食のPFAS汚染は今後、世界が直面する大きな問題にならざるをえない。汚染企業の責任追及と共に早急に取り組まなければならないのは下水汚泥肥料の規制だ¹。
米国では下水汚泥を肥料の原料にすることが盛んに行われたがその結果、800万ヘクタールの農地がすでに永遠の化学物質と言われるPFASに汚染されてしまったという。下水の中にPFASが紛れ込み、それが肥料の中に入って、農地を汚染してしまう。その結果、特に問題なのは家畜の飼料にPFASが入り込み、家畜の体の中で生物濃縮されてしまう。だから畜産物のPFAS濃度が危険なレベルに上がってしまう。
ガーディアン紙はテキサス州のある農場で、水は連邦政府の勧告の1万3000倍のPFAS汚染されており、その農場の肉はなんと25万倍の汚染になったという²。被害を受けた農家は下水汚泥肥料を売っていた企業に対して訴訟を起こした。メイン州はすでに下水汚泥肥料の利用を禁止し、PFAS汚染に苦しむ農家の救援計画を進めている。そして、今、米国では下水汚泥肥料を認めた環境保護庁(EPA)に対する訴訟も起きており、下水汚泥肥料の禁止を求めている³。
また米国の市民団体は農務省(USDA)と環境保護庁に有害な下水汚泥肥料利用禁止を求めるオンラインキャンペーンを行っている²。
この同じ時代に、日本ではその逆のことが進行している。農水省と国交省が予算を出して、下水汚泥肥料の増産を図り、利用を促進するためのセミナーを開いて、宣伝に力を入れているのだ(添付図参照)。実際に琉球新報は佐賀県の下水汚泥肥料から高濃度のPFASが検出されたことを調べ、報道している⁴。農水省は米国で起きていることを知らないはずがない。農水省の官僚に質問したが、メイン州の動き含めて知識としては知っていた。それにも関わらず規制するどころか、実態把握もしようとせずに販促に努めているのだから、これは確実な確信犯と言わざるをえないだろう。国交省のマニュアルには一言もPFASのことは触れられていない⁵。
下水汚泥をバイオ炭にすることができればPFASを無害化できるという話もあるようだ⁶。ただし、下水汚泥で問題なのはPFASだけではない。カドミウムなどの重金属や放射性物質の存在もある(以前はセシウム100ベクレル/kg以上は放射性汚染物質として隔離する必要があったが、原発事故後、400ベクレル/kgまで下水汚泥肥料の原料として許容されたままだ)。
問題が起きたら、名前を言い換える。下水汚泥は印象が悪いからバイオソリッドと呼ぶようになるのだろう。名前を変えても問題は悪くなるだけ。米国のように下水汚泥の利用禁止を求める必要があるかもしれない。少なくともPFASなど有害物質の測定をすることは最低限必要だろう。それなしに農地汚染したら、その責任は農水省と国交省にあると言わざるをえない。
(1) 下水汚泥を原料に肥料を作る方法としては大雑把に言って、リン抽出と下水汚泥肥料を乾燥させたコンポストがある。リン抽出の場合、汚染物質が入らない技術が確立できていれば利用はありえるのかもしれないが、後者の場合は汚染を取り除くことはほぼ不可能で、下水汚泥に汚染があれば禁止せざるをえないだろう。後に触れるバイオ炭化は検討の余地があるかもしれないが。
(2) BIOSOLIDS-BASED FERTILIZERS ARE HARMING FARMERS AND EATERS ACROSS AMERICA
https://toxinfreeusa.org/biosolids-based-fertilizers-are-harming-farmers-and-eaters-across-america/
末尾にオンライン署名あり(ただし、米国内限定)
(3) 3月15日に米国での訴訟などについてまとめた投稿
https://project.inyaku.net/archives/10204
(4) 琉球新報「農作物への影響は? 沖縄より高い値の県も 米国で進む規制とは (下)」
https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-2371387.html
(5) 「バイオソリッド利活用基本計画(下水汚泥処理総合計画) 策定マニュアル(案)」
https://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/info/biosolid/030829.html
添付図は「下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」の資料から
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/221018_1.html
(6) バイオソリッドで「永遠の化学物質」PFASが農場に入り込むおそれ
https://bigissue-online.jp/archives/1081733444.html
貴重な情報をありがとうございます。感謝しかありません。