下水汚泥の利用はNG。今こそ化学肥料への依存を減らす時

 今後、経験したことのない事態が起きてくるだろう。でも一番大事なのはパニックにならないことだ。何事もその事態が生まれたことにはその背景がある。それをじっくり見据えれば危機から抜け出す道は見えてくる。パニックになれば危機は一気に加速する。
 食料品の価格が一気に高騰し、商品によっては姿を消す。さらに深刻なのは生産が化学肥料が不足するため困難になることだ。そこで、岸田首相は化学肥料の確保のために下水汚泥の利用を農水省に指示した(1)。海外依存の化学肥料の原料を地域循環で取り戻す、一見よさそうにも見えるかもしれない。でも、これにはとんでもない危険がある。
 
 化学肥料の原料は天然ガスや鉱石で、それはほぼすべて輸入に頼っている。その資源はロシア、中国、ベラルーシなど偏って存在し、世界最大の農業生産国、米国やブラジルでも原料を輸入に頼る。争奪戦になれば円安の日本では買い負けて入ってこない。
 下水の中には肥料として有効な窒素やリン酸が含まれる。それを取り出せば肥料として使えるということだが、しかし下水にはさまざまな有毒物質が含まれている。ヒ素やカドミウム、水銀などについては農水省も基準を設けている。でもそれだけではない。永遠の化学物質と言われる分解されないPFASもまた含まれている可能性が高い。しかし、現在、農水省は下水汚泥を利用する際にPFASの規制を設定していない(2)。
 
 この問題は米国ではすでに起きていて、すでに日本の全農地の倍を占める農地がPFASに汚染されてしまったという(3)。PFASを摂取すればがん、不妊、糖尿病などの原因となり、医療費も膨大になる。PFASは永遠の化学物質だから放射性物質で汚染されたのと同様の問題にさらされることになる。メイン州は下水汚泥の使用を今年4月に禁止した。それを日本では国策として推進するのだろうか? PFASはさまざまな工業製品に含まれる。でも、工場からほど遠い農地がこの下水汚泥によって汚染されてしまうとしたら、まったく理不尽な話である。有害物質はリサイクルしてはいけない。
 
 でも化学肥料がなければ困る、というのも一方である。有機農業にすれば化学肥料も不要になるものの、それには土作りに時間がかかる。化学肥料は高騰して、だんだん手に入らなくなるのだから、今、なんとかしなければ、というのは確かだろう。しかし、永遠の汚染物質で汚染してしまえば将来まで失ってしまう。パニックになれば本当に未来がなくなる。
 
 今、世界各地で化学肥料の使用を大幅に抑えても、生産性を保ち、土作りを加速する方法が実践されている。いきなり化学肥料の利用を止めるのは無茶にしても、この方法を使えば化学肥料の量は大幅に抑えられ、いずれ不要になっていくだろう。日本でもすでに実践されている方たちがいる。でも化学企業の御機嫌を損ねないため、政府はそうした政策を推し進めようとしない(4)。今回の計画は農水省ではなく、国交省が中心になりそうだ(5)。となると小さな規模で安全な糞尿を活用するような仕組みとは無縁な大きな計画になってしまうのではないだろうか? それならば、汚染が進む危惧は高まるだろう。
 
 そこで提案なのだが、化学肥料を減らすためにそうした有効な実践をまとめたマニュアルを作る、そしてそのマニュアルを活用して、農家が実践する上で必要な支援が得られるように地方自治体に働きかける。政府にも同様の政策を実現するように圧力をかける。今、もっとも必要な政策は何より、パニックに陥らずに生産を強化できる政策だろう。そしてこの方法を取っていけば化学肥料の必要は減っていき、農業は生態系を守る有機農業・アグロエコロジーに近づいていく。

 一度、汚染してしまったら、取り返しがつかなくなる。なんとか、方向を変えさせたい。

(1) 朝日新聞:食料安定供給「肥料に下水汚泥を」 農水省に首相指示
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15412008.html

首相官邸:9月9日 食料安定供給・農林水産業基盤強化本部
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202209/09honbu.html

(2) 農水省:汚泥肥料に関する基礎知識(一般向け)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/odei_qa.html

(3) 下水汚泥に関して5月23日にまとめた投稿

「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する

(4) 化学肥料企業はモンサントほど注目を浴びないがほぼ同じ問題を持っている。その世界トップのYaraについて詳細に書かれた記事
YARA: THE FERTILISER GIANT CAUSING CLIMATE CATASTROPHE

Yara: the fertiliser giant causing climate catastrophe

ロビーにも大量の資金を投入し、告発されている。
Former CEO of Norway’s Yara indicted on corruption charges
https://www.reuters.com/article/yara-corruption-idUSL5N0KQ0WL20140116

(5) コスト反映した価格形成の枠組みづくりも課題 食料安保強化へ 農水省
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/09/220912-61517.php

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