広域下水汚泥の肥料利用に待った

 ウクライナでの戦争以前から化学肥料の原料の急騰は始まり、それが戦争によってさらに進んだ。化学肥料指標はやや下がったものの、それでも数年前の3倍近い価格になっている(1)。
 そこで急浮上したのが広域下水汚泥の活用。かつてから小さなレベルでは安全で確実な肥料として長いこと糞尿などが活用されてきた。もし、そのサイクルが小規模で安全を確認できるものであれば問題にするには及ばない。でも現在、農水省・国交省で検討が進められようとしているのは広域の下水汚泥の活用だ。
 何が問題か? 現在、さまざまな日常製品に分解されることのない永遠の化学物質と言われるPFASが使われている。それらが下水に流れ込む。その他にも広域の下水にはさまざまな汚染物質が含まれる。農水省もいくつかの重金属に関しては注意すべきとしているものの、PFASに関してはまったく何の基準もないのが実態だ。
 
 化学肥料は今後、原料も枯渇するので頼れない。それに代わり、地域循環が求められるのは時代の趨勢だろう。しかし、もしPFASや抗生物質などの汚染物質が入った肥料を使えば農地が永遠に汚染されてしまう。除染は困難だろう。米国では日本の農地の倍近い800万ヘクタールがPFASに汚染され、中には閉鎖を余儀なくされた農地もあるという。メイン州では広域下水汚泥の肥料への利用が今年禁止されるに至っている(2)。
 
 日本はその下水汚泥の積極活用に向かっており、その最初の官民検討会議が17日に開催された(3)。当然、どんな検討をしたのかが気になったが、検討会は公開されず。それを伝える記事にも十分な情報がない(4)。
 広域下水汚泥でなく、小さな規模で、たとえば汚染物質も作っていない地域の下水であったり、飼料もこだわっている畜産農家からの糞尿を活用するための小さな循環を多数作るという計画であれば、農地も汚染されず、地域循環も進められるが、検討会のメンバーを考えるとそのような話にはなりそうにないと懸念が募る。
 
 「うちは安全なものを使っているから大丈夫」という話にはならない。上流で汚染肥料が使われれば汚染は広がる可能性があるから。
 
 一時の失敗のために未来を犠牲にしてはならないはず。まずは地域の地方自治体、さらには国交省や農水省の出先機関と話してみることが必要なのではないだろうか?

(1) Fertilizer Price Index
https://fertilizerpricing.com/priceindex/

(2)

「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する

(3) 農水省「下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」の開催について
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/bio_g/221014.html

(4) 下水汚泥資源の肥料利用拡大へ官民検討会 農水省・国交省
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/10/221018-62229.php

広域下水汚泥の利用はNG。今こそ化学肥料への依存を減らす時

 今後、経験したことのない事態が起きてくるだろう。でも一番大事なのはパニックにならないことだ。何事もその事態が生まれたことにはその背景がある。それをじっくり見据えれば危機から抜け出す道は見えてくる。パニックになれば危機は一気に加速する。
 食料品の価格が一気に高騰し、商品によっては姿を消す。さらに深刻なのは生産が化学肥料が不足するため困難になることだ。そこで、岸田首相は化学肥料の確保のために下水汚泥の利用を農水省に指示した(1)。海外依存の化学肥料の原料を地域循環で取り戻す、一見よさそうにも見えるかもしれない。でも、これにはとんでもない危険がある。 “広域下水汚泥の利用はNG。今こそ化学肥料への依存を減らす時” の続きを読む

食料危機から食のシステムの転換へ

 食料危機が待ったなしで迫っている。化学肥料の高騰が止まらない(1)。問題は価格の高騰に留まらない。お金を出しても必要な量を確保することが見込めない状態になりつつある。現在の世界の食のシステムは来年にかけて大きな危機に陥るのは避けられないだろう。
 特に日本でまず心配なのは今後、農業を続けてくれる方たちが大幅に減ってしまうのではないかということだ。ただでさえ、労は多く収入は少ない状態なのに、これに生産コストが急激に上がってしまったら、継続は不可能になってしまう。 “食料危機から食のシステムの転換へ” の続きを読む

「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する

 「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する。そして地下水、食も。
 自然では分解することのない合成化学物質PFAS、耐熱、耐水、汚れ防止などのためにさまざまな製品に使われるが、人体には有害でがん、甲状腺異常、肝臓障害、出生異常、免疫抑制など広範な健康被害の可能性がある。米軍基地がその汚染源となっているが、工場から排出されている可能性もある。
 しかし、基地も工場もない農村がこのPFASに汚染される。その原因は肥料として用いられる下水汚泥。つまり工場排水などでPFASに汚染された水が下水に流れ込む。下水処理場の処理で水は浄化されるが、汚泥の中にPFASは残留する。その汚泥が肥料として使われている。米国の市民団体EWGは米国の農地2000万エーカーがPFASに汚染されていると推定されると4月に発表した(1)。2000万エーカーは約800万ヘクタール、日本の全農地の倍近い農地がPFASに汚染されてしまったことになる。汚染された農地では地下水も汚染され、閉鎖を余儀なくされた農場も出ている。 “「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する” の続きを読む

化学物質が精子を滅ぼす?

 人間の精子は近年急激に減っており、このままの状態が続くと、無精子の男性が主流になってしまうという。その原因は内分泌撹乱物質(環境ホルモン)。わたしたちの日常を取り巻くさまざまな化学製品に入り込んでいる。PFAS、おもちゃや食品パッケージに使われる化学物質(フラルサンエステル)、化粧品に含まれるパラベンなど。実はラウンドアップの主成分グリホサートも内分泌撹乱物質と指摘されている。 “化学物質が精子を滅ぼす?” の続きを読む