種苗法改正問題の背景にある農業競争力強化支援法

 前に書いた種苗法改正と公的種苗事業の民営化のことだけれども、そんなことは種苗法改正案のどこにも書かれていないじゃないか、というかもしれない。これが書かれているのは種苗法改正案ではなくて、農業競争力強化支援法の方だ。

 これまで農業競争力強化支援法については8条4項の問題を取り上げてきた。8条4項は、国や地方自治体が持つ種苗の知見を民間企業に提供する、というもので、これがあれば地方自治体が税金で培ってきた種苗やノウハウ、人的資源が民間企業に払い下げになるとして、問題視されており、野党は削除を求めている。
 さらにこの法律が成立した2017年、農水省事務次官名で11月15日に通知が都道府県に向けて出されている。都道府県は民間企業の準備が整うまでは種苗事業をやりなさい、そして整うように支援しなさい、という内容だが、この内容については自民党も怒っており、農林部会で撤回を求めているという。
 それならば8条4項の削除も必要じゃないか、と聞くと、それは現場ががんばって民間企業にはやらないようにするから法律は変えなくていいという。要するに官僚には物言うが、法律変えるとなると、官邸それ以上に異議を挟むことになって、それはしないということだろうか?

 しかし、問題なのはこの8条4項だけじゃなくて、7条も問題だ、と指摘された方がいる(ご自身で書かれたらリンクさせていただくことにして、今はその方の名前は伏せておく)。

 7条とはこんな内容だ。
「国は、良質かつ低廉な農業資材の供給又は農産物流通等の合理化を実現するための施策を講ずるに当たっては、農業生産関連事業者の自主的な努力を支援することにより、民間事業者の活力の発揮を促進し、適正な競争の下で農業生産関連事業の健全な発展を図ることに留意するものとする」

 ここで種子法がなぜ廃止されたのか、思い出してほしい。種子法があると地方自治体と民間企業は同じ条件で競争できないから廃止されることになった。つまり、地方自治体が税金使って安くて優秀な種子を次から次へと出しているのでは民間企業は全然参入できない。だからそれをやめさせることが種子法廃止の唯一の理由であった。

 この考えが種苗法にも適用される。つまり、民間企業と適正な競争ができるようにするためには、民間企業の種苗を買うのと同じように公的種苗事業の種苗も買わせなければならない。公的種苗事業は農家が買って支えさせろ、今後は民間企業と同じ条件で「適正な競争の下で」事業をやらせなければならないということになる。予算は削られていくだろう。そしてそこに民間企業が入り込めるようにする。
 
 民間企業が入ることはいいじゃないかと思うかもしれない。でもすでに野菜と花では入り込んでいる。主食のコメなどでもすでに業務米などの分野で入り込んでいる。公的種苗事業が維持できなくなって、民間ばかりになったら何が起きるか、その例は米国の大豆やトウモロコシ、インドのコットンを見れば明らかだろう。インドでは多くのコットン農家が自殺せざるをえなくなってしまった。米国の大豆も値段は高騰し、わずか4社が95%を独占する状況になってしまっている。公的な事業が一角を占めなくなればこのようなことが起きるのが種苗事業の怖さだ。
 
 公共種苗事業の民営化に向けた素地は種子法廃止と農業競争力強化支援法ですでに固まった。これに種苗法であらゆる品種を許諾制にすることにする変更はその延長線にあるといわざるをえない。

 とするならば農業競争力強化支援法は現在の野党6党の共同提案である種子法廃止法案の中で述べられている8条4項の削除要求だけでは十分ではないことになる。7条もいっしょに削除するか、あるいは根本的に変える必要があるのではないだろうか?

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