遺伝子組み換え作物の相次ぐパブリックコメントに対して

日本政府の遺伝子組み換え作物の承認儀式が止まらない。次から次へと毎月のように海外では問題を指摘されている遺伝子組み換えも「安全」として承認されていく。マスコミはいっさいこの問題を報道することがない。遺伝子組み換えに関しては311前の原発と同じ「安全神話」がまだ続いていると言わざるをえない。

現在も3月6日と3月16日締め切りとする遺伝子組み換え作物に関するパブリックコメントが出ている(追記:3月6日締め切りの内閣府食品安全委員会宛のパブリックコメントは終了。農林水産省が同じ大豆に関して応用飼料の安全性確認申請のパブリックコメントを3月4日に開始している。末尾参照。こちらの締切は4月2日)。

ここではその問題に関する情報を整理してみる。コメントを送る際の参考となればと思う。

現在、パブリックコメントの対象となっている遺伝子組み換え作物として次のものがある。

  1. ダウ・ケミカル:チョウ目及びコウチュウ目害虫抵抗性並びに除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ2品目
  2. モンサント:除草剤ジカンバ耐性ダイズ
  3. モンサント:チョウ目害虫抵抗性及び除草剤グリホサート耐性ダイス
  4. デュポン:チョウ目害虫抵抗性及び除草剤グルホシネート耐性トウモロコシ3品目
  5. 青紫色及び除草剤クロロスルフロン耐性カーネーション2品目

ここでは上記の1から3を中心に問題点を見ていきたい。

1. ダウ・ケミカル:枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシ

パブリックコメントでは「枯れ葉剤耐性」とは書かれていないが、「除草剤アリルオキシアルカノエート系」というのが2,4-D、枯れ葉剤の主要成分で作られた除草剤のことだ。海外ではこの除草剤に耐性のあるトウモロコシをAgent Orange Tolerant Cornなどと書く。Agent Orangeとはベトナム戦争で使われた枯れ葉剤のことである。

ダウ・ケミカルによる枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシはすでに昨年12月5日に承認されてしまっており、今回の2品目はこの枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えに加えて、Bt(害虫への毒素タンパクを生成する)、モンサントの開発したラウンドアップなどの除草剤の主成分であるグリフォサート、そして別の除草剤グリホシネートに耐えるように遺伝子組み換えされたものである。

枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えの問題

ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤はダイオキシンを含み、子孫の代で枯れ葉剤のまったくない環境にいても3世代にわたってその症状が続くというきわめて強い毒性を持つものである。その成分2,4,5-Tと2,4-Dのうち、前者がその毒性との関連を指摘されることが多いが、後者の2,4-Dも強い毒性を持ち、ガン、精子の減少、肝臓病、糖尿病、パーキンソン病、内分泌障害、妊娠障害、神経毒性、免疫抑止などの問題を引き起こすという。

農薬の規制の緩い米国では2,4-Dは農薬としてすでに使われているが、この枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシや大豆が広く耕作されるようになればその消費量は桁違いに増加する。それに対して、米国内で強い反対運動が起きるにいたっている。

米国農務省(USDA)は昨年にこの枯れ葉剤耐性トウモロコシを承認しようとしていたが、昨年4月に行われたパブリックコメントには36万5000を超す反対意見が寄せられ、154の農民、漁民、医療関係者、消費者、環境保護の団体連名による要請書も出され、結局、未だに承認されていない。

その問題あるものをどうして日本は先に承認するのか? 米国の医師や農民の懸念にも日本は答える義務があるだろう。もし日本が承認すればそれは米国の農民が生産する上で一つの圧力になる。生産地でまず最初の被害を受けるのは彼らなのだから。もちろん、日本で生産しなくても肉や加工食品を通じて日本列島住民も影響を受けるわけだが。

その中での承認はまったく妥当性がないといわざるをえない。

Btと3種の農薬のカクテル

Bt遺伝子組み換えトウモロコシは虫が食べるとその虫が即死する毒素を生成するように遺伝子組み換えされたもの。ほ乳類が食べても影響は出ないと遺伝子組み換え企業は説明しているが、ガンなど多くの健康障害をもたらすとする研究は少なくない。

枯れ葉剤以外に今回のトウモロコシにはグリフォサートとグリフォシネートの耐性も組み入れられている。3種の農薬を使うことが前提になっている。グリフォシネートという農薬もまた毒性は十分強い。日本でも自殺目的に飲むケースが報告されている。

