今、日本は農民消滅、農村消滅の危機にある。でも政府はまったくそれでも問題ないと思っているように思えてならない。政府は1998年から農民からタネの権利を少しずつ奪ってきた。そして2020年、種苗法改正で、登録品種の自家採種を原則禁止にした。でも、そこで止まらないようだ。種苗法の再改正法案を来年の通常国会に上げるという記事を読売新聞が報道した¹。農産物輸出戦略を改訂し、その柱として種苗法改正が位置づけられている。政府のサイトでは確認できないが、読売のスクープだろうか(30日の関係閣僚会議でこの方針が決定したことを日本農業新聞が今日付の記事で報道している)。
読売新聞の記事の要点は何かというと、育成者権(種苗開発者が種苗を独占できる権利)の期間を現在の25年から倍の50年にする。そして、大規模輸出のための日本の農産物サプライチェーンを作るというものだ。
このような農産物のグローバリゼーションの方針を日本政府は1998年に固めた。でもそれ以来、日本はその鍵となる種苗の開発において、世界各国に抜かれ、2001年に世界第2位であった新品種開発数は中国に抜かれ、低迷が続いている。
米も国内で足りてないのに、政府は米輸出を2030年までに約8倍にする目標を掲げている。この輸出拡大政策によって国内の米が十分確保できるということにはなりそうにない。なぜなら、まずは輸出ありきの計画であって、国内流通のための計画ではないからだ。このままでは、むしろ、日本は今後、飢餓輸出国の仲間入りをする可能性が高い。
しかも、今回の農産物輸出戦略と種苗法の改正は、輸出企業の知財権強化が鍵になっている。つまり、ここでも企業の儲けのため。農家が自由にできるタネは育成者権を50年にされてしまえば大幅に減ってしまう。ただでさえ農家としての生き残りが厳しくしたのに、それをさらに権利を制限するというのはどういうことだ。今回の農産物輸出戦略で企業は儲かるかもしれないが、恩恵を得られる農家はどれだけいるだろうか? 米国やカナダの輸出農家は赤字ギリギリで政府の補助金でなんとか食べているのが現実で、実はとても厳しい。米国も農民消滅の道を歩みつつある。農村消滅を食い止める力はこの日本政府の戦略には見出すことは不可能だ。
さらに、この農産物輸出戦略は日本だけでなく、アジア各国の農民の権利も奪うことを視野に入れている。というのも、農産物輸出をするためには、海外で市場を獲得しなければならない。日本から輸出できる期間だけしか得られない農産物だと市場を拡大させることは難しい。となると、日本から輸出できない期間は他の国でも生産を認めて、出荷してもらい、市場の棚を常時確保する。無断輸出は許さず、種苗法を改正して、刑事罰を新たに設ける。そんな特別なライセンス契約が作れれば、日本からの種苗も市場が一気に広がる。
でも、こうしたライセンス契約というのは言ってみれば、農民を種苗会社の契約労働者にするというものであって、もはやここには本来の農民の姿はなくなる。日本の種苗法はそのための第一歩だったが、その種苗法をさらに強化して、海外の国の農民まで巻き込もうとするのがこの農産物輸出戦略ということだろう。
ホームセンターに行けばいい。そこで売っているタネのほとんどは海外産。スーパーに行っても、国産の食品がどれだけ少ないことか。それが異常な事態であることをマスコミも報道せず、そして当たり前になってしまっていることが恐ろしい。そして国内で自給できる最後の砦の米まで輸入米が押し寄せてきている。このままでは本当に日本に未来はない。ごく一部の企業だけが生き残り、農民は消滅する、そんな国になってしまうのか。
どうしていくことができるか? もちろん、こうした種苗法再改正、アジアでの種苗法改正を止めることが必要だが、同時に地域の食のシステムを再構築することだ。地域の生産者を軸にどう地域で食と職をつくり出すか、外部からの資材に頼らずに循環できる食のシステムを作り上げることが鍵になる。
イタリアや韓国、ブラジルなどでは地域の在来種を生かす条例や法律が作られて、それと共に地域の農業が甦りつつある。この狂ったグローバリゼーション政策には未来はなく、すでにローカリゼーションに踏み出した国以外は大変なことになってしまうだろう。
日本でも各地域で、地域の食の経済を作ることが急務であり、それを裏付ける条例作りも急がなければならない。
(1) 読売新聞:日本産のブランド品種守るため、苗や種の無断輸出の刑事罰を拡大へ…独占生産期間も延長(5月29日)
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250529-OYT1T50119/
日本農業新聞:品種海外流出防止へ管理厳格化 育成権延長、刑事罰も 政府検討(5月31日)
https://www.agrinews.co.jp/news/index/309679
(2) 農水省:農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/progress/