モンサントのジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆に関するパブリックコメント

内閣府食品安全委員会は3月6日までモンサントの開発したジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆に関する食品健康影響評価についてのパブリックコメントを行っている(追記:内閣府食品安全委員会宛のパブリックコメントは終了。農林水産省が同じ大豆に関して応用飼料の安全性確認申請のパブリックコメントを3月4日に開始している。末尾参照。こちらの締切は4月2日)。

ジカンバという名前は聞き慣れず、この農薬に関して十分な情報も提供されていない。こうした中で承認作業が進んでいくということには大きな危惧を抱かざるをえない。

ジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆の問題点について調べてみた。

ジカンバ(Dicamba)とはBASFが製造する農薬(有機塩素化合物と安息香酸の化学的合成物)で、Banvel、Oracle、Vanquishというブランドで売られている。ジカンバについては内閣府食品安全委員会農薬専門調査会はこう結論付ける。

各種毒性試験結果から、ジカンバ投与による影響は主に急性神経毒性(筋緊張、 歩行異常等)及び亜急性毒性(体重増加抑制)として認められ、また、肝臓(肝細胞肥大)及び血液(貧血)に認められた 。慢性毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び生体において問題となる遺伝毒性は認められなかった。
農薬評価書 ジカンバ2012年6月1日 内閣府食品安全委員会農薬専門調査会

これだけを見ると特に極めて危険な農薬とは考えられないように思える。また、ジカンバは枯れ葉剤の主成分と同じ2,4-Dと同様、現在も農薬として市販されている。ただし、2,4-Dと同様、規制の弱い米国で市販されていることが安全を保障するものではない。しかし、調べてみるとやはり、このジカンバはとんでもなく有害なものと考えざるをえないものだった。

ベトナム戦争の枯れ葉剤作戦で使われたジカンバ

ジカンバはベトナム戦争の枯れ葉剤作戦(Operation Ranch Hand)でも2,4,5-Tや2,4-Dなどとともに使われていた(The History of Agent Orange use in Vietnam PDF)。英国のNGO、ISISによると、ジカンバはDNAを損傷し、突然変異のテストにおいても遺伝毒性があり、2,4-Dとも似た構造を持ち、土壌に留まらず地下水を汚染することで広範囲に影響を与える危険があるという(ISIS:Ready for Dicamba Ready GM crops?)。

現在もジカンバは農薬として使われている。しかし、無制限に使えば、すべて枯らしてしまうので、刈らせたくない作物や花には影響を与えないように限定的にしか使うことができない。ところがこのジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆が登場すれば事態は一変する。このジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆はジカンバをかけても枯れない。広大な大豆農場一面にこのジカンバが撒かれることになる。逆に言えば、その広大な農場は大豆しか生きることができない、ほとんどの植物が死ぬ空間になるということである。そして広範囲の川や地下水が汚染されるだろう。

枯れ葉剤の主成分2,4-5Tは現在禁止されている。しかし、2,4-Dとジカンバは生き延びた。そこに大きな情報操作があったことをISISは示唆している。ISISは安全とされているジカンバの毒性評価の見直しを求めている。

単なる通り道に過ぎないMON87708系統の承認プロセス

今回、申請対象となるMON87708は本命の大豆ではないと思われる。つまり米国や南米で大々的に量産しようとしている大豆ではない。本命はグリフォサート(モンサントの開発した農薬ラウンドアップの主成分)耐性も含む除草剤ジカンバ及びグリホサート耐性ダイズ(MON87708×MON89788)が本命だろう。

現在の日本の承認プロセスでは親系統が承認されていればその形質を受け継ぐ系統の遺伝子組み換えはほぼ自動的に承認されてしまう。今回のパブリックコメントの対象となっているのはジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆だが、ここで今回のジカンバ耐性大豆が承認されてしまえば、さらにラウンドアップ耐性の大豆とかけあわせたものも承認されるということになってしまう。このパブリックコメントの後にそれは出てくることだろう。

このジカンバ耐性大豆と2,4-D耐性大豆が承認されてしまえば米国での農薬使用は70%増加してしまうという指摘があり、米国では反対の声が大きくなっており、今なお承認が降りていない。Stop Monsanto’s Dicamba Tolerant Soybeans!

