アジアで高まる遺伝子操作米の登場の危惧

 アジア地域に遺伝子操作品種の脅威が高まっている。しかも、そのターゲットはお米(稲)だ。
 アジアではこれまで世界の他の地域に比べ、遺伝子組み換え技術の及ぼす影響は比較的低かった。多数の自殺者を出したインドのコットン、フィリピンのトウモロコシ、オーストラリアのナタネでの遺伝子組み換えは深刻な問題ではあるが、主食のコメが遺伝子組み換えされてこなかったことがその影響を阻んだ大きな原因だろう。なぜなら水田ではモンサント(現バイエル)のラウンドアップは除草効果が失われる。だから水田で除草剤耐性の稲を栽培というわけにいかなかった。水田が遺伝子組み換えを阻んできたとも言える。もっとも、それが今、変えられようとしている。そのメインバトルは水田をなくして乾田にしろ、という攻撃だが、もう一つの攻防がある。従来の遺伝子組み換えとは異なる遺伝子改変米の出現だ。稲における遺伝子操作状況を見てみたい。
 
 インド政府は2品種の「ゲノム編集」稲を開発し、試験栽培の後、商業栽培を計画している¹。
 一つの品種がDRR Rice 100(Kamala)。20日早熟で、使う水が少なくてすみ、温室効果ガスの排出も少なく、水害にも強い茎を持ち、収量も19%前後の向上が見込まれるという。
 もう一つの品種がPusa DST Rice 1。塩分やアルカリ分が高くて、他の品種では生育困難な土壌でも育つことができ、干ばつにも強く、収穫も高いという。
 中国政府も遺伝子組み換え・「ゲノム編集」作物の栽培を承認したようで、今後、遺伝子組み換え米、「ゲノム編集」米が出てくる可能性がある。研究段階では高収量の遺伝子組み換え稲や「ゲノム編集」稲が作られており、また細菌性の感染に強い「ゲノム編集」稲、カドミウムを吸収しにくくした「ゲノム編集」稲が作られている²。
 
 しかし、これらの遺伝子操作米は期待に応えるものになるだろうか? インドではこの「ゲノム編集」稲に大きな反発が生まれている。そもそもインドはモンサントの遺伝子組み換えコットンが導入されたものの、インドでは想定通り育たなかったにも関わらず、モンサントは責任を取らず、多くのコットン農家が借金を背負って自殺者が続出した事態となった過去がある。その後もインドではモンサントの遺伝子組み換えコットンの栽培が続いているが、その成果は改善どころか悪化している。そのため、インドの農民の中での遺伝子操作に対する疑念は高いものがあり、その問題点を指摘するセミナーなども開かれ、反対の意志表示がなされている³。
 今回の「ゲノム編集」稲についても、農民の反発は高い。農民だけでなく、科学者たちもその効果に疑問を投げかけ、それが予測不能な突然変異に曝されやすいこと、インド米への信用が損なわれること、外国企業に特許料を吸い取られて、インドが苦境に陥る可能性について指摘している⁴。
 
 中国政府も遺伝子操作稲の栽培には慎重な姿勢を見せている。たとえば「ゲノム編集」でカドミウムの吸収をさせなくした稲は、高温と低マンガン水田では収穫が激減するとして、カドミウム汚染が深刻な中国でもその栽培には踏み切っていない。
 
 この他、遺伝子組み換え稲といえばフィリピンのゴールデンライスがあるが、発展途上国のビタミンA不足を解消するお米として開発されたが、実際にそれを食べても栄養改善は得られないことはわかっており、フィリピン最高裁判所もその栽培を禁止している。一方、日本では岸田前首相が肝いりで取り組んだ花粉症対策で、以前、中断していた花粉症対策になるお米の開発が再開されたが、見込みはないだろう。
 
 遺伝子組み換えでも「ゲノム編集」でもないが、秋田県が今年から商業栽培を開始した「あきたこまちR」は重イオンビームを使って遺伝子の一部を欠損させた稲であるので、これもまた遺伝子改変稲であることに変わりはない。このような遺伝子操作品種の共通するもっとも最大の問題は何だろうか? それは、生命としての力が損なわれることだろう。遺伝子組み換え企業の技術者は熟知しているはずだが、最初はうまく行っていた遺伝子組み換えコットンも年を経るにつれて持続性が持ちにくくなる。まだ再現性の高い遺伝子組み換えや「ゲノム編集」であれば新たに作り直すこともできるが、重イオンビームの品種はそうもいかず、長続きさせることは困難であり、長期的には維持ができなくなるだろう。
 
 莫大なお金を使って、効果はやがて消滅していく。第1世代の遺伝子組み換え技術はそうして壁にぶつかったが、それ以降の技術も同様の道を辿るだろう。本来必要なお金がそうした無駄な技術に浪費される。気候危機が深刻化する現在、そんな余裕は世界の誰にもない。お金を使うべきなことに使わなければ惨事が大きくなるだけだ。

(1) Is India’s CRISPR feat with rice a costly proposition?
https://www.downtoearth.org.in/agriculture/is-indias-crispr-feat-with-rice-well-worth-the-effort

(2) New GMO Alert: GMO Rice Isn’t on the Market, but It’s Still Showing Up

New GMO Alert: GMO Rice Isn’t on the Market, but It’s Still Showing Up

(3) Understanding Gene Editing & Gene-Edited Rice Varieties

(4) Agri scientists warn against “premature release” of gene-edited rice
https://www.downtoearth.org.in/agriculture/agri-scientists-warn-against-premature-release-of-gene-edited-rice

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