pages/view/localizationdayjapan2024

分科会5「たねのローカリゼーション~たねから持続可能な地域づくり~」
https://www.facebook.com/events/414224811564570/

日本有機農業研究会 第13回 有機農業市民セミナー
共催 大豆トラスト運動/遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン 有機で大豆をつくろう! 酷暑を乗り切るポイントは? 
https://www.facebook.com/hiroko.kubota.9638/posts/pfbid02tZXHW4VpE62m7TxWiSfKAh6YHCJ1hZbedSo8LQYMEbnRx77Vvi36Dz9E8DdQ9PEHl

(1) Press release – European Parliament votes on GMOs/NGTs and seeds: Repeated violations of peasants’ rights

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Open letter: ECVC calls on MEPs to protect farmers’ rights on seeds by rejecting the proposal on NGTs, and supporting necessary changes to the proposal on PRM

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Raise our forks for diversity!
https://mitmachen.arche-noah.at/en/raise-our-forks

(2) Patents block breeding of tomatoes resistant to harmful virus
Change in EU law is needed to stop patents on conventionally-bred plants
https://www.no-patents-on-seeds.org/en/news/tomato-patent

(3) AFSA Officially Launches “Seed Is Life” Campaign To Uphold Farmer Managed Seed Systems

AFSA Officially Launches “Seed is Life” Campaign to Uphold Farmer Managed Seed Systems

 ウガンダをベースとした東南アフリカ小規模農民フォーラムESAFFはUPOV1991とそれに基づく種苗法を批判し、それに対して、農民が管理する種子システム(Farmer Managed Seed System、FMSS)による地域の種子産業、小規模農家の権利を尊重する公正で包括的な種子システムを提案している。
SEED GIST Unveiled on International Seed Day: A Beacon for Farmer-Managed Seed Systems
https://www.esaffuganda.org/post/seed-gist-unveiled-on-international-seed-day-a-beacon-for-farmer-managed-seed-systems

(4) ザンビア UPOVと種苗法改正に反対する声明(4月19日)
ZAAB STATEMENT: NEW DRAFT BILL SERVES CORPORATE INTERESTS- CURTAILS FARMERS’ RIGHTS STOP UPOV. SAVE OUR SEED
https://mailchi.mp/85492423deff/new-pbr-threatens-food-security-zaab-press-statement-14167157

(5) Indonesia maintains its position not to accede to UPOV 1991
https://www.bilaterals.org/?indonesia-maintains-its-position&lang=en

(6) 丁 利憲「インフォーマルシードシステムの新しい在り方について:韓国のタネの図書館にみるインフォーマルシードシステムの新しい展開」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joas/14/1/14_63/_pdf/-char/ja

(7) Feeding Ourselves 2024 – A Food Revolution Starts With Seed!
https://www.arc2020.eu/feeding-ourselves-2024-a-food-revolution-starts-with-seed/

Seed4all
https://www.seeds4all.eu/

(8) Organic Seed Alliance
https://seedalliance.org/

(9) Global Seed Library Census
https://www.facebook.com/SeedLibraries/

Seed Library Network
http://seedlibraries.weebly.com/
インド、フィリピン、韓国やラテンアメリカのシードバンクの活動の活発な地域の情報はまだ入っていないようだ。
以下は、参考までにブラジルでのシードバンクやタネに関する研究・活動団体マップ

「たねのローカリゼーション~たねから持続可能な地域づくり~」で登壇されるKana Koa Weaverさんの投稿
https://www.facebook.com/canaoo/posts/pfbid02SAqJgEVYMmgocxn68gZd5ZW7RfpcZ9nsWUTMXBqd7MmhY9rikWNpTHhSh6Wq9Euml

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