遺伝子組み換え技術の破綻をもみ消すか、過去の失敗から学ぶか?

遺伝子組み換え技術は農薬を減らすと宣伝されて登場した。しかし、その現実は年々農薬使用が増加し、農薬を増やしても枯らすことのできない雑草が今や米国の農場の半数を超える範囲で登場している。すでにラウンドアップ耐性遺伝子組み換えは死んだ、という声が聞こえる。今や、北米や南米では激増した農薬によるさまざまな健康被害、環境被害が報告されている。

その失敗に学び、方向を変えるか、それともさらに自然に対する軍拡競争=さらに危険な農薬をつぎ込む方向を強めるのか、今、問われている。昨年以来、米国で急激に広まってきた遺伝子組み換えに反対する運動は現在の農業の危険な方向を変える必要に多くの米国市民がめざめたことの結果としてある。

しかし、モンサントなどの遺伝子組み換え企業とそれを支える政府機関はそうした声を無視して、現在の遺伝子組み換え技術の上に別の遺伝子組み換えを交配させることで対応しようとしている。しかし、時間の問題で、やがてジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆の遺伝子は周りの雑草に転移して、雑草もまたその危険な農薬(毒)への耐性性質を獲得していってしまう。これを許していけば、やがてすぐ極めて近い将来に別の危険な農薬が準備され、それへの耐性を持った遺伝子組み換えが用意されていくのだろう。

その過程で、耐性を獲得した一部のスーパー雑草を除き、農薬=毒に耐えられない蜂、鳥、昆虫、土壌の細菌などは死んでいき、人間も健康を奪われていくことにならざるをえない。

原発事故はエネルギー政策の根本的な変更を人びとに求める。そして、こうした遺伝子組み換えの破綻は人びとに根本的な農業のあり方の変更を求める。それなくして、将来世代に健全な地球環境は残せない。その見直しの不可欠な時に人びとを欺くこのモンサントのジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆を決して承認するべきではない。

パブリックコメントを送ろう

2013年3月6日が締切であり、時間があまりないが、パブリックコメントは下記のサイトから簡単に送ることができる。ぜひ、あなたのコメントを送ろう。すでに内閣府食品安全委員会宛のパブリックコメントは締め切られたが、同じ大豆の飼料用の農水省宛のパブリックコメントは4月2日まで。ぜひ農水省宛にコメントを送ろう。

農林水産省パブリックコメント
組換えDNA技術応用飼料の安全性確認申請案件についての意見・情報の募集について 2013年4月2日まで 送信フォームはリンク先ページ末尾に
内閣府食品安全委員会パブリックコメント送信フォーム:
内閣府の送信フォーム 3月6日17時に締め切られた。
内閣府食品安全委員会パブリックコメント資料:
除草剤ジカンバ耐性ダイズMON87708 系統に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての御意見・情報の募集について

“モンサントのジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆に関するパブリックコメント” への8件の返信

  1. 何で枯れ葉剤が入っているものを食品を作るときに使用しないといけないのか。。。
    まずやめて欲しい!!

  2. 今までアレルギー性疾患をもつ子どもを育てるなかで、少なからずより良い食品を求め努力してきたつもりです。人間の命を守り育てようとする人としての当然の願いと逆方向の、戦場で生み出してしまった枯葉剤にも強い大豆が入っている食品を世界に拡げようとする動きに対して、断固反対します。

  3. 私の送った意見です。

    今回の承認は、何としてもやめていただきたい。
    アメリカでも、承認されていないものを日本が承認すれば、それは人体実験になりかねません。
    遺伝子組み換え技術は、99%の科学者や学者が、企業から資金を援助されて「安全」と言っていますが、安全は少しも証明されていません。
    少なくとも、予防原則の立場を取り、承認を拒否してください。

  4. 食事なのか餌なのかわからないような物を作る事は辞めて欲しいです。
    人のより良い健康と生活を守るために、企業が成り立つのではないでしょうか?
    人の健康を犠牲にしてまで存続する企業とはなんでしょうか?

  5. 農業者です。今回の承認に断固反対します。大地と身体を穢す恐れの高いものをこれ以上国内へいれる必要もなく、アメリカ主導の大規模農業と、大量の化学物質まみれの食品産業の在り方、そしせそれ等に依存した食習慣から一日も早く抜け出すべきです。

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