トイレットペーパーからPFASが。下水汚泥の肥料化に規制を

 トイレットペーパーから永遠の化学物質と言われるPFASが検出。米国で17ブランドのトイレットペーパーで検査したところ、そのうち4つから微量のPFASが検出された。PFASは包装紙などに水を弾かせるために意図的に混入されるが、トイレットペーパーの検出量は微量であるため、意図せずに製造過程の中で混入してしまったと考えられるとのこと(1)。
 
 米軍基地の消火剤などの流出からきわめて危険な濃度のPFASが水道水に混入しており、日本各地の米軍基地周辺で大きな問題になっている。健康被害・環境被害という点では、これが最大の焦点になるが、今後、このPFAS汚染問題が日本全国に広がりかねない。というのも下水汚泥を肥料に使う動きが農水省・国交省の施策で急激に全国で動き出しているからだ。
 
 当然ながら、広範な日常品に使われているPFAS、下水の中にも当然、流されていて、下水汚泥にはそれが蓄積している。それを肥料の原料として使うとなれば、米軍基地が周辺になくとも、また汚染企業が周辺にまったくないような農地が汚染される。そして、農地が汚染されれば地下水も汚染され、水道水にも入っていく可能性もある。
 
 微量ならば問題ない、とはならない。なぜなら生物濃縮される可能性があるからだ。微量でも環境中に流し続ければ生態系に大きな影響を与えかねない。実際に米国では日本の農地の倍近い800万ヘクタールの農地がPFASに汚染され、閉鎖せざるをえなくなった農場も出ているという。メイン州はPFAS汚染を避けるため、昨年、下水汚泥を肥料に使うことを禁止した(2)。
 
 ところが日本は米国の動きとは真逆に、ウクライナへの侵略戦争後、化学肥料の高騰を受けて、下水汚泥の肥料化推進に舵を切った。農水省と国交省による下水汚泥の検討会は非公開で行われ、そのとりまとめにはPFASの一言も書かれていない(3)。実際に農水省は下水汚泥肥料でのPFASに関して規制基準も設けていないどころか、まだ土壌の中のPFAS濃度を測定する方法も定めていない(4)。これを泥縄と言わずして何なのか?
 
 PFASレベルを測定して安全が確認できた下水汚泥のみ使用する、というのならまだわかる。しかし、その測定基準すらできていない段階で利用を始めてしまうというのだ。全国各地でその施設建設がすでに始まっており、このままでは汚染は深刻になることが目に見えている。でも汚染してしまってからでは遅い。
 
 そして、問題はPFASだけではない。実は日本はカドミウム汚染は問題で、日本のカドミウムの基準もEUに比べると大幅に緩い。下水にはカドミウムが含まれ、それを積極的に使えば農地のカドミウム汚染は今後高まる可能性がある。カドミウムはPFASと違って規制基準が設けられている。しかし、その基準値は長年使用し続けても問題がでない値と科学的に確証できるものではないというのが現実だ(5)。
 
 なぜ、農水省と国交省はこうした懸念に答えようとせず、またマスコミも報道しようとしないのか。やるべきことをやっていない、と言わざるを得ない。
 
 広域の下水汚泥であれば汚染物質の混入は避けられないが、畜産農家や小さな規模のバイオトイレからの直接の糞尿の活用であれば問題は避けることが期待できるだろう。そうした資源を活用することを支援することができれば、個々の農家の直接支援となって、地域経済に与える好影響も考えられる(しかし、その活用は小規模・分散となって利権にもならないから進まないのだろうか?)。
 
 国の方針に対して声を出すことが重要だが、方向を変えるとしたら、地域で動くのが有効だ。地方自治体関係者、地域の農家、消費者が動くべきだ。

(1) Evidence of PFAS in toilet paper (Yes, toilet paper!)
https://www.ehn.org/pfas-toilet-paper-2657799974.html

(2)

「永遠の化学物質」PFASが農地を汚染する

(3) 「下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」の論点整理の公表について
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/bio_g/230120.html

(4) 環境省:PFAS の概況と今後の対応(PDF)
https://www.env.go.jp/content/000107492.pdf
今年1月に公開された文書だが、「また、土壌中の PFOS 及び PFOA に関しては、土壌環境基準等の目標値の設定等を行うための前提となる測定手法の確立に向けて、技術的な検討を進めている」。要するに検討中、ということだ。

(5) 汚泥肥料の連用によるカドミウム等の土壌への蓄積,作物への吸収試験
http://www.famic.go.jp/ffis/fert/rrf/obj/rrf15-08.pdf
下水汚泥を施用した土壌のカドミウム収着特性
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/077/mgzn07707.html

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