遺伝子組み換え企業は遺伝子組み換え技術を使えば農薬が減らせると宣伝して、その承認を求めた。しかし、それとはまったく反対の現実にわれわれは直面している。減らせるはずの農薬の量が飛躍的に増加し、それでも抑えられない雑草が出てくる。異なる農薬を混ぜていく、まったくの悪循環に入っている。

そもそもそうした技術が間違いであったことを振りかえる時期に来ているはずだ。このまま自然に対する軍拡競争、さらなる毒の投与を続ければ生態系は破壊され、やがて人間も死滅することになってしまう。

この遺伝子組み換えトウモロコシの生産が意図されている米国で多くの反対を受け、承認されていないものを十分な検討なく承認するということはまったく容認できない。

2. モンサント:ジカンバ耐性大豆

これまでモンサントの遺伝子組み換えは除草剤ラウンドアップ耐性種と害虫への毒素蛋白を生成するBtという2つが中心だった。しかしラウンドアップが効かない雑草が米国の半分を超えた農園で発見されているという調査報告がある。

まったく同じ遺伝子組み換えトウモロコシや大豆を植え続けることで、周囲の雑草も早く耐性を獲得してしまい、その雑草に対しては農薬の量を増やしても対応できない。

もう1つの事情がモンサントにはある。農薬ラウンドアップの特許は2000年8月にすでに切れている。またラウンドアップ耐性大豆(RR1)の特許も欧州特許庁は2007年5月に取り消し、ブラジルでもRR1のロイヤルティの徴収は違法であるという判決が出るに至っている。

そのような中でこのジカンバ耐性はそのピンチヒッターの1つとして登場してきた。モンサントの資料によればジカンバは農薬としては被害が少ないという。それは本当だろうか?

各種毒性試験結果から、ジカンバ投与による影響は主に急性神経毒性(筋緊張、 歩行異常等)及び亜急性毒性(体重増加抑制)として認められ、また、肝臓(肝細胞肥大)及び血液(貧血)に認められた 。慢性毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び生体において問題となる遺伝毒性は認められなかった。
農薬評価書 ジカンバ2012年6月1日 内閣府食品安全委員会農薬専門調査会

ジカンバは農薬として極めて毒性が高いというわけではないようだ(追記2013-03-04:この評価は情報操作の結果広まったと考えられる。別記事でジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆の問題点をまとめた)が、魚や蜂などにも低い毒性が認められ、肺ガンや大腸ガンへの影響も観察されている(Cancer incidence among pesticide applicators exposed to dicamba in the agricultural health study米国国立医学図書館のサイト)。さらに気になるのは以下の点である。

ジカンバは土壌に留まらずに、流れてしまう。そのため地下水を汚しやすい(Dicamba – toxipedia)。毒性が低くても土壌に留まらないためにすぐに効果を失い、そのために使用量が増えてしまえば、毒性は当然懸念すべきものと考える。

ラウンドアップ耐性大豆の場合は農薬ラウンドアップの有害性のみならず、遺伝子を組み換えれた大豆そのものの有害性を指摘する研究者がいる。このジカンバ耐性大豆が果たしてそのような毒性を持たないか、十分な検証はされているだろうか?

モンサントは遺伝子組み換え作物も従来の作物も実質的に同じ(実質的同等性)という実証されていない虚構を元に検証は不要であるとしている。実際に90日を超えた実験をした場合にどのような有害性が実証されるかわからない。しかし、この承認に際してはモンサント自身の提供によるデータで安全承認されており、到底、その安全性が確認できているものとは考えられない。最低でも独立した研究機関により長期にわたる検査をすべきである。わずか90日の動物実験ですぐに食べても影響はない、程度の「安全」で多くの人が健康被害に苦しむことがあってはならない。

もう1つの問題はこのジカンバ耐性大豆が米国でまだ承認すらされていないということである。米国では枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えに対して猛烈な批判が生まれており、枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えに対する承認が止まっている。そのあおりを受けて、その後に承認を待つジカンバ耐性大豆も承認がされていない。

米国での農薬戦争(農薬に対して雑草が次々に耐性を獲得してしまうため、農薬使用量がどんどん増え、また複数の異なる種類の農薬をカクテルにして使う)の結果として生み出されたジカンバ耐性や枯れ葉剤耐性、いまだ米国で承認されていないにも関わらず、なぜ日本で先行して承認するのか?

