モンサント・バイエル・住友化学時代の終わり

 圧倒的な力のある勢力によってすさまじい勢いで社会が変わり、それにはもう、なすべき手はないように思えてしまうことがある。でも、現実から目を遠ざけてしまえば、その無敵であるかのような勢力は実は大きな問題を抱え、没落の恐怖に慄いていること、そして、実に醜い手を打って、その没落のシナリオから逃れることを許してしまう。希望は現実の中にある。それを見逃してはならない。
 たとえばモンサント・バイエル・住友化学がまさにその典型だ。世界でもっとも売れたモンサントの農薬ラウンドアップ(有効成分グリホサート)は、その有害性ゆえ、次々と禁止・規制の動きが世界で起きる。でもその動きを米国政府が圧力をかけて撤回させる。
 しかし、いくら圧力をかけても、ラウンドアップの現状は厳しい。耐性雑草が増えて、効力を失う。さらには多くの人に健康被害が出た。その動きに鈍感なバイエルがモンサントを買収したが、その結果、モンサントが抱えていた構造的な債務を引き受けることになる。ラウンドアップ訴訟で16万7000件もの訴訟が起こされ、バイエルはすでに多額の賠償金の支払いを余儀なくされたばかりか、今なお5万件を超す訴訟に直面している。バイエルの株価は7割下落し、リストラを余儀なくされている。
 ラウンドアップのみならず、遺伝子組み換え作物も深刻な事態に陥っている。メキシコは2020年末に遺伝子組み換えトウモロコシの輸入とグリホサートの使用を2024年末までにフェーズアウト(段階的禁止)させる大統領令を発した。
 米国人にとってトウモロコシは家畜の飼料、せいぜい加工食品の原料やバイオ燃料の原料に過ぎないが、メキシコ人にとってトウモロコシは主食であり、トルティーヤのように調理の後、直接、人が食べ、量も米国人平均の10倍に及ぶ。
 そして遺伝子組み換えトウモロコシの毒性は高まるばかりだ。以前は虫を殺す毒素を1つだけだったが、それが今や5つくらいが当たり前になり、以前はその毒素は2〜6ppm程度であったのに、現在では50〜100ppmと激増している。害虫が死ななくなったために、毒素の種類も量も増やされているからだ。さらに耐性雑草も増えたため、残留するグリホサートの量も増えている。つまり遺伝子組み換え作物はより有害になっている¹。
 米国からの輸入遺伝子組み換えトウモロコシはメキシコの在来種のトウモロコシの遺伝子汚染の原因となっている。メキシコは世界のトウモロコシのふるさとの国の一つである。あらゆる意味で、メキシコにとって容認できない状況なのだ。
 
 今、バイエルには2つの道しか残されていないと思われる。買収したモンサントの事業の失敗を認め、ラウンドアップ、遺伝子組み換え作物の事業を清算すること、あるいはさらなる債務の拡大によってさらなる低迷の道をいくかのどちらかだ。しかし、バイエルはもう1つの道を探っている。それは政治力によって反対を潰すという道だ。

 以前の世界の常識なら、米国に盾突くメキシコの訴えはすぐに粉砕されるはずだった。でもメキシコは圧力かけられても、揺るがなかった²。米国政府はメキシコの大統領令を米国からの輸出を不当に禁止するものとしてメキシコ政府を北米貿易協定違反として訴えた。米国が押しつける「自由貿易」に対する真っ向勝負が4年間にわたって続いている。
 この動きに対抗して、米国内からも、ラウンドアップや遺伝子組み換えトウモロコシを禁止するメキシコ政府の決定を支援する連帯の動きも始まった³。それはカナダやインドなど世界にも広がり、かつてない国際的な動きになりつつある。
 アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ボリビアの市民団体はラウンドアップや遺伝子組み換え作物によって環境や健康が被害を受け、人権が蹂躙されているとして、OECDにバイエルを訴えている⁴。EUでもモンサントの開発した遺伝子組み換えトウモロコシはトウモロコシの健全性を保つ上で重要な野生種テオシントを汚染する脅威があるとして、その栽培禁止を求める声が上がっている⁵。

 米国内のラウンドアップ訴訟は、一時的にバイエル側が勝訴することもあったが、ふたたびバイエル社にとって厳しい状況が戻ってきた。今なお、残る訴訟は5万件を超している。もうこのままではバイエルへの評判も地に落ち、賠償額だけでもすさまじい額になってしまう。もうさすがにお終いだろうと思ったら、バイエルは次の手を打っていた。つまり、ラウンドアップに対する訴えを門前払いさせようというのだ。
 その論法は以下のようなものだ。バイエルはラウンドアップの「安全性」を米国政府に認めさせた。その科学的根拠は怪しいものだったが、今やバイエルはその事実をもって、政府が認めている製品に対する訴訟は認められないとして、訴訟を門前払いするように今、州政府に圧力をかけている。そしてアイオワ州、アイダホ州、ミズーリ州、フロリダ州でバイエルのラウンドアップ訴訟を認めない州法案が提出されている。新たな「モンサント保護法案」と米国の市民団体は呼んでいる⁶。
 
