アルゼンチンでの「モンサント法案」

 モンサントの種子を勝手に保存したら、モンサント警察に捕まってしまう。裁判に訴えられ破産させられる。いや、アルゼンチンではそうはなっていない。農家はばんばん、モンサントの遺伝子組み換え大豆を保存して、翌年しっかり使っている。ロイヤリティも支払わずに。というのもアルゼンチンではモンサントの遺伝子組み換え大豆の特許はいまだ認められていないのだ。だから、モンサントはロイヤリティを種子を売る時は回収できるが、いったん売ったら、農民たちはそれを保存してしまう。遺伝子組み換え大豆の世界第3位の国なのにその収穫に見合ったロイヤリティをモンサントは回収できない。逮捕しようにも逮捕する法律がない。モンサントは裁判に訴えるも、アルゼンチンの裁判所はモンサントの訴えを退けた。困ったモンサントはその大豆を買う業者に代理徴収をやらせようとした。だけど、そんなの誰もやりたくない。紛争は大きくなるばかり。
 要するにアルゼンチンでは遺伝子組み換え大豆はモンサントの所有物である、ということが成立していない。通常、モンサントの遺伝子組み換え大豆を買うと、モンサントから除草剤ラウンドアップもいっしょに買わなければならない契約になるけど、たぶん、多くの農家は安い中国製のグリホサートを使っているに違いない。モンサントとしては世界第3番目のお得意さんのはずなのに、アルゼンチンでは苦戦しまくっている。
 モンサントはアルゼンチン政府に泣きつき、種子法を変えさせようとしているが、これも容易ではない。他の国ではモンサントは大規模農家の組合を抱き込み、こうしたことに反対するのは小規模農家、環境運動や消費者運動の市民団体という構図になるけど、アルゼンチンでは大規模農家もモンサントにお金払いたくないからそうした種子法の改正に応じない。
 これから遺伝子組み換え農業の導入を計ろうとする国には周到にUPOV1991年条約を批准させ、違反する農家を牢獄に送る法律を整備するのに、米国が遺伝子組み換え農業の商業栽培を始めた同じ年、1996年にアルゼンチンに潜り込んだモンサントはそんな整備もせずに、さっさとアルゼンチンでも遺伝子組み換え耕作を初めてしまった。ロイヤリティもはっきりしなかったから逆に南米を巨大な遺伝子組み換え耕作大陸にすることができたのかもしれない。遺伝子組み換え耕作を禁止したブラジルやパラグアイにも遺伝子組み換え大豆は密輸され、既成事実化されて、南米は米国に匹敵する巨大な遺伝子組み換え耕作大陸となった。

 そんなアルゼンチンで今、「モンサント法案」が浮上している。最高裁はモンサントに有利な判決を下すかもしれない。「モンサント法案」はその国に遺伝子組み換え農業を始めさせるための法律だが、始めてしまっているアルゼンチンが持っていない。アルゼンチンが批准しているのはUPOV1978年条約で1991年条約の批准もしていない。
 この状況に業を煮やしたモンサントはトランプ政権を通じて、アルゼンチン政府に圧力をかけ、もし応じないのであればアルゼンチンから撤退すると脅している。もはやこの企業の振る舞いは戦勝国家のようなものだ。オバマ政権時代には太平洋に面していないアルゼンチンをTPPに参加させようという話しもあった。TPPに参加すれば、UPOV1991年条約批准は義務となるし、それに伴い、国内法も変えることが義務付けられる。しかし、それはあまりに無理筋の話し。そう考えるとTPPのひどさも改めて感じざるをえなくなる。

 今後、アルゼンチンでも再び「モンサント法案」が浮上している。しかし、それは容易には動かないだろう。もっとも何が起きるかわからない。

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