ラウンドアップの有効性が切れた、そして同時にラウンドアップ耐性大豆の特許も切れるという事態の中で、ドタバタで出されてきたのがジカンバ耐性大豆であると思える。もっと慎重に審査すべきである。

3. モンサント:第2世代ラウンドアップレディー大豆(RR2)

第一世代のラウンドアップレディー大豆が特許が切れる(欧州特許庁は2007年5月に取り消し、ブラジルでは2010年末に失効とブラジル連邦裁判所が判断)という状況の中で、新たにモンサントが出してきたのがIntacta Roundup Ready 2と呼ばれる遺伝子組み換え大豆だが、その内実は除草剤ラウンドアップ耐性に加え、殺虫機能(Bt)を掛け合わせただけのもので新しいものは何もない。

しかし、それぞれに有害性を持つと疑われるものを掛け合わせると何倍の有害性になるのだろうか?

この遺伝子組み換えもまた各地で騒動を起こしているものだ。

南米でのRR2をめぐる騒動

第1世代のラウンドアップレディー(Roundup Ready[ラウンドアップ耐性]、RR1)大豆の登場もまた騒動に満ちていた。1996年、RR1はアルゼンチンに潜り込む。潜り込むという表現以外思いつかないくらい、議論も何もなく、あっさり承認されてしまっている。1996年は米国でモンサントが遺伝子組み換え大豆の商業栽培開始に成功した年で、まだ世界の多くの人は遺伝子組み換えとは何であり、どんな害をもたらすか知らない時代だった。

しかし、アルゼンチンに入り込んだトロイの木馬、RR1は隣国のブラジルやパラグアイにもこっそり密輸品として持ち込まれる。同時にモンサントはブラジル国会にロビーをかけて承認を勝ち取るが消費者団体の訴訟により、取り消され、ブラジルでは遺伝子組み換えは禁止される。それにも関わらず、アルゼンチンからの密輸は続き、ブラジル南部の大豆の多くが遺伝子組み換えとなってしまった。

2002年の大統領選挙ではこの遺伝子組み換えが大きな争点となり、労働者党の候補ルラは遺伝子組み換え禁止を公約にする。しかし2003年、大統領として南部の大地主たちの遺伝子組み換えを合法化せよという圧力に直面する。妥協として暫定的に1年だけ許可したものの、歯止めがかからず、ついに2005年には合法化せざるをえなくなってしまう。その後、わずかの間に遺伝子組み換えが9割を独占するに至る。

密輸品として入ったものに使用料(ロイヤルティ)を求めるというのはおかしな気がするが、モンサントはロイヤルティを課し、莫大な利益を上げる。しかし、ブラジルの大豆農家はこのロイヤルティを不服として裁判に訴え、勝訴する。裁判所はモンサントのロイヤルティ徴収を2003年に遡って違法とする判決を出している(Justiça condena Monsanto por cobrança indevida de royalties)。この件は現在、最高裁の判断待ちとなっている。

モンサントは違法判決が出た後もロイヤルティの徴収を続けており、ブラジルの大豆農家組合は真っ向から闘う姿勢を見せている。今年、モンサントが妥協策を提示した。第2世代遺伝子組み換え大豆(RR2)の契約をした農家からはRR1のロイヤルティを免除するというものだ。しかし、大豆農家組合は納得していない。

もう1つ、この大豆騒動を大きくしているのが、第2世代大豆(RR2)を中国が承認していないという事態だ。巨大市場である中国が承認していない大豆では生産者は困る、とブラジル最大のマトグロッソ州の大豆農家組合はRR2の契約をしないようにブラジル中の大豆農家によびかけている。

実はこのモンサントの大豆(RR1)、アルゼンチンでは特許が認められていない。アルゼンチンの農地の6割を占めるという遺伝子組み換え大豆、住民のガンや白血病の大量発生にも関わらず、外貨獲得の最大の武器となり、アルゼンチン政府はモンサントとのより深い提携を求め、世界最大のモンサントの種子工場をアルゼンチンに作ることを実行しようとしている。さらに包括的な遺伝子組み換えの特許に関する法律を作ろうとしているが、モンサントに対する反発は強まっており、このRR2のための特許法はモンサント法と呼ばれて批判の対象となっている。

最大の問題はまともな民主的な手続きを経ずに南米を「大豆連合共和国」にしてしまったことであり、その生産によって、農民や先住民族の土地からの追い出し、森林破壊、農薬被害などさまざまな重大な問題が報告されている(大豆連合共和国とは遺伝子組み換え企業シンジェンタがパンフレットで使った言葉。かつてのバナナ共和国を思い起こさせる言葉だ)。

