昨日公開した『日本の種苗政策と UPOV−種子法廃止・種苗法改正、「ゲノム編集」から重イオンビーム放射線育種まで』では現在の日本政府の種苗政策がこの20数年一貫して日本の種苗セクターを衰えさせたさまを描いた。
いくつもその状況を語る数字はあるのだけど、今日紹介するのはその一つ。日本種苗協会に登録されているメンバー数の推移¹。
種子法廃止も種苗法改正も民間企業のためであったのなら、少しはこの数も回復してもいいようなものだけれども、減り続けている。
なんでこんなことが起こるのか? 一つのヒントは2020年の種苗法改正はUPOV体制の完成だということ。そしてUPOVとはタネのグローバリゼーションの体制だということ。
タネを海外で安く作った方が企業は儲かる。ただし、その企業が海外に出ていくほどの企業であればの話。むしろ反対に日本で種採りをするような地域の種苗会社の場合は、海外から安く入るタネと競わなければならなくなって、潰れてしまう。その結果、種採り農家も、育種に関わる人の数もどんどん減ってしまうことになる。
だからこの「民間企業のため」という旗を振っても、その中には地域の小さな種苗会社は入っていない。地域に合った種苗を提供していた種苗会社が消えてしまえば農家も困る。日本は稲を除けば、ほとんどタネが採れない国になってしまった。今の日本は多重危機の進行する現在、あまりに危険な状態にある。
こうした政策は種子法廃止や種苗法改正で始まったのではなく、むしろそこで完成した。1998年のUPOV批准を皮切りに2020年の種苗法改正で完成したのだ。
だから種苗法改正の反対の本当の基軸はUPOV体制への反対でなければならなかった。それを言い続けたのは少数派に留まった。自家採種問題や地方自治体の公的種苗事業ばかりが話題にされた。もちろん、自家採種問題や公的種苗事業の民営化はそれはそれで大きな問題だが、種苗会社がどんどん潰れている状況をどう変えるのかというのもまた大きな問題の柱にすべきだったが、そこまで至らなかった。そのため、結果的に肝心の種苗セクターと種苗法改正反対運動は敵対的な関係になってしまったことは否定できない。
これを反省して、どう食の基盤となる地域のタネを作れるような体制に戻していくか、ということが今後、鍵になるはずだ。
農水省は野菜種子安定供給対策事業に今年度1億2900万円の予算を組んでいる²。「あぁ、やっぱり農水省、しっかり考えているんじゃない」と思うかもしれないが、国内での種苗生産を補強するためにはあまりに予算が少ない。審議会や国会答弁を考えると、この予算は多くが海外の新たな採種地の調査に使われる可能性が高い。名称が「安定生産対策」ではなく「安定供給対策」であることをみれば、国内で作るよりも海外の産地を開拓して、安定的に輸入すればいいという話になることがわかるだろう。これではタネがほとんど採れない現在の危機的な状況は変えられない。
昨日、参議院農林水産委員会で可決されてしまった食料・農業・農村基本法改正法案もさらにグローバリゼーションを進めることが中軸になっており、結局、政府には日本国内でタネを作れる気などまるでないことがわかる。
どのように地域のタネを取り戻すか、それは食のシステムの基本でもあり、これまでの農・食のあり方を変える根本になければならない。さまざまな種苗セクター、政府のバイオテクノロジー推進政策、公的種苗事業のあり方など、問題は多くに及ぶけれども、それらをまとめて考えないと、やるべきことは見えてこない。でも、それらの問題を付き合わせれば、やるべきことははっきりするはず。
『日本の種苗政策と UPOV−種子法廃止・種苗法改正、「ゲノム編集」から重イオンビーム放射線育種まで』を生かしてもらえれば幸いです。ありがたいことに1日で70名近い方からご支援をいただきました。寄付0円でもOKです。
https://project.inyaku.net/specialsupport
(1) ⼀般社団法⼈⽇本種苗協会 https://www.jasta.or.jp/about/ で公表されている正会員数をWayback Machineを使って過去まで遡った。ところどころ年によってデータが欠けているのを補正できていないので、線のカーブの変化は実態を反映できていない。あくまで全体の動向を把握する程度に。
(2) 野菜種子安定供給対策事業概算要求 https://www.maff.go.jp/j/budget/pdf/r6yokyu_pr20.pdf