アマゾン破壊と日本(その4)アマゾン破壊への日本の関与

 アマゾン破壊には主に2つの経路がある。1つは鉱山開発とそのエネルギー源となる巨大水力発電ダム建設。もう1つが農業開発に関わるもの。日本はどちらにも深く関わっている。
 ブラジル最大の鉱山開発プロジェクトといえば大カラジャス開発計画だが、そのマスタープランを作ったのは日本のJICAだ。アマゾン地域には石油やレアメタルなど鉱山資源が豊富にある。その中には原子炉を作る上でなくてはならないニオブもある。ニオブは原子炉を作る時に不可欠なものだが埋蔵量の97%はアマゾンにある(1)。日本の原子炉にも確実に使われているだろう。
 さらに日本は公害問題で日本国内では操業しにくくなったアルミニウム精錬工場を原料となるアマゾンのボーキサイト鉱山の近くに建て、その膨大な電力を供給するために建設時ブラジル最大の発電量を誇ったトゥクルイダムを建設し、その電力を独占的に使っている。
 アマゾン地域ではないが、ブラジル史上最大の環境被害と言われる鉱山鉱滓ダムの決壊によって広大な地域が汚染された。その責任企業は民営化された鉱山開発企業ヴァーレだが、三井物産など日本から巨額の投資が行われている。決壊の危険が指摘されている鉱滓ダムはアマゾンの中にも存在している。投資者はその破壊に責任がある。
 
 アマゾンの森林破壊が批判される時、放牧地の開拓がまず上げられるが、放牧地をアマゾンに駆り立てる力は実は大豆である。大豆は鉱山資源と並ぶブラジル最大の輸出品であり、その生産拡張圧力は高く、放牧地が大豆畑に転換される、そして追い出された放牧地がよりアマゾン地域に侵入していく、というパターンが多い。特にブラジル中央部のサバンナ地域であるセラード地域での農業拡大がアマゾン破壊の間接的な原因となっている。そして、セラード地域で大規模大豆栽培はこれまた軍事独裁政権時代にJICAが始めたセラード開発計画(PRODECER)が大きなきっかけとなった。
 セラードはアマゾンの1つの水源である。セラードで農業開発が進むことで、アマゾンに供給される水が減り、アマゾンの乾燥化が進む。そして、大豆畑に追い出された牛の放牧地がアマゾンへと侵入していく。

 しかし、さすがにアマゾン奥地に放牧地を作っても消費地とつながらなければ開発することはできない。ところがアマゾン地域にセラード地域で作られた大豆をヨーロッパやアジアに輸出するための道路が建設され、港が整備されていく中で、アマゾン地域からの輸出経路が整備されることでより奥地での開発が可能となってしまう。このビデオで最初に登場するのはISAという先住民族や環境問題に取り組むNGOが作った地図だが、茶色の線がその道路である。道路が切り拓かれるとその周辺の森林が破壊されていく様子が見て取れると思う。
 JICAによるセラード開発計画は1974年に始まり、3期にわたって、30年近く続いている。そしてその延長線に新たな開発計画が進みつつある。アマゾンに隣接する4つの州にまたがり、この4つの州の頭文字2字を取ってMATOPIBA地域と言われるが、この広大な地域で大規模農業開発が進められている。この地域に住む先住民族や小農民がこの大規模開発計画によって生存が脅かされるとして大きな反対運動を展開しているが、日本政府もブラジル政府もこれまで聞く耳を持たない対応となっている。
 軍事独裁が終わった後も、特に地方における大地主は絶大な権力を持ち続けている。先住民族や小農は今なお、独裁的な状況の中に置かれている。権利の主張に立ち上がれば殺害されることもある。そしてその沈黙をいいことにわれわれの税金を使って、彼らを死に追いやる農業開発プロジェクトが行われてきた。今、決死の覚悟で声を上げても、日本のメディアが取り上げることはほとんど期待できない。そうした中でこの破壊的な開発は今なお進みつつある。
 われわれの税金で準備ができた後は近年は日本の商社が展開する。セラード開発計画初期のころはその成果はカーギルやBungeなどの多国籍企業にすべてを取られていたが、日本の商社は近年相次いでブラジル企業の買収を通じて、プレゼンスを高めている。必ずしもその操業は順調ではないようだが、人びとの権利が無視された開発の利益が企業へと還流・独占されていく構図はここでも見ることができる。
 日本政府は今なお、セラード開発プロジェクトを「不毛の大地を穀倉地域に変えた奇跡の成功」と呼び続けている。そしてマスメディアはそれをそのまま報道する。しかし、このセラードは不毛の大地ではなく世界でもっとも生物多様性に富むサバンナと言われ、強烈な紫外線に耐える薬草の宝庫であり、アマゾンをも支える水源となっている。そして、今、このセラードをアマゾンと同様にブラジルの自然遺産として憲法に入れることを求める運動が拡がっている。「比類無い自然遺産」を「不毛の大地」と呼ぶ日本、ブラジルの人びとの認識とマスメディアや日本政府を経由して情報を得る日本語情報圏の人びとの情報格差は天と地の違いができてしまっている。

 日本政府はこのアマゾンとセラードの危機を受けて、これまでのブラジルでの開発政策を見直し、今後は大規模鉱山・農業開発プロジェクトをやめ、これまでに引き起こした被害の回復にこそ、ODAを使うべきだ。ドイツ政府、ノルウェー政府も援助を止める。もっとも彼らの援助は日本と異なって、環境保護目的の援助だった。その資金がボルソナロ政権によって大地主のために、つまり環境破壊のために使われたことが発覚したためだ(2)。

 G20でボルソナロ大統領が訪日し、日本とブラジル中心に南米共同市場(メルコスル)との自由貿易協定を締結をめざし、さらに投資を増加させる方向が話されている。もちろん、これはアマゾン破壊をさらに加速させる動きとなるだろう。これは止めなければならない。

 まず、日本政府、そして直接ブラジルでの環境破壊に関与する企業の責任を追及する必要がある。もちろん、それだけではなく、日本に住む市民ももっと直接にできることがあるだろう。それは次にまとめてみたい。

(1) ニオブについて

(2) Política “antiambiental” de Bolsonaro ameaça o Fundo Amazônia; entenda os riscos

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