ウクライナへの戦争以降、化学肥料原料の不足・高騰が大問題となった。農水省は国交省と組んで、下水汚泥の肥料への活用を進め、全国の下水処理場でその施設の建設・増強が進み、安い下水汚泥肥料の利用が増えている。家庭菜園用に売られている肥料でも使われている可能性がある。
でも、この下水汚泥肥料(コンポスト肥料)を使うと何が起きるか、すでにわかっていることがある。その土壌中にカドミウムや作物中のカドミウムが増える、そしていったん入ったカドミウムは簡単に消えていかなくなるとする報告がある⁽¹⁾。
また地域のよっては放射性物質が下水汚泥に紛れ込む。政府は原発事故の後、下水汚泥の原料に許容される基準値をなんと400ベクレル/kgに緩和した。肥料の中には200ベクレルまで許される⁽²⁾。以前は100ベクレル越えたら放射性物質として隔離管理が必要なのではなかったか? この基準は原発事故後の2011年に設けられた。それから10年以上、変えられていない。
そして、地域によっては高濃度のPFASが含まれている。いったんPFASに汚染された土壌を除染する技術は確立されていない。だからこそ、米国メイン州は下水汚泥の利用を禁止した⁽³⁾。それなのに日本ではまだ土壌のPFASの測定方法も確定しておらず、基準すら設けられていない。
これらの汚染を取り除く技術がない以上、汚染させないことを至上命題に掲げなければならないのに、それもせず、基準も設けず、測定方法も確定していない段階で下水汚泥肥料を促進するのは間違っているのではないかと農水省に問うと、問題が出たら、考えますという対応だった。でも問題が出た時にはすでに遅いのだ。
農水省からしたら、カドミウムを吸わないコメができたから、カドミウム汚染は大丈夫、他も同様にできるだろう、ということなのか? 重イオンビームや「ゲノム編集」を使って、そうした品種を開発するつもりだろうか? 私たちの食はみなそんな遺伝子が損傷した食ばかりとなるのか?
しかし、そのようなテクノフィックス一本足打法はきわめて危うい。「コシヒカリ環1号」も交雑によって、カドミウムをほとんど吸収しない形質が失われる可能性があるからだ⁽⁴⁾。「カドミウムは吸収しないに違いない」と思っていたら汚染米になっている可能性がある。だからこそ、汚染させない政策と地域のカドミウム汚染を着実に減らしていく総合的な施策が不可欠になる。でも、汚染させない政策は麻痺し、汚染をなくすための総合的な施策はむしろ後退している。
このままでは日本は汚染列島になってしまう。この政治を変える必要がある。
(1) 新潟県農業総合研究所研究成果
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nosoken-seika/seika-kyotu.html
「畑地に汚泥コンポスト肥料を多量施用した場合のカドミウム汚染リスク・畑地に汚泥コンポスト肥料を多量施用すると、土壌pHが低下し、土壌カドミウム含量、大豆作物体および子実カドミウム含量が増加する。さらに、4年間連用後施用を中止しても、少なくとも1年は汚染リスクは解消されない」
(2) 放射性セシウムを含む飼料の暫定許容値の見直しについて(2011年)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/shizai_2.html
(3) Maine bans use of sewage sludge on farms to reduce risk of PFAS poisoning
https://www.theguardian.com/environment/2022/may/12/maine-bans-sewage-sludge-fertilizer-farms-pfas-poisoning
(4) 山口県農林総合技術センター 業務年報 2023年11月
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nosoken-seika/seika-kyotu.html
「「コシヒカリ環 1 号」において、出穂期や草丈が異なる異型株の発生が認められ、玄米中のカドミウム濃度も昨年以前の値と比べると高く検出された。」