 欧州裁判所はEU加盟国の農薬評価は違法であるという2つの画期的な判決を今月下している⁷。フランスでもグリホサートの遺伝毒性を指摘した報告書が隠されていたことが最近、明らかにされ⁹、問題になっている。ドイツ内閣はグリホサート規制案を承認した⁸。
 
 その政治的な力によって、市民の訴えを拒絶するという動きによって、今、かろうじて、バイエルは墜落することからやっと守っているというのが現実なのだ。果たして、それは持続可能だろうか? それは大いに疑問だ。バイエルにとっては、「ゲノム編集」作物に切り替え、遺伝子操作農薬と組み合わせて新たなビジネスモデルを作り出すまでの時間稼ぎに過ぎないだろう。それは成功するとは限らない。
 これまで大きな力を発揮してきた遺伝子組み換え企業の力には明らかな翳りがあり、世界の市民の連携は広がっている。
 
 コバンザメのようにこのモンサント・バイエルにくっついて市場を拡げていたのが住友化学である。その住友化学は今、過去最悪の3120億円赤字の見通しとなり、4000人のリストラに踏み切らざるをえない危機的な状況に陥っている¹⁰。その住友化学が経団連の会長として、日本政府の政策に多大な影響力を行使している。
 しかし、その力は揺らいでいる。もはやそれは地殻変動とも言っていい事態だ。大きく変わる時代がきている。

(1) Expert Panel to Mexico GM Corn Tribunal: Respect the Science
https://www.commondreams.org/opinion/gmo-corn-mexico-glyphosate
 メキシコ政府のグリホサート禁止は若干後退している。(3)の中の最後のReview 570 – Glyphosate and Other Pesticides and Toxicsを参照のこと。

(2) Mexico to further regulate GE food ingredients
https://www.freshfruitportal.com/news/2024/04/30/mexico-to-further-regulate-ge-food-ingredients/

(3) We Are Not the United States of Bayer-Monsanto: Stop forcing GMO corn on Mexico
https://toxinfreeusa.org/take-action/stop-bullying-mexico/
メキシコの決定を尊重することを求める米国市民団体によるオンライン署名

US health advocacy groups support Mexico in GMO trade dispute
https://www.thenewlede.org/2024/04/us-health-advocacy-groups-support-mexico-in-gmo-trade-dispute/

Resisting GMO Imperialism – Events in Mexico – March 2024
https://navdanyainternational.org/resisting-gmo-imperialism-events-in-mexico-march-2024/

Bio-imperialism vs. Bio-diversity
https://navdanyainternational.org/bio-imperialism-vs-bio-diversity/

Review 570 – Glyphosate and Other Pesticides and Toxics
https://gmwatch.org/en/main-menu/news-menu-title/news-reviews/20409

(4) In an unprecedented action, Latin American organizations denounced Bayer to the OECD for glyphosate-related damages
https://www.brasildefato.com.br/2024/04/29/in-an-unprecedented-action-latin-american-organizations-denounced-bayer-to-the-oecd-for-glyphosate-related-damages

(5) Testbiotech is calling for an end to the cultivation of GE maize MON810
https://www.testbiotech.org/en/news/testbiotech-is-calling-for-an-end-to-the-cultivation-of-ge-maize-mon810/

(6) THE BAYER-MONSANTO PROTECTION ACT ON STEROIDS IS ROLLING OUT ACROSS THE COUNTRY. IS YOUR STATE PASSING THE LEGISLATION?
https://toxinfreeusa.org/the-bayer-monsanto-protection-act-on-steroids-is-rolling-out-across-the-country-is-your-state-passing-the-legislation

(7) EU Court: member states do not properly carry out pesticide assessments
https://www.pan-europe.info/press-releases/2024/04/eu-court-member-states-do-not-properly-carry-out-pesticide-assessments

(8) German cabinet approves restricted use of herbicide glyphosate
https://uk.finance.yahoo.com/news/german-cabinet-approves-restricted-herbicide-133632060.html

(9) Glyphosate’s “Hidden” Report
https://www.pan-europe.info/blog/glyphosate%E2%80%99s-%E2%80%9Chidden%E2%80%9D-report

(10) 住友化学、「危機レベル」過去最悪の赤字見通し 人員4千人削減へ
https://digital.asahi.com/articles/ASS4Z3G77S4ZULFA01VM.html

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