農水省のおかしな説明:「次代の新品種は登録できない」?

 農水省の種苗法改正に関わる説明がちょっとおかしい。もっともおかしいといっても財務省や防衛省で起きているような、ありえないことから比べるとずっとましだし、国会議員や地方議会の議員からの質問に対して、きわめて丁寧に対応はされている。そのことは高く評価できるのだけど、やっぱりおかしいことはおかしいので、指摘させていただきます(昨日予告したその2になります)。

 Twitterのフォロワーの方からこんな質問が来た。海外に種苗を流出させないためには海外各国での品種登録を進めるしかないのでは、という県議の問いに対して、農水省は「現在、都道府県等が普及を進めようとしている次代の新品種の多くは、海外での品種登録ができなくなっており、法改正しなければ海外への持ち出しを止めることができません」と答えているという。

 「次代の新品種の多くが海外で品種登録できなくなっている? だから法改正が必要です」え、なんだ、それ、ということで、この「次代の新品種」とは何を意味をするのか、農水省に尋ねたところ、その答えにびっくり。

 「次代の新品種」は言葉からすれば次の世代の新品種でそれが登録できないというのは一大事じゃないか、と思うだろう。だけど、出てきたのは新しい品種じゃなかった。

 農水省が作った「海外での品種登録ができない品種の例」の一覧を見ていただくとわかるのだけど、日本では2006年に品種登録されたシャインマスカットや2011年に品種登録されたゆめぴりかのように10年前後昔の品種が並んでいる。これから出てくるような次世代の新品種なんかじゃない(*)。
 実は日本で登録されてから4年以内(果樹などは6年以内)が海外での登録期限。それを過ぎてしまうともう登録できない。シャインマスカットもゆめぴりかも期限までに登録しなかったので、もう登録しようと思ってもできない(もっともゆめぴりかは海外流出していないと思うけど)。

 シャインマスカットは期限までどうして登録しなかったのだろう? でも、もう外国で勝手に栽培されることが止められなくなってしまった。大変だよね、だからなんとかしたい、それはわかる。

 だから種苗法を改正して、自家増殖を許諾制にするって正当化できる? 4年までに登録すればよかったんだよね。それをやらなかったのは誰の責任なんだろう? それを理由に農家の自家増殖する権利を奪うってどういうこと? しかも、これからシャインマスカット止めたって、出てしまっているものを止める権限がないから、実質意味がない。本当に何のためにやるの?

 本当に今後の流出だけでもなんとかしなければならない、ということであれば、契約制にすればいい。シャインマスカット栽培したい場合は農研機構と契約を結ぶことにすれば、契約で使用できる範囲は指定できて、それ以外は契約違反となるから止めるには有効だろう。現在の種苗法でもそれは可能。契約結ぶなんてそんな手間かけられない、というかもしれないけど、それは登録しなかったのだから仕方ないじゃない。とりあえず、外国で勝手に栽培されたものを止める法的手立ては存在しないけれども、今後、勝手に持ち出されることはこれで制約かけられる。

 百歩譲って、この問題、とにかくなんとかしたい、というのであれば自家増殖禁止などとは一切切り離して、種苗の使用目的を指定できるということに絞った種苗法改正を提案するのであればまだ理解しうる。でもそうじゃない。あくまで海外流出止めるために自家増殖を規制する、という。その理由は育成者が登録しなかったから、と言われて規制される側は納得できるだろうか? 農家の側の過失ではないのに、責任だけ問われることになる。

 内容聞けば、かなり情けない理由なのだけど、それを、あたかも「次代の新品種が登録できない」などと、それだけを聞いた人は事情も知らずに、「それならぜひ」と思ってしまうかもしれない。これは明らかにミスリード、人を欺く言い訳じゃないだろうか? こんなことを繰り返すのであれば、もう農水省の言うことは信じられない、という気分になってしまうのではないだろうか?

 今回の種苗法改定の焦点、繰り返すけど、農家が自家増殖するかしないかの問題ではないと考える。公的種苗事業がさらに民営化されるその第一歩が始まろうとしている。だからいわゆる自家増殖問題に固執するよりも、どうこの地域の種苗を守ることができるか、という問いを中心にすべきだと考える。地域の種苗を守るには地域の育種家、自家採種・増殖する農家、地域の種苗会社、地方自治体や国の研究が相互に関わりあうことが重要で、それぞれの作物によって異なる役割を果たしていくことになるし、その場合、国や地方自治体がどう全体を支援していけるのかが鍵になる。だけど、農業競争力強化支援法はその支援を「公正な競争」の名の下に排除し、地域の種苗が今後、時間をかけてメジャー企業に奪われようとしている。
 地域の人材がいなくなれば、もう地域に合った種苗は作れなくなってしまうかもしれない。地域の種苗はグローバルな品種に置き換えられてしまう。遺伝子組み換えや「ゲノム編集」が入ってくるかもしれない。それをどう防ぐか。育種家の存在も大事だし、地方自治体のバックアップも重要。しっかりとしたローカルフードの循環を定着させること。地域の種苗から学校給食、病院、レストランなど、地域の循環を作るために地域のさまざまな人たちが関わる。それは同時に気候変動にも災害にも強い地域作りにつながるだろう。一番必要なのはローカルフードの育成支援体制。

(*)
コメントいただき、農水省のリストに入っている「あまおう」はすでに中国や韓国で登録されているそうです。なぜ、登録できないリストにこれが入っているのか、農水省に聞いてみないといけないですね。

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