食料危機から食のシステムの転換へ

 食料危機が待ったなしで迫っている。化学肥料の高騰が止まらない(1)。問題は価格の高騰に留まらない。お金を出しても必要な量を確保することが見込めない状態になりつつある。現在の世界の食のシステムは来年にかけて大きな危機に陥るのは避けられないだろう。
 特に日本でまず心配なのは今後、農業を続けてくれる方たちが大幅に減ってしまうのではないかということだ。ただでさえ、労は多く収入は少ない状態なのに、これに生産コストが急激に上がってしまったら、継続は不可能になってしまう。
 政府がすべきことはすべての農家に所得保障をして、なんとか農業を続けてもらうことだ。そして、化学肥料に依存しない方向に転換することをしっかり支援することだ。「農家がいなくなってもいい、輸入すればいい、トヨタが儲ければそれでいい」、というのがこれまでの政策だったとしても、それはもうダメだ。日本車はテスラに勝てず、海外から食料を輸入するにも買い負ける。
 農家を守る政策を早急に打ち出さなければならないが、政府の動きは鈍い。化学肥料の補助金を政府は検討始めたが、根本的に農家を守る保障政策からは遠い。補助金では対応などできないほど事態は深刻だ(2)。
 
 今回の危機は直接的にはウクライナ危機が大きく影響しているとしても、それだけではない。今年来年を乗り切れば後はなんとかなる、ということにはならず、今後は厳しくなる一方だろう。
 
 なぜ、一時的な危機に留まらないかというと、この化学肥料の原料は化石資源であり、それが得られる地域は偏っており、限りがあるということ。そして、もう1つはこの数十年間、工業的農業によって土壌を傷めてきたツケで、今後、世界的な穀倉地帯で生産が維持できなくなる可能性が高いこと。特に土壌崩壊、気候危機、生物多様性危機の多重危機によってさらに生産に打撃が加えられる可能性が高いからだ。
 
 こうした事態がいずれ来ることはわかっていた。この事態をもたらした原因をしっかり究明し、政策転換して、対策を打ち立てる必要がある。ところが、今、メディアで目立つのはこうした事態をもたらした真犯人があたかも今後の救世主であるかのような顔をして振る舞っているということだ。
 
 たとえば、ナショナルジオグラフィックの記事にルワンダ元農業大臣であるカリバタ氏が登場する(3)。彼女はビル・ゲイツの進める「緑の革命」をアフリカで推進するトップに据えられ、「アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)」の総裁として、アフリカの農民に化学肥料と企業のタネを押しつける活動を行ってきた。しかし、アフリカの食料生産を増加させると言いながら、その成果は無残なものとなっている。
 
 これは自明の話だ。そもそも植物を育ててきた土壌微生物が化学肥料の影響で損なわれてしまえば、特に代謝の活発な熱帯地域では有機分はあっという間に失われてしまう。土壌崩壊と水不足が蔓延する。化学肥料をいくら調達できようとも、土も水もないところでは農業はできない。しかし、それにも関わらず、アフリカ諸国ではAGRAなどの圧力の下、次から次へと企業のタネと化学肥料、さらには農薬とセットの遺伝子組み換え作物が押しつけられつつある。種苗法もそれに合わせてケニアなどで農民の圧倒的な反対の声を無視して変えられてしまっている。
 
 世界中で化学肥料がなければ農業できない状況を作り出した張本人たちがその責任を追及されることもなく、あたかも現在の危機を解決するかのように振る舞っている。本当の危機はここにある。
 
化学肥料輸出国 もっともいきなり化学肥料がなくなってしまうと困ることは間違いないだろう。どうやって調達する? ロシアやベラルーシ、中国にかなりの量があるが、それが得られなくなれば米国やカナダから調達できる? 残念ながら米国も化学肥料の原料は輸入超過だ。世界1位を米国と争うブラジルも輸入に依存している。だから、世界の穀倉地域は大きな影響を受けざるをえない。その巨大プレーヤーが確保に動くから、規模の小さな日本はどうしても買い負ける。化学肥料の補助金だけでは不十分で、農家が離農せずに済むように所得保障で守ることが鍵だろう。参議院選挙でそれが問われないとしたら、絶望的になる。ぜひ、選挙で候補者に問わなければならない。
 
 一方で、化学肥料の原料となる化石資源の新たな開発に拍車がかかろうとしている。しかし、その多くが先住民族の土地に眠る。それは同時にこの地球に残された生物多様性が残る地域でもある。そこでの化石資源の開発は先住民族の生存と生物多様性の崩壊をもたらし、結果的に人類の危機を加速するだけとなってしまう。生物多様性を守る知恵を備えた先住民族を失えば、地球を守る手立ても失われる。原生林も多くの生物も失われ、さらなる危機が人類を襲うことになる。

 だから、化学肥料に依存しない農業へと可能な限り早く転換しなければならないのだ。カバークロップの活用、イモ類やマメ類との輪作など、いきなり有機に転換しなくても化学肥料を減らせる方法はすでに存在している。化学肥料の代替として下水汚泥を使おうなどとなったらPFAS含む重金属汚染でもっと危険なことになりかねないので注意が必要だ。
 
 順風満帆な転換はもう無理かもしれない。でも少しでも被害を減らし、未来を好転させることはまだ可能だ。地域循環を最大化させ、化学肥料への依存を可能な限り、急いで減らしていく。それを地域を挙げて進めていく。これは農家の問題ではない。地域の生存の問題であり、一人一人の命の問題なのだ。だから消費者こそ、その先頭に立つ必要がある。毎日の食材をちょっと変えることも大きな意味があるはず。
 
 実際にこの破局的な動きにあまり影響を受けない地域がすでにある。そこは前から地域循環に基づく生産に移行できた地域だ。たとえば、ブラジルでは土地なし農業労働者運動が各地にそうした地域を作り出すことに成功している。日本にも地域循環を進める地域は増えている。転換が早ければ早いだけ、この危機による被害も避けられる。
 
 残念ながら、現在の日本には生態系に合った地域循環(タネから生産物まで)に依拠した生産を行う政策は存在していない。「みどりの食料システム戦略」でもそうしたタネにはまったく触れていない。だからこそ、ローカルフード法案が必要であり、そして各地域で地域循環できる食のシステムを作り出すための条例(まちづくり条例、ローカルフード条例)を作っていくことが重要な一歩になるはずだ。
 
 ローカルフード法・条例を作るために国会議員・地方議会議員にハガキを、ということでハガキが作られた。ぜひ、ご活用を!(4)

(1) JA全農、肥料大幅値上げ 6月から、ロシア侵攻影響(最大94%値上げ)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8332f11651db5e9c205f9fa3246629fdf59616c5

「そんなに上がるのか」肥料値上げに佐賀県内の農家絶句 JA、県に支援要請を検討
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f24c6f4c2c7cb67ba4a42fd2f395bd01ceda1a3

肥料最高値、農家を直撃 政府・与党、新たな補助金検討
https://news.yahoo.co.jp/articles/1a52c0feeb3ce8932b11410da4cf524691968373

(3) 世界的な食料危機が迫っている、ウクライナ侵攻で肥料が不足
「これは世界的な危機であり、世界的な対応が必要」と世界農業者機構の会長
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/053100245/?P=3

(4) ローカルフード推進チームのサイト https://localfood.jp/
ハガキを送ろう! 参照

全国の議員にハガキを送ろう!

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