参政党問題と有機農業・農薬批判をカルト化する言説

 農業や食の政策がずっと自動車産業を守るために犠牲にされ続けてきた日本で、次の参議院選挙ではその政策を変える候補に投票したいですね。しかも「令和の米騒動」と言われる事態が起きており、離農する農家が続出する状況ですからなおさらです。そんな中「参政党はいいよね」との声も聞こえてきます。確かに有機農業や食料自給率の向上を謳っています。でも、それは本当でしょうか?
 実は同じことが歴史では繰り返されました。ナチス・ドイツは「飢餓から子どもたちを守れ」というスローガンで支持を獲得したと京都大学の藤原辰史さんは指摘します¹。ナチス・ドイツはドイツで生まれたバイオダイナミック農法の指導者を取り込み、有機農業の普及を政策に掲げます。しかし、ナチス・ドイツの本質が実際には障がい者、ユダヤ人、反対勢力を抹殺する人種主義・優生思想にあったことは歴史が語っています。
 なぜ、ナチス・ドイツは有機農業の普及を掲げたのでしょう? これは近代世界の基本となる民主主義思想に対抗するために自分たちの思想を箔付けするために利用したに過ぎません。それが取って付けたものに過ぎなかったことは彼らの実践がすべてを語っています。実際に強化されたのは農薬・化学肥料をベースとした農業でした。
 戦後、ドイツから二つの巨大農薬企業が世界に進出します。それがバイエルとBASFです。毒ガス製造や爆弾の技術は農薬や化学肥料の技術でもありました。彼らはナチス政権の下で、戦争に必要な物質を作ることで巨大化し、それは同時に農業にも使われました。戦後、その力は戦争から農業へと振り向けられることになります。つまり、ナチス・ドイツのもたらした農業とはジェノサイドを引き起こした毒ガスを活用した工業型農業であり、バイエルとBASFの両者は後に世界の四大遺伝子組み換え企業を構成します。
 
 参政党は憲法草案をまとめ、主権在民を否定して、天皇を中心とした国家を描きます²。そのきな臭さを隠すのに有機農業や食料自給率の向上を掲げているに過ぎません。「そんなことない」と言われるかもしれませんが、参政党は「日本人ファースト」を掲げ、外国人排斥を主張します。そして女性の権利も否定です。果たして、自然は差別をするでしょうか? 自然が必要とするのは多様性です。本当の農業を発展させるには相容れない主張が彼らの根幹なのです。
 参政党に保守勢力とか右傾化という言葉を使うべきではありません。なぜなら、彼らの本質は憲法の否定であり、民主主義の破壊なのです。止めるのが遅すぎた、とならぬよう、参議院選挙では、農民を守ると称する参政党の偽物ではなく本物を選びましょう。少なくともよりましな候補に票を投じることが大事です。
 
 一方、日本では有機農業や農薬への批判がカルトであるかのように決めつける言説がこのところ急に目立つようになりました。参政党が推しているから有機農業や農薬批判自身も問題あると考えるとしたら、これもまた暴論です。
 国際的にはすでに10年以上前から有機農業を含むアグロエコロジーこそが世界に必要な農業政策であることが科学者や農民、市民らによって同意されて、国連総会でもその推進が決議され、すでに世界各地で普及のための会議も積み重ねられています³。世界各地の大学にはアグロエコロジー学科が設置され、有機農業が科学として研究されており、こうした取り組みもあって、20年間の間に15倍を超える勢いで世界で有機農家が増えており、市場成長率も農業分野の中でもっとも有機農業が顕著で、有機農業はもはや世界の農業のメインストリームとなり始めています。
 有機農業をカルト扱いするというのはあまりにこうした国際的な動きに無知な日本語情報圏に特有な現象と言わざるをえません。そして、農薬に関しては、日本政府・農水省ですらネオニコチノイド系農薬をはじめとする農薬は2050年まで50%削減することを目標に掲げています⁴。
 アグロエコロジー、脱化学農薬・脱化学肥料はすでに世界の基本的な方向となっており、農薬企業が強い力を持つ日本ですら(しぶしぶ)それに従わなければならない状況になっているにも関わらず、その事態を把握していない言説が多すぎます。もちろん、有機農業、農薬・化学肥料批判の中には科学的なものとは相容れないものもあるかもしれませんが、世界を動しているのは科学的な裏付けのある事実に基づいた農業であり、それがもしカルトであればそんな動きになることはありえません。
 参政党批判は大いに結構ですが、一方でもし、それが有機農業の無知からくる有機農業批判であれば、逆にそうした言説こそ参政党の応援に使われかねません。
 
 もし、農村に女性差別が強く残り、女性が尊厳を守るために村を出なければならないような環境であれば、その農村が発展することは不可能です。アグロエコロジーを進める人びとはフェミニズムなしにアグロエコロジーはありえないと繰り返し、主張しています(写真参照)。そして女性の権利が向上した地域でこそ、やはり農業や経済も進んでいることも指摘されています。その意味でも、女性の主体性を認めない参政党の主張は到底、農業や地域を発展させることはないでしょう。
 
 参政党に対しても、有機農業、農薬・化学肥料問題に取り組む人びとをカルト扱いをすることに対しても、それを許さない声を出しましょう。
 
「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」
写真:「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」
第3回全国アグロエコロジー大会 2014年5月
パラ州北部女性運動(MMNEPA)
(ブラジル・バイア州ヴァリ・ド・サンフランシスコ連邦大学にて)

(1) 藤原辰史著『ナチス・ドイツの有機農業ー〈自然との共生〉が生んだ〈民族の絶滅〉』

ナチス・ドイツの有機農業 〔新装版〕

(2) 参政党が創る新日本国憲法(構想案)

新日本憲法(構想案)

(3) 国連FAO:Agroecology Knowledge Hub
https://www.fao.org/agroecology/overview/en/

(4) 農水省:みどりの食料システム戦略における化学農薬使用量(リスク換算)について
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_info/midori.html
首相官邸:「みどりの食料システム戦略」KPI2030年目標の設定について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/dai33/siryou6.pdf

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