第1世代ラウンドアップに続いて第2世代に、という前に一度、全社会的な見直しが必要とされているのが南米の状況と言えるだろう。

果たして、生産国で大きな問題が起きている中で第2世代ラウンドアップ耐性大豆を日本が承認するというのはまったく生産者無視といわざるをえない。

さらに気になるのは中国がなぜ、RR2を承認していないか、という理由である。中国の状況に関しては十分情報が得られていない(中国語関係は追う能力がない)ので推測でしかないが、中国で遺伝子組み換えの危険性を政府中枢部が認識する事件があったという情報がある。中国がその危険性ゆえ、RR2を承認していないとしたら、どのような情報を元にそう判断しているか知りたいところだ。

遺伝子組み換えの承認プロセス自体が問題

1月に欧州食品安全機関(EFSA)が遺伝子組み換えの承認を2014年末まで凍結するという決定を行った(AFP:EUがGM作物の承認を凍結、2014年末まで)。

これまでの遺伝子組み換えの承認プロセスは遺伝子組み換え企業自身の申告に基づく安全データを各国の承認委員会が検討するというものだが、そのデータは売り込む企業の自己申告にすぎず、独立した研究機関の手では行われていない。わずか90日の間に問題が出なければ安全宣言ができてしまうという不十分なものだ。

その「安全」に対して世界から疑義が上げられている。90日を超えてから急激に腫瘍ができはじめるという実験データもある。こうした中で、これまでに承認されてきた審査が果たして妥当であったか、問い直しをしなければならない時期に来ている。

つまり、現在の承認のあり方をすべて見直さなければ、健康は守れないと多くの人たちが感じ始めている。

しかし、そのような中で、日本政府は黙々と遺伝子組み換えの承認を行う。米国や南米に食料依存の強い日本は世界最大の遺伝子組み換え消費国の1つと考えられるにも関わらずマスコミの報道もほとんどない。

子どもたちに発生しているアレルギー、あるいは不妊症が遺伝子組み換え由来である可能性は十分高いと思う。しかし、日本列島住民の健康と安全を図るという姿勢は日本政府関連機関にまったく見られない。

遺伝子組み換え商業栽培が始まってから今年で17年目。あちこちでボロが出てきて、世界各地で騒動になっているにも関わらず、それを知らせずに承認を続けるというのはもうやめるべきである。

パブリックコメントを出そう、問題を知らせよう

世界が遺伝子組み換えの問題に気がつき始めている。米国内でも多くの州で遺伝子組み換え食品表示義務法を制定する運動が起こっている。中南米では熾烈な遺伝子組み換えに対する反対運動が起こっている。アフリカでは食料援助と引換に遺伝子組み換え合法化を迫る米国に多くの国が抵抗してきている。インドでもフィリピンでも遺伝子組み換えに対して人びとが反対している。

残念ながら、米大陸に食料の多くを依存する日本はこの問題についてマスコミがほとんど報じないという状況が続いている。加工食品や家畜への飼料を通じて、日本はすでに世界最大レベルの遺伝子組み換え消費国となっているにも関わらず。

まず今できること、自分の言葉でパブリックコメントを出してみよう。下記のサイトを参照の上、コメントが出せる。

ジカンバ耐性大豆

農林水産省パブリックコメント
組換えDNA技術応用飼料の安全性確認申請案件についての意見・情報の募集について 2013年4月2日まで 送信フォームはリンク先ページ末尾に
内閣府食品安全委員会パブリックコメント資料:
除草剤ジカンバ耐性ダイズMON87708 系統に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての御意見・情報の募集について(3月6日17時まで[追記]終了)
内閣府食品安全委員会パブリックコメント送信フォーム:
内閣府食品安全委員会事務局([追記]終了)

私が送った内閣府食品安全委員会に送ったコメント
農林水産省に送ったコメント

それ以外の遺伝子組み換え

同じ種目に関して農水省と環境省がパブリックコメントを行っている(これは通例)。

農林水産省消費・安全局農産安全管理課…送信フォームはこのリンク先ページ末尾の意見提出フォームのボタンをクリック

環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室…送信フォームはこのリンク先ページ末尾の意見提出フォームのボタンをクリック

私の農水省や環境省に送付予定コメント

最後にこの問題に関しては議員、マスコミの役割は大きなものがある。この問題についてぜひとりあげていただきたい。必要であれば連絡は連絡フォームあるいはTwitterFacebook通じてお願